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「……弱気になってちゃ、ダメですよね」
そう言ったシブキの海色の瞳に、ようやく決意の色が戻った。
「今度は絶対、倒しきります。俺たちで」
空はまだ、雲で覆われている。
曇り空を反射した川は暗く濁っているように見える。しかしこの空気の淀みは、単純に天気が悪いだけではなさそうだ。
ヒビキから送られてきた地図を頼りに河川敷までやってきた三人は、薄暗い橋下に場違いな襖を見つけた。淀んだ気はそこから漂っている。
重々しく、纏わりつくようなそれに、シブキは顔を顰めた。
「瘴気、かなり漏れてますね」
「ふむ……普通に開ければ溢れてくるな。周りへの被害が心配だ。結界を張ってから行こう」
「お願いします」
一目連はシブキの返事に頷くと、ゆっくりと瞼を閉じ、意識と波動を集中させる。
「――"水域"」
言の葉に合わせ、一目連の波動が薄く引き伸ばされた水の膜のように展開し、襖とシブキたち三人の周囲を半球上にすっぽりと覆う。
結界を張り終わると、一目連は目を開けてシブキたちに向き直る。
「これで瘴気による被害は最低限で済む。ただ、我々が突入時に受ける瘴気は強くなるだろう。気の逃げ場がないからな」
「危険は承知の上です。お構いなく」
怖気づくことなく真っ直ぐに言い放った勇輝に、一目連は穏やかな笑みを向けた。
「いい度胸だ。君は強くなる」
それだけ言うと、一目連は表情を締め直し、襖に手をかける。
「では開けるぞ。二人とも、準備はいいな」
「はい」
「勿論!」
冷静な勇輝の声と、威勢のいいシブキの声を聞き届け、一目連の手が勢いよく襖を開けた。
途端、突風のような瘴気の塊が襖の中から噴き出す。霧となって実体化している瘴気は、確かな質量を帯びて三人を襲う。
その圧に、シブキの後ろで控えていた勇輝が少しふらついた。
「おい勇輝、お前ホントに大丈夫なんだろうな⁉︎」
「うるさいな……俺だって、この程度で負けやしない!」
尖った声色は、自分自身に向けた喝だ。
波動の強さとはすなわち、心の強さを意味する。瘴気に打ち勝てるかどうかは自分の心持ちにかかっているのだと、勇輝は理解していた。
故に、怒声を放って己の士気を高め、心を律し――瘴気の圧をも振り払う。
一見すればただの根性論だが、精神に直接影響を及ぼす瘴気に対抗するにはこれしかない。
「……へへっ、お前もちゃんと成長してるじゃねーか」
「これしきで染められるほど、純粋な波動じゃないんでな」
ニヒルに返した勇輝は、もうふらついてはいない。真っ直ぐに、目の前で渦巻く悪意の潮を見据えている。
勇輝が瘴気を振り払ったのを確認し、一目連が静かに問う。
「突入するぞ。いいか」
今更引き返す道理はない。決意を込めてシブキたちが頷く。
一目連を先頭に、三人は襖の奥――目目連の空間へと、足を踏み入れた。
内部は以前と随分違う様相だった。
前は部屋がいくつかあって、最奥部に目目連が控えていたが、今回は瘴気で禍々しく彩られた大部屋がひとつだけ。何の小細工もないというのはつまり、それほど目目連が自信を持っているということだ。
瘴気の中心部、悪意の根源は部屋の真ん中で待ち構えていた。
シブキたちの存在を認識すると、それはゆらりと頭をもたげる。




