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入室してきたのはヒョウだ。神妙な面持ちでいた彼だったが、弟の視線を感じると表情を和らげる。
「おや。お前はもう起きていたんだね」
勇輝がまだ寝ていることに気を遣ってか、小さい声で言い、シブキの寝台へと近づく。
「シブキ。お前はまた、随分な無茶をしたね。死にかけだったじゃないか」
「ちゃんと生きてるよ。無茶だったら勇輝も、一目連さんだってしてた。……それにさ、俺が出てなきゃ、こいつが死んでたんだ」
今日はあまり、とやかく言われたくはなかった。正しいと思うことをしただけなのだ。
「俺は最悪、心臓止まったって再生できるけどさ。こいつはそうはいかないだろ」
シブキは龍で、勇輝は人だ。種族が違う以上、命の脆さも異なる。
シブキが天秤にかけたのはそれだ。どちらの命の方が脆いか。
どちらが犠牲になるのが、最善か。
「それはそうだが……」
「自分の身を大事にしろ、だろ? 俺だって死ににいったわけじゃない。けどさ。自分ばっか大事にしてたら、何も守れないよ」
初めてだった。シブキが兄に対して、ここまで淡々と言葉を連ねたのは。
彼の言うことは確かに事実だ。故にヒョウに反論の余地はなかった。しかし普段なら、それでも釘を刺していた。
そうできなかったのは、シブキの言葉と声色と波動に、狂気的なまでの何かを感じたからだ。
何を言っても無駄だと――そう、悟ってしまった。
シブキは珍しく黙り込んだ兄から目を逸らし、硝子の向こうの景色に視線を移す。
薄く映った自分の姿が、いやにちっぽけに見えた。
「……もう、なんにも失くしたくないんだよ」
小さな呟きは、果たして誰に対して向けられたものなのだろうか。




