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焦りの滲む声でそう叫んで、由紀は慌ただしく部屋から出て行き――十秒とかからず戻ってきた。
「忘れ物でもしたか?」
「これ!」
シブキの問いには答えず、由紀は持っていた紙袋を半ば押し付けるように渡して。
「よかったら食べて! じゃあね、バイバイ!」
「おー、ありがとな……って、聴こえてねえか」
そそくさと階段を駆け下りていった由紀に苦笑しつつ、シブキは両手で抱えた紙袋を近くの机に置く。隣の勇輝は嫌そうに眉を曲げた。
「……玄関の鍵、閉めてくる」
「おう」
どこか憤りの感じられる背中を見送った後、堪えきれなくなったウェルテクスが笑い声を上げた。
「にしても、聞いてた以上に騒がしいお嬢さんっすねえ! ありゃ支部長も面白がるワケだ!」
「迅雷……いや、あれは嵐だな」
「おめーの喩えが理解できたの初めてだよ、谷北」
実際、由紀を喩えるには最適の言葉だ。とにかく騒がしいのが彼女の特徴であり、取り柄であり、短所である。二度目に支部で会い告白された時の、なんとも言えない衝撃が思い起こされる。
少しして、勇輝が部屋に戻ってきた。肩を落として疲労をあらわにしていた勇輝だったが、ウェルテクスが「さて」と口を開くと、わずかに姿勢を正した。
「遅くなっちまったけど、シブキさんらに話しとかなきゃいけねえことがありまして」
「支部長から言伝があってな。見舞いついでに伝えてくれ、と」
「大方そんなとこだろうと思ってたよ。……で、何が出たんだ」
先読みするような言い方でシブキが問う。それもそうだ。支部長――柚木からの言伝といえば、話の内容には粗方察しがつく。
話し始めたのは谷北だった。
「お前たちも勘づいているとは思うが……ここ最近、各地で異獣の出現頻度が大幅に増している。加えて、中位種以上の異獣が通常より頻出している。まずはその二点が、協会の懸念だ。お前たちが担当した先の角獣戦においては、かの八岐大蛇の幻影も現れたと聞いた」
「ああ……アレか」
ほとんど無意識に呟いたシブキの横で、勇輝も少し前の光景を思い出して眉を寄せている。
「現状、お前たちの他に奴の目撃情報はない。そちらの件は龍界に調査を任せている。俺たちは目下、顕現し続ける異獣の対処を優先する」
こういった重要な連絡の際には、谷北は存外事務的な言い方をする。むしろ普段の複雑怪奇な喋りよりも、どことなく饒舌なような。シブキはふとそう感じたが、今はそんな無駄口を挟むべきときではないとわかっている。
「で、その一環で、情報解析課が波動探知機をアップデートしまして。最近は"狂化"による探知漏れも目立ってたんで。前より薄い波動や瘴気、あとは歪みなんかもキャッチできるように改良したんすけど。そいつにまあ、早速引っかかったと」
「来たる異獣は――上位種・影踏み鬼。数体の群れを確認している」
真剣なトーンで出されたその名に反応して、シブキが眉を寄せた。
「また厄介なのが出てきたな」
「ああ。……それと黒神、お前にはこれを渡しておく。敵の資料だ」
谷北がショルダーバッグからクリアファイルを取り出し、勇輝に手渡す。ファイルの中には何枚かの書類が入っており、一番上の書類には影踏み鬼と思われる異獣の写真が貼り付けられている。




