68.ゴブリンにも誇り
狭い坑道では人間よりも背丈が低いゴブリンのほうが動きが早く融通が利く。坑道ゴブリンならC級冒険者より若干劣る程度、未熟なら非常に危険だ。
C級冒険者達も別のルートを進んでいるはずだが、最悪死人は出ているかもしれない。
「ギネガ・ギュネー、ゴブリンの頭を仕留めに行こうか」
不思議な事だが、ゴブリン族は頭を仕留められると、群れに属する全てのゴブリンの力が突然落ちる。
何かしらの繋がりがあるはずだが、それは魔導士ギルドによって研究がなされているが、いまだに不明なままだ。
何匹も現れるゴブリンを打ち倒しながらいくつもの坑道の分岐を抜け、比較的広い空間に出る。そこには多くの動物の骨が転がっており、奥には骨で出来た玉座が置かれている。
立派とはいえないが、全身に骨の防具を身に着け、骨の冠を身に付けているが、自前の角がないためまだゴブリンチーフのようだ。
だが珍しい雌のゴブリンチーフ、体躯も大きく人間より僅かに小さい程度で、堂々と骨の玉座に腰掛けている。
城崩し 鈴風を取り出そうとして、倉庫に戻していなかった事を思い出した。ナルタが回収してくれているといいのだが、今は武器がない事をどうにかしないといけない。すでにアイスツインソードを取り出している為、新たなに武器を作り出すのは難しい。
「仕方ない。 ギネガ ギュネーはゴブリン達を頼む」
ギネガ・ギュネーでも勝てるかもしれないが、坑道から徐々に集まりつつある坑道ゴブリンの相手をさせておき、その間に仕留めてしまいたい。
側に控えていた坑道ゴブリン二体が骨の剣で切りかかってくる。前に出た一体のゴブリンの腕を掴み、そのまま振り回してもう一体のゴブリンに叩き付ける。肉と骨が潰れる音が響き、ゴブリンは絶命した。やはりB級になったことで、力を隠す必要性がない戦いは精神的にも楽でいい。
「ん?」
ゴブリンチーフは武器を捨てると拳を握り締めた。理由はわからないがどうやら素手で戦いたいようだ。自ら有利な武器を捨てるとは何か考えがあるのだろうか。
振り上げられた拳を受け止めるが、随分と重さがない。身体強化魔法を使わず自力のようだが、意図が読めない。
腹部を蹴り上げ、両手を掴むと玉座に向けて放り投げる。ゴブリンチーフは玉座を弾き飛ばし壁に叩き付けられる。だがまだやるつもりなのか、壁を支えに立ち上がった。
「まだ奥に居たのか」
坑道の奥から2体のゴブリンがこちらに向ってくる。玉座の奥なので寝室かと思ったが、まだ別の場所に繋がっているのかもしれない。
しかし、ゴブリンチーフは横を通り抜けようとしたゴブリンを捕まえ、頭から地面に叩きつけ殺してしまった。
血を吐き捨てながら立ち上がると、再び拳を握り締め再び向ってくる。ゴブリンにしては珍しくなんらかの誇りがあるらしい。
それならばこれ以上加減して戦うのは失礼にあたる。
「《アースガントレットダブルアーム》」
ゴブリンチーフは骨の剣を握りしめる。どうやら対等に戦って勝ちたいようだ。
「オォォォォ!!!」
自らを鼓舞するかのように雄たけびを上げ、大きく踏み込み上段から骨の剣が振り下ろされる。
半歩軸をずらし、振り下ろされた骨の剣を右腕のガントレッドで受け流す。そして左手でゴブリンチーフの腕を押さえると、胸部に拳を叩き込んだ。
胸部の骨を砕く感触と共にゴブリンチーフは血を吐き出し、数歩下がるとその場に座り込む。そのままこちらを向きながら何かを言っている。ゴブリン語はわからないが、その状態のまま、骨で出来た剣の持ち手を差し出すと、その刃を自らの首に当てた。どうやら殺せと言っているようだ。
殺してやるのも慈悲だが、殺してしまうには惜しいほどゴブリンにしては誇り高い。だが、殺さなければ繁殖してしまい、再びどこかの坑道を占拠してしまう。
剣を掴むと大きく振りかぶる。雌のゴブリンチーフは苦痛に顔を歪めながらもこちらを向くと、戦士としての誇りなのか覚悟を決めた表情を浮かべた。
骨の剣によって切り落された首をみると、表情は恐怖も何もなく、凛としたままだった。
「ギネガ ギュネー、出口に向う」
ゴブリンチーフの死体を亜空間倉庫にしまい、ギネガ ギュネーと共に坑道の出口に向うと、すでに戦果を確認している冒険者で溢れており、切り落した耳や手をギルドの出張買取に提出し報酬を得ていた。
1人のギルドの職員がこちらに気付き、書類片手に近付いてくる。
「おつかれさまでした。 標的はどのような相手だったでしょうか」
「ゴブリンチーフだ。 珍しい雌の」
亜空間倉庫から首を取り出し、ギルド職員に見せると、職員は担当者を呼び確認を始めた。
「これは・・・・・・希少ですね。 売却して頂けるなら3万エルンお支払い致します」
「売却は止めておく。 少々思う節があるので、特別に埋葬してやるつもりだ」
坑道をからすぐ近くの側に穴を掘り、その遺体を納め、炎で焼き尽くした後墓標代わりに骨の剣を立てる。そして仕舞ってあった酒を取り出し、剣のすぐ横に備えた。
ゴブリン族の誇りか、それとも個の誇りかは分からないが、誇りを持って戦い、誇りに死んだ相手を無下に扱うことはしたくはない。
「汝の誇り高き魂、来世は相応しき存在に成らん事を」
深く突き刺しておいた骨の剣が地面から抜けて倒れた。どうやら持っていけといっているようだ。
「そうか、では貰っていく。 感謝する、名もなき戦士」
剣を手に持ち腰に皮で括りつけると、白い影が天に昇り消えていった。
骨で出来た剣、ゴブリン族が好んで使う武器であるが、手を加えるにはゴブリン族に頼むしかない難物ではある。少数ながら友好的なゴブリン族が暮している、王都南西部の森にでも一度尋ねに行く事になりそうだ。




