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例えるなら、真っ黒で角のない鹿のような見た目だ。顔には口や鼻といった器官は見受けられず、目玉鬼のそれとよく似た大きな一ツ目だけが覗いている。
「コイツは目玉鬼や百々目鬼の近縁種だ。個体としての強さは中位種並みだが、群れで行動する上に、面倒な能力を持ってる」
「空間操作系の異獣か?」
資料を横から覗き込んで注釈を入れるシブキに、勇輝が尋ねる。
「それに近いがちょっと違う。影踏み鬼が干渉できるのは、自分で踏んだ影だけだ。影の中に小規模な空間生成、それと一番厄介なのが、影を踏んだ相手に変身できるとこだな」
「となると……乱戦に強いのか」
「けど、影踏み鬼は群れで動く。つまりこっちも集団戦を強いられるワケだ。オマケに変身した相手の力に比例して強くなるから、強い奴で固めてもそんなに意味はねえ」
「それは――」
対策がないのでは、と言いかけた勇輝を、谷北が「いや」と遮った。
「抗う術はある。変化した鬼には添う影がないのだ。真髄さえ見極めてしまえば、我が颶風には遠く及ばん」
「暗所じゃ影が見えない分不利だけどな。光に弱えから、照らしてやンのも手だ」
「光……"射光線"の応用でいけるか」
谷北とウェルテクスから情報を聞いて、勇輝はさっそく作戦を考え始めているようだ。熱心なものだと感心し、ウェルテクスの頬が少し緩む。
「じゃ、オレらはこの辺でお暇しようかな。シブキさんの相方も、色々浮かんできてるみてーだし」
「悪いな、わざわざ来てもらっちまって」
「構わん。報告事項がなくとも、見舞いには来る予定だった。先日の礼もまだ言えてなかったからな」
谷北が発した言葉に、シブキは心当たりがないと言いたげに瞬く。
「礼? 俺、お前らになんかしたっけ?」
「角獣の一件だ。誠司たちと同じ任務だっただろう」
そう言うと、谷北は真っ直ぐにシブキを見上げる。
「なかなかの死闘だったと聞く。事実、炎龍の傷はひどいものだった。誠司が生還できたのは、彼とお前たちのおかげだ。誠司の友として、しっかり礼を述べておきたかった」
「……あー、そういうことか」
そこまで言われて、シブキは得心がいったように口角を緩めた。
谷北と日向は龍使養育学校――その名の通り、龍使い見習いのために開かれる短期の学校――からの同期で、同い年だ。異獣に故郷と家族を奪われ、それがきっかけで若くして龍使いを志した少年たち。同じ境遇の彼らの間に深い絆があることは、シブキもよく知っていた。
それに、彼らにはもう一つ、失ったものがあることも。
「気にすんなよ。俺もグレンも、やるべきことをしただけだ」
「炎龍もそう言っていた。お前たち兄弟はよく似ているな」
「戦龍ならみんなそう言うさ」
シブキが悪戯っぽく笑ってみせれば、真剣みを帯びていた谷北の表情も柔らかく変化する。
「やはりお前は、我が盟友が認めただけあるな!」
「翔、オマエのそれ誰目線なんだよ」
「まあ、そういうことだ。では失礼するぞ、二人とも」
「気をつけてな」
軽く手を振って退室した谷北たちを追って、勇輝も戸締まりのために部屋を出る。
ようやく静かになった自室に、一人。シブキの視線は、何となしに窓の外に向けられた。




