63.乗船・出航
孤島郡の中でも中規模のシカク島に向う船が到着し、次々と人と荷物が降ろされる。
そこまで大きい船ではないが、片道3日間程度は問題なく航行できる比較的大きめの船だ。粗方荷物が降ろされると確認を村長が行い、次に送り出される荷物を載せ始め、最後に私も乗り込む。乗船費は村長から支払われており、片道はだけは載せてもらえるそうだ。
半日ほどで出航の準備が整い帆が張られると錨が上げられ港をはなれていく。船から島の方を見ると、怪我を治療した家族だけが見送りに着ていた。家族で手を振っており、他の村人の前で感謝を示さなかっただけで、感謝だけはしていたようだ。
船に乗り二日目、翌日の昼頃にはシカク島に着くのだが、外海は揺れが酷く、そして時折こちらの様子を伺う海洋魔物が気になる。
大型の魚類型で襲い掛かるタイミングを計っているようにみえるのだが、船員達も警戒してモリを片手に警戒を緩めていない。
「きたぞぉぉ!」
大声に振り返ると船の反対側に何体モノ海棲魔物、魚の胴体に人間の手足が着いた魚人が甲板に上がっていた。目が少し飛び出し手足もぬるぬるしなんとも気色が悪い。
「今夜の夕食は豪勢にいけるぞ! 油断するな!!」
手馴れているらしく焦った表情もなく、手空きの船員達は銛を両手に持ち集まり出す。しかしあれを食うというのか。
確かにダンジョンの魔物であるリザードも、食えたのだから海洋魔物も食えるのだろうが、さすがに手足が生えた魚を食う気にはなれない。
動きは鈍いがその口には小さな歯がびっしりしており、噛み付かれたら手くらいは持っていかれそうだ。
「《アイスシックル》」
左手に氷の鎌を作り出し投擲、一匹の頭に突き刺さるが効果がないのか平然としている。魚系の魔物は痛みに鈍いと聞いた事があるが、さすがに頭に突き刺さっても平然としているのは驚いた。
「そんなのじゃダメだ! こいつらは頭部を潰さないと効かないぞ!!」
船員達はモリを貫通させて甲板に固定し、頭部に手斧を叩き込みしとめている。水棲系の中でも特に海棲系は面倒だと聞いた覚えがあるが、こういう理由とは思わなかった。
「グレンもしっかり! 待ちに待ったお魚料理だよ!!」
「そうですね。 捕り立てならお刺身も出るかもしれません」
エルとリーアナはすでに豪勢な食事に意識が向いているようだ。確かに仕留め方さえ分かればなんてことはないが、万全ではない体を少しは、心配してくれてもいいのではないだろうか。
「わかったよ。 《アイスアックス:ワンハンド》」
左手に氷の斧を構成し、ゆっくりとこちらに向ってくる魚類魔物の頭に振り下ろす。真っ二つに頭を割ると、さすがに動きが止まりその場に転がった。
一週間程度休んでいるので体が鈍っているかと思ったが、状態は悪くなく右半身で魔力を使わない限り完治と思っていいようだ。
「やるじゃないか客人。 頭だけ潰してもらえれば身は沢山食えるし、今夜はサービスするぞ」
「それは、ありがとうございます」
船員達は最後の魚型海棲魔物を仕留め、手早く解体をすすめていく。
料理人が部位を別けて樽に仕舞い込んだり、その場で簡単に仕込んだりと忙しくしているのだが、なんとなくこの世界になれてしまったというか、生魚には少々抵抗がある。焼き魚や煮魚なら湖畔でもいくらか食べたが、今用意されているのはどうみても刺身にしか見えない。
豪勢な夕食の後、月の光を浴びるため甲板に出ていた。船員達も時折海を警戒しているだけで、静かな波の音だけが響いている。
「調子はいかがですか?」
「まだ6割といったところかな。 ただ全身に魔力を流す事に抵抗や痛みはもうない」
夜の魔力を全身に吸収し、傷跡が僅かながら黒い影を纏う。まだ魔力の量が増えると傷痕から霧散してしまうが痛みはない。
「現状で転移者に出会えば勝てません。 早急に治す事と力をもっと制御できるようにならなければなりませんね」
リーアナの言うとおり、全開状態にしても制御できれば良いのだが、まだ制御に至っていない。転移者と戦えば戦うほど無理をしているため、徐々に力が体に馴染んできているが、それでも次ぎ戦うときは6割制御できるかどうかだ。
「力を行使して戦えれば制御できる範囲は増えるかもしれない。 ただそれには」
「あの力を相手に戦える相手であり秘密を守れなければいけない。 ラクシャ達でも無理ですね」
「兄アークスか、義理姉ロータス様ならたぶん、ただ忙しい二人にそんな事頼むわけにはいかない」
全力を出して戦えるとなると十騎士団団長では正直力不足、兄アークスが全力を出してくれたのならこちらも力を出せるかもしれない。
「ですが、このままでは神命を果たせず殺されてしまうでしょう。 手段を選ぶにはグレンは弱過ぎます」
「こう、ば~んとパワーアップできないかな」
<弱過ぎる>エルとリーアナの言葉に耳が痛い所だが、前の転移者は、私に異空間に存在する対象に対して何も出来ないと思っていたようで、ほぼ奇襲の形になりなんとか倒す事ができた。
だが油断につけ込まなければ勝てない程度の力しかないのは間違いない。
「せめて剣の名を思い出せれば・・・・・・」
無数の白い腕が一本の魔剣を取り出し、両手で握り締める。
この剣が二度の戦いで確実に魔剣群の中核となっていると分かったが、治癒の魔剣や魔法の魔剣と違って全く引き出せず、極めて丈夫で力を完全に受け止められる剣としてしか使えていない。
「・・・・・・私はその剣は余り好きではありません」
「あたしもなんか嫌だね。 すっごく危険な感じがする」
エルとリーアナはそう言うと剣をじっと睨んでいる。
剣から片手を離すと再び白い腕が現れ、空間の狭間に剣がしまわれた。
「今は傷を治す事を優先し、力に関してはアークス兄さんと話してみるよ」
守秘できる環境を用意できるのも、対等以上に戦ってくれるのも兄アークス以外思いつかなかった。
「それまで無事だといいのですが」
「使いたがらない大技を使う事も考えなよ。 あの剣だらけの奴とか何もかも飲み込み奴とか」
「・・・・・・魂の罪過と大海嘯ならまだ制御できない。 どちらも使ったとして暴走状態に陥る」
どちらも前世で英雄や勇者など相手に使った大技だが、まだ制御できるだけ強く認識できてはいない。戦力的に神々の代理戦争の駒として、力を与えられた前世よりもあらゆる点で劣っていた。
「あの力を取り戻せれば、どうとでもなるはずなのだけど」
この世界に理由は不明ながら転移された者達は圧倒的に強く、その強さはSプラスもしくはSSの強さに達する。
長年掛けて鍛え上げた戦士や魔導士、そしてオーディン王国の王族に匹敵し、倒す為にこの世界の住民が怪我をしたり、死亡すれば世界の流れを著しく影響を与えてしまう。
本来転移者が居なければ起こりえなかった現象、それによって世界が変わり、あるべき進化や発展が変化する。
それがその世界にとって良いものであるならばいいが、もし身勝手で世界を歪にさせるものならば起こり得る悲劇は計り知れない。
「考えがまとまりましたら今夜はもう船内に戻りましょう」
「寒いし、どうせ答えなんてでないし」
「わかったよ」




