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「こいつにゃ……手ェ、出させねえ、っての」
止まっていない血で左の瞼を赤く染められながら、しかし輝きを失っていないタンザナイトで一目連をしかと見据えて。確かな意思を宿して、水龍は口元に三日月を浮かべてみせた。
「クッソガァッ……!」
「――どっちが、」
低く唸って、勇輝は"射光線"を目目連に放つ。容赦なく脳髄を射抜かれた目目連は、ようやく消滅を始める。
ひどく冷たい紫の瞳が、消えてゆく異獣の骸を見下ろした。
「二度と面を見せるなよ」
「……こっわ」
ここまで怒りを露わにした相棒の姿を見たことがないシブキが思わず漏らすと、勇輝は不服そうに眉を顰める。
「余裕なら自力で歩かせるぞ」
「無理……」
さすがにそこは素直に認めて、シブキは大人しく相棒に身を預ける。
そこに一目連が駆け寄ってきた。宿敵を討ち取ったにも関わらず、表情は冴えない。
「二人とも、怪我は?」
「俺は少し掠った程度ですが、こいつが……」
全身の至る所に刺し貫かれた穴が残るシブキの姿はひどいものだ。人間なら確実に死んでいる。
「すまないな。君たちを危険な目に遭わせてしまった。私の甘さと弱さが招いた結果だ」
「……けど」
悔しそうな顔で謝罪する一目連を真っ先に否定したのは、一番負傷が大きいシブキだった。
一度苦しげに咳込んで、血の気のない顔を上げて。
肩で息をしながら、それでも力なく口角を上げる。
「全員、生きてます。ちゃんと」
喘鳴を交えた弱々しい一声は、しかしその場の誰よりも力強く響いて。
「…………君は、」
一目連の隻眼に涙が溜まる。優しき水神の悲痛な声につられて視界が潤んだが、勇輝はそれを堪えて、誤魔化すように空を仰ぐ。
「本当に、強い龍だな……!」
曇天だった空に、晴れ間が差していた。
うっすらと瞼を上げる。少しずつ開いていく視界に、無機質な天井が映った。夕焼けのオレンジ色が窓の外に広がっている。
シブキがふと隣を見ると、自分と同じようにベッドで寝かされている相棒の姿があった。
ここは協会支部の医務室だ。恐らくは、一目連がここまで送り届けてくれたのだろう。
曖昧な記憶を手繰りながら、ぼんやりと思考を回し始める。
(……あの後気絶したんだな、俺。勇輝も相当消耗してたはず)
勇輝の波動術は、己の波動を武器に変える術だ。波動とはいわば生命エネルギーそのもの。技にもよるが、酷使すれば神経をすり減らす。
"射光線"はほとんど消耗がないが、"精神隆起"や"結界陣"は結構な疲労を伴う。特に、一瞬とはいえ敵の動きを止める大技である"精神拘束"は、日に三回以上使えば身の危険を招くほどだ。
勇輝は目目連との戦闘で、"精神隆起"を最大出力で繰り出した。事実、あの時シブキが見た一目連の波動は異常なほど活性化していた。一目連自身が己を奮い立たせていたのもあるが、それにしてもあれはやりすぎのレベルだ。
おまけに瘴気もかなりの濃度だった。あの環境であんな滅茶苦茶な技を放ったのだから、彼の疲弊も相当なものだろう。
(こいつにはあんまり、無理させたくなかったなあ)
後悔が湧いてきたところで、かちゃり、と部屋の扉が開く。




