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先ほどまで服で隠されていたシブキの細い腰には、広範囲にわたり白色の包帯が巻かれていた。「大したことがない」と表現するには、いかんせん無理のある有り様だ。
「おい、お前なあ」
絶句してしまった由紀を見かねたようで、シブキが勇輝の手を引き離した。しかし勇輝も、まだ何か言いたげな表情だ。
「少しは自分の身に危機感を持て。受けたダメージの大きさがわからないほど馬鹿じゃないだろう」
「ンな顔すんなって。傷はちゃんと治ってんだろ?」
「そういう話じゃ――」
勇輝がわずかに声を荒げて文句を言おうとする――が、その言葉は突如鳴り響いたインターホンの音によって途切れてしまった。
それがなんとも絶妙なタイミングだったもので、三人の間に束の間の静寂が訪れる。
「……はあ」
沈黙を破ったのは勇輝のため息だった。
「出てくる」
短く告げ、勇輝は再度部屋を出て行った。
二人が残された部屋には、なかなかに微妙な空気が漂っている。普段は明朗なシブキも、今は率先して口を開こうとはしない。
とりあえず何か言わなければと思って、由紀が躊躇いがちに顔を上げた。
「……ねえ、シブキくん」
「ん?」
声に反応して向けられた海色の瞳に、何故か怯んでしまいそうになる。それでも言うべきだと、そう思った。
「シブキくんが一番わかってることだろうし、私が言うことじゃないとは思うんだけどさ。……黒神、あれでもシブキくんのこと、本気で心配してるよ。たぶん、誰よりも」
由紀の言葉に、シブキは何も言わないまま、ただ静かに目を逸らす。
何も言わないほうがよかったのだろうか。そう思った由紀が拳を握り締めたとき、シブキが重たい口を開いた。
「そうだな。アイツは一番、……なんなら俺よりも、俺のこと気にしてくれてる」
「じゃあ、」
「わかってるさ。無理すんな、って言いたいんだろ?」
頭の後ろに両腕を回して、シブキは少し困ったような笑みを浮かべた。
「これでも、割と善処してる方なんだぜ」
――駄目だ。由紀は直感的にそう理解した。シブキは勇輝の憂慮をわかった上で、受け流しているのだ。その真意までは由紀にはわからなかったが、彼の中にどうやっても引けない事情があるということは見てとれた。
今のシブキが心から笑っていないことにも由紀は気づいていたが、言及できずに寂しそうな笑顔を向ける。
「そっか。そうだよね。ごめん、変なこと言って」
「お前が謝るこたァねーだろ。俺のために言ってくれてるってのはちゃんとわかってるよ」
ついに返す言葉が見つからなくなって、今度は由紀が黙り込んでしまった。
そしてやってくる、何度目かの沈黙。……の中で、ふと。
「重傷なんだろう、平気なのか⁉︎」
「うッ……るさいな、大声選手権なら他所でやれ!」
一階の方から声がする。最初に聞こえてきたのは由紀が知らない少年の声だ。何やら勇輝と言い合っているらしい。
「……黒神が怒鳴ってる」
「珍しいな。ただでさえご機嫌斜めだってのに、いい具合に相手が悪かったみてーだ」
「あいつがキレ散らかしてるの、ちょっと見てみたい」
「面白いことになってそうだよな」




