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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
2章 各領地への遠征開始
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62.村の怪我人

 村についてから5日、船が来るまであと8日。

 日々薬草を摘んでは薬を作って火傷に塗りこむ、そんな事を繰り返し1割程度だが傷が楽になり、最低限なら魔力を流しても痛みはなくなった。オーディン王国に戻るまでにはなんとか完治させておきたい。


「船に乗るんだろ? そのお金用意してるの?」


 エルの言うとおりただで船に乗れるはずがないが、一応考えてはある。


「村人達は猪はすんなり受け取っていた。 何頭か狩って、それを村と物々交換で船に乗せてもらうつもりだ。 恐らく村長達も何も言う事はないはず」


「最悪自力で戻ったら? 今の魔力量でも水の上を走るくらいはできるでしょ」


「出来なくはないが、船で2日なら走っても3日間は海の上で過したい?」


「嫌だ。 まだ船の上がまし」


 遮蔽物がない海風は強い上に冷たく辛いし、その上方向を見失いやすい。海に住む精霊達に道を尋ねながら進んだとしても私もやりたくはない。


「私も船をお勧めします。 まだ傷は軽くありませんよ」


 声に気付くと肩の反対側にリーアナが立っていた。いつのまにこちらの来たのか。


「私達に距離など意味はありませんよ。 それよりも傷を治す事を考えましょう」


 リーアナが体に触れるとほんの少しだが、魔力火傷を負った全ての箇所に魔力が安定して流れるのを感じる。


「あ~、そういえばあたし達そんなことできるんだっけ」


「また忘れていたのですか。 これでも10日以上はかかりますが、二人で早く治してしまいましょう」


 これから一日に一度治療の為、僅かながら魔力を流してくれる事になった。


 エルとリーアナの治癒が始まって二日、相変わらず村人達は私を睨んでくるが、交渉をかねて持ち込んだ猪や鹿の魔獣を引き取り、代わりに船の乗船と食べ物を融通してくれることになった。

 そんな日々を過しながら、仕留めた猪と鹿を届け、村長から船の搭乗させてもらうことを確約した帰り道騒ぎが起こった。


「トウサの奴がクマにやられたぞ!」


 腕と胸を抉られ、重傷の村人が板に乗せられ運ばれてきた。

 骨こそ見えては居ないが、傷は深く出血も多い。村人達の中に薬を持ってきた者が居るが、あんなものでは全く足りない。

 治すにはポーションが大量にいるか、もしくは中級のポーションがいるだろう。治癒術士が居ればいいのだが、村人達からは僅かな魔力しか感じず、治癒術士が居るとは思えない。

 泣きついているのは、確か案内してくれた子供の中に居た女の子か。


「助けたいなら手を貸してくれるか。 私は腕が上手く動かない」


 声を掛けると村人達は男を囲うようにして近づけないようにしてしまう。

 警戒するのは良いのだが、そのまま死なせてしまいたいなら無理に助けるつもりはない。


「手伝う! 手伝うからお父さんを助けて!」


 大人たちを押しのけ、女の子が前に出てくる。誇りや村の主義より人命を大事にするのも大人。くだらないもので他者を殺すのも大人。まだこの子供はそんな事より父親を助けたいのだろう。

 少し離れた地面に魔力で簡単な魔法陣を描く。

 確実に効果を発するならさらに地面をなぞった方がいいのだが、痛みがある腕では正確になぞれず、少ない魔力では地面に描いたまま詠唱することは出来ない。


「これを木の棒で丁寧になぞるんだ。 僅かにも間違えては効果がなくなる」


 他の大人が怪しんで止めようとする中、子供は一生懸命木の棒を握り締め、魔方陣をなぞり地面に刻んでいく。

 その間にも村人達はなんとかしようとしているが、深い傷をただの薬でどうにか出来るわけがない。


「でっ、できたよ!」


 涙目になりながら必死になぞられた魔方陣はちゃんと描かれていた。

 これだけしっかり刻まれれば少量の魔力でも効果は現れる。


「清浄なる水の精霊 ウンディーネ。 魔力を奉納し治癒の力を求める者。 今その力を貸し与え、傷に苦しむものに奇跡を起し給え。《ヒールドロップ》」


 緑色の水滴が傷口に落ちていくと傷が徐々に癒えていく。

 この状況になって邪魔をするものはさすがに居らず、二分ほどで傷が塞がり、意識を取り戻した父親が身を起こすと女の子は泣きながらくっついている。

 相変わらず村人達はこちらを睨んでいるが、これは仕方ない。助けたことは余計な事ではないのだろうが、やはりここに居る事が邪魔で仕方ないのだろう。

 そのまま村はずれの小屋に戻るとそのまま眠りに着いた。

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