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「心の問題?」
「ああ」
男性にしてはやや長めの睫毛が落とす影の下、伏せられたアメジストの瞳が不安そうな色を宿す。
「前から無茶ばかりする奴ではあったが、最近それが明らかに増えた。上位種異獣との交戦の度、あいつの焦りが増している。……俺の力不足も、大きいが」
「アンタの? どういうことよ」
「今回のあいつの怪我は、俺を庇って負った傷だ。あの時、俺がもう少し――」
「……なにそれ」
勇輝の言葉を遮って、由紀は不満げに口を曲げた。
「アンタだって焦ってんじゃない。シブキくんを支えたいんでしょ? だったらアンタが焦ったら意味ないじゃん。カンペキに戦えるんだったら、異獣なんてとっくにいなくなってるでしょ」
放たれたのは、戦力になれない由紀が言うにはあまりにも重い言葉だ。戦場に立てないからこそ、彼女は勇輝が見落としたものを見据えていた。
「アンタもシブキくんも同じだよ。自分がカンペキにならなくちゃって焦ってる。力不足とかなんとか言っちゃってさ、それをお互いカバーするのが相棒じゃないの?」
感情任せに大きくなりそうな声を抑えて、平静を装って由紀は言う。
真っ直ぐに突き立てられた正論に、勇輝は一瞬ハッとしたように目を見開いたが、すぐにいつも通りの読めない表情に戻った。
「……そう、か。それもそうだな」
「何よ、納得いかないわけ?」
「いや。お前もたまにはもっともらしいことを言うんだなと」
「はあ〜⁉︎ 何その、いつもは言ってないみたいな言い方!」
「事実だろう」
心なしか最初よりも晴れやかな声色で言うと、勇輝はさっさと階段を登り始める。
「行くぞ」
「ちょっと、自分から振っといていきなり切り上げるのやめなさいよ!」
「文句の多い客人だな」
「客の扱いがずいぶん雑な主人ですね〜‼︎」
「……まあ、」
真ん中辺りまで登ってから、勇輝はふと立ち止まる。
「おかげで吹っ切れたよ」
「ちょっいきなり止まっ……ん? なんか言った?」
「……」
ドタバタと騒がしく駆け登ってきた由紀の耳には、控えめに落とされた勇輝の台詞は届かなかったらしい。勇輝は少し呆れた顔をしたのち、はあ、とため息をひとつ漏らした。
「えっ? ホントに何?」
「馬鹿でも捻る頭はあるんだなと感心しただけだ」
「ばっ……何様よこの頭でっかち〜‼︎」
「あまり騒ぐと追い出すぞ、猪」
「は〜ムカつく……!」
そうこうしているうちに二人は二階にたどり着く。先導する勇輝は三部屋の中から一番左の部屋へ向かい、扉を軽くノックしてから入室する。
「シブキ、来客だ。うるさいのが来た」
「やっぱ由紀か。相変わらず元気そうで何よりだぜ」
部屋のベッドに座っていたシブキが、由紀の方を見てけらけら笑う。勇輝と同じように、一見すれば負傷しているようには見えない。
「シブキくん、大怪我したって聞いて見舞いに来たんだけど、大丈夫?」
「ありがとな。けどまあ、大したことはねーよ」
その一言を聞いた途端、勇輝があからさまに不機嫌な顔をした。無言でシブキに近づいていくと、彼のジャージをインナーごと捲り上げる。
予想外の行動に、由紀は慌てて自分の目元を両手で塞いだ。
「ちょっ、黒神アンタ何して……」
「いいから見ろ」
いつもより一段低い声がそう指示したので、恐る恐る由紀は手をどける。




