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「嗚呼――オレ様ノ大嫌イナ顔ガ、勢揃イカ」
どこか機械音のように聞こえる声に温度はなく、まるで怨念だけで彷徨う亡霊だ。虚ろなだけの真っ黒な瞳が、呪い殺そうとするように三人を一瞥する。
「随分とやつれたな、目目連」
「ナンダッテ一目連ガクソガキ連レテ……嗚呼クソ、面倒ダ、面倒ダ」
――刹那、瘴気の風が唸りを上げて渦巻いた。その竜巻に覆い隠された目目連の双眸が、否、全身の全ての眼球が、憎悪を宿して真っ赤に燃え上がる。
「全部殺セバ、オレノ手柄ダ」
不気味さを増して発せられた声とともに、目目連の身体中の目玉から棘のついた触腕が伸びて、一斉に襲いかかる。
かわそうにも、床からも触腕が生えてきて三人の足首をそれぞれ拘束しており、そう易々とは動けない。かといって振り解いている暇もない。
「くそっ……波動術――"結界陣"!」
咄嗟に波動の盾で身を守った勇輝と同じように、シブキや一目連もそれぞれ小規模な結界で己を包み、猛攻を耐え忍んでいる。
「……チッ。小賢シイ」
初っ端から派手に動いた目目連だったが、攻撃は全て防がれた。一度立て直そうと触腕を引き戻す。
そこに生じた隙を、一目連は見逃さない。
「"綿津見・波濤"‼︎」
一目連の波動は大量の水に変化し、大波と化して床の触手を引き剥がしながら目目連へと迫る。大部屋を埋め尽くすほどの万水が凄まじい勢いで襲いかかるが、目目連は翼を前に持ってきてその一撃を受けきった。
波が失せると、目目連は何食わぬ顔で翼を下ろす。無傷だ。
「今のも効かねえのかよ……!」
「ここは奴の領域内だ。物理法則もすべて奴のいいように作用する。どうにかして引きずり出さねば」
領域の攻略手段は二つ。領域を上回る質の結界で上書きするか、術者の意識を途切れさせ、強制解除させること。
しかし前者は現実的ではない。通常なら、一目連の全力の結界で無理やり上書きすることは可能だ。しかし今回、目目連は"狂化"している。実体化するほどの瘴気で生成された領域を上書きするのは、まず不可能だ。
ならば必然的に、手段は後者のみ。そしてそれができるのは、この中では勇輝だけだ。
「ここは俺が――」
「ソウソウ、貴様ダヨナァ、アノ時オレノ領域ヲ破ッタノハ」
勇輝が動き出す前に、目目連が勇輝を指差してそう言った。
「前ハ貴様ノセイデ全部台無シニナッタ。ナラ、今度ハ」
空気が、凍りつく。
「貴様カラ殺ス」
目目連とは一度戦っている。目目連の戦い方はよくわかっている。
それはつまり、目目連にもこちらの手の内は割れているというわけで。
さっきは三人に分散していた攻撃が、一点に集中する。
目目連の操る触腕がすべて、凄まじい勢いで、勇輝へと。
これは防げない。戦闘経験の浅い勇輝にも、感覚ではっきりわかる。ここで終わりだ。
己の死を確信して目を閉じた――が、衝撃はほぼなかった。腕や脚に棘がかすって流血してはいるが、生きている。直撃していないのだ。
目を開けて、息を呑んだ。
勇輝の眼前に、赤に染まった青いマントがあった。
「な、んで……」
理由なんて分かっている。そういう奴だ。自分の身なんて簡単に投げ出してしまうような奴なのだ。人間はあれを食らえば死んでいる。だが龍なら死にはしない。だから、犠牲を天秤にかけて。




