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でも。だからって、迷いもなく。
目目連の触手が、水龍の肉を抉って離れていく。力が抜けて崩れ落ちた相棒の体を、勇輝は後ろから受け止めて支えた。
「シブキ! おい、しっかりしろ!」
相棒の悲痛な叫びに、シブキは薄く目を開けた。口を開いても声が出ない。
彼の苦痛を想像する時間すら、今の勇輝には許されていない。次の行動を考えなければならなかった。
少なくとも息はある。生きている。龍だから核がやられなければ再生できる、大丈夫だ。わかっている。焦ってはいけないとわかっている。
それでも心臓の奥から湧いて出る焦燥は、勇輝の平静を確実に奪っていく。
そこに。
「勇輝くん」
もう一匹の水龍ーー水神の、凪いだ声が飛ぶ。
「波動強化、頼む」
「…………ッ、はい!」
一目連への返事は震えていた。それでもここで挫けてはいけない。ここで自分が凛としていなければ、シブキを余計危険に晒すことになる。
ようやく、勇輝の理性に心が追いついた。
目目連は先ほどの攻撃で相当な隙ができている。第一波よりも触手のスピードが速かった。であれば硬直時間も長いはずだ。この隙を逃せば、勝機はないと思うべきだ。
揺れる波動を必死に制して。持てる全てを、一目連に託せ。
「最大出力――波動術、"精神隆起"‼︎」
言葉に呼応し、勇輝の術によって強化された一目連の波動が大きく波を打つ。それは一匹の龍とは思えないほどに濃く、強く、荒々しいものとなる。
殺気にも似た強烈なそれを纏う一目連の青い瞳は、言い表せない義憤を湛えていた。
「……いい波動だ。これなら私は、お前に負けない」
「チィッ……‼︎」
ようやく動けるようになった目目連が、攻撃の予備動作を見せる。
一目連も溢れる波動を集中させる。
「"嵐影湖光"」
「殺レ‼︎」
目目連の触手が、再度放たれた。
しかしそれらが触れる寸前、一目連の波動は荒波の如く大きく拡張する。触手はその勢いに負け、押し返されていく。
ついに水神の波動は目目連の領域の壁を破壊し、それを上回る強靭な結界として展開された。
「貴様、何ヲ……!」
「簡単さ。貴様の領域を上書きした」
「瘴気ノ領域ダゾ、ソンナコトデキルワケ、」
「ないさ、ああ、できるはずがない。なかったんだ。だがな」
その声は、ひどく静かに落とされた。
「――怒っているのだよ。私と彼は」
指で指されなくとも、視線を受けずとも、「彼」というのが誰であるのかは明らかだ。
「さあ、在るべき場所へ還るがいい。――"水刃・蓮華往生"」
瞬間、結界の床として張り巡らされた波動の水が波紋を広げる。
そしてちょうど、目目連の足元から、巨大な蓮の花のかたちをした水柱が現れ、足掻く間もなく目目連を呑み込んでいく。それは鋭利な波動の刃へと変化し、内部に閉じ込めた獲物を切り刻んだ。
一目連が結界を解く。元の河川敷の風景が、勇輝の視界に戻ってきた。
これで終わりかと誰もが思ったその時、しぶとく生き延びた異獣による、悪あがきの一撃が迫る――が。
触手は勇輝には届かず、シブキの剣に斬り落とされた。相棒に支えられたままの姿勢で、ほとんど回復していないボロボロの状態で、それでも瞬間的に反応したのだ。




