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そうなれば敵は上位種異獣か、離反した龍や幻獣か。
最近再発生している百々目鬼の群れも気がかりだ。
――仮に。
百々目鬼の再発生と、今回の依頼が無関係でなかったとしたら、敵は。
「……もし奴なら、必ず」
静かに落とされたシブキの声は、止まない流水音にかき消された。
ノックの返事は早かった。雨が降っていたから、というのもあるのだろう。
鳴神探偵事務所の扉はすぐに開いて、ヒビキが二人を出迎えた。
「突然の呼び出しで悪かったな。入ってくれ」
声や表情の圧が、最初に出会った時よりもどことなく和らいでいるような気がする。先日の共闘は大きかったようだ。
「平気ですよ。一応、いつでも出れるようには備えてるんで」
傘を閉じながら、シブキは笑って返す。
龍と龍使いというのはそういうものだ。いつだって、異獣はこちらの都合など待ってはくれない。緊急依頼など日常茶飯事、むしろその方が多いくらいだ。
この業界で長く生きてきたシブキはとうに慣れているし、勇輝も龍使いになったばかりの頃こそ戸惑っていたが今はそうではない。非日常はすっかり彼らの当たり前なのだ。
事務所の奥にはセンリと、依頼主であろう男性が座っていた。
センリは二人が入ってくるのを見ると、にこりと黄色い目を細める。
「よく来たのう! 今回は重要案件じゃ。なんせ、李渦の守り神が依頼主なのでなあ」
「私などよりもむしろセンリ殿のほうが、守り神のようなお方なのでは……」
「私は探偵なんでのう。兼業は無理じゃ」
真面目そうな依頼主は癖の強い紺色の長髪で、現代東京にはそぐわない和服姿だ。髪は後頭部の高い部分で結ってあるが、前髪だけ右目を隠すように垂らされている。
けらけらと笑うセンリに少し不服そうな様子の依頼主だったが、咳払いをして切り替え、シブキたちの方に視線を向ける。
「すまない、申し遅れた。私は蛇龍族水龍の、一目連という者だ。李渦町に身を置いている」
「一目連」という名に、シブキの目が見開かれた。
「水龍、一目連……ひょっとしてあの?」
「心当たりがあるのか」
「そりゃそうだ、水龍の一目連といや、元第二階位の!」
勇輝の問いかけに対し、シブキはやや興奮気味の声で返答する。ここまではしゃいだ様子のシブキを勇輝は見たことがない。普段の彼といえば飄々としていて冷静で、子どもっぽい一面はほとんど見せないのだ。
「おや、知っとったか」
相棒の知らない一面に若干驚いている勇輝とは対照的に、センリは微笑ましげな口振りだ。
「こやつは……一目連は数百年前まで、龍界で第二階位の戦龍として活躍しとってな。最近引退して、江戸時代の中頃に李渦に移ってきたんじゃ」
シブキのような、異獣との戦いの最前線に立つ龍たちは戦龍と呼ばれているが、彼らにも階位がある。
第二階位は、龍を統べる王たちが属する第一階位に続く、龍界の中でも指折りの実力者たちだ。シブキの属している第三階位も相当だが、第二階位の龍は格が違う。
しかしセンリの紹介に、一目連は首を横に振った。
「私は、そこまで大層な者では」
「そんなことないですよ、あなたが救った龍はたくさんいるじゃないですか! 単純な強さだけじゃない。どんな状況でも先陣切って守りに行く勇敢さ、決して逃げない度胸。戦龍に必要なものをあなたは全部備えて……」
「……シブキ」




