61.重傷
能力の制限によって大幅に力を抑えているが、それでも全身の痛みは消えない。
右腕を確認すると魔力紋周辺、つまり全身の傷跡周辺が赤く焼け爛れており、顔の右半分にも傷みがあるためかなり酷いようだ。
軽く魔力を右半身を意識して流すと、酷い痛みが走り霧散してしまう。
どうやら長く限界を超え過ぎた影響で、魔力火傷を負ってしまったようだ。これでは右半身を通した魔法は一切使えない。
左半身を媒介とすれば問題ないことから、自然治癒する中度の魔力火傷なのは幸いだが、一月くらいは魔力は半減した状態が続く。
他にも現状を確認するため、歩こうとすると右半身全体が引きつるように痛みが走り、左半身全体にも軽い痛みがある。
状態はかなり悪いが、護衛の簡単な石のゴーレムを作り上げるため、すぐ近くに落ちていた木の棒を拾うとゆっくり魔法陣を描く。
「地に伏せし大地の精霊 グノーメよ。今魔力を奉納し 大地より従者を使わせ給え《ストーンゴーレム》」
流せる魔力が少ないので、たった一体かつ人並みと程度の背丈しかない、岩同士が組み合ったストーンゴーレムが現れる。単純な作りでパワーに優れ、細かい作業は全く出来ないが護衛とするなら事足りる。
「グレン!」
聞きなれた声に空を見上げると見慣れた精霊のエルが居た。
「あぁ、来てくれたのか」
「生命力が乱れていて、探すのに一週間かかったよ! リーアナも無事なのか気にしてたよ!」
生命力が乱れる。全身の魔力路だけではなく、そこまで影響が出ているとなると、治るのには2~3ヶ月はかかりそうだ。
「そうか。 それでここはどこなんだ?」
「人間が孤島郡って言ってる場所の森の中。 一番近くの村まで丸一日くらい」
孤島郡、オーデイン王国の隣にあるミリシア帝国から、船で20以上日掛かる海洋上に点在している島々をシュウホやシカクと言い、さらにそこから船で数日掛かる小島郡を孤島郡と言う。
随分遠くに放り出されたものだ。もしかすると転移者が初めてこの世界に来たのがここなのか。
「遠いな。 それに一週間ということは時間軸も狂ったのか」
転移者と戦ったときに無理やり亜空間に突入したのだが、どうやら時間軸が異なり亜空間だったのか。もしかしたら自らの老化を抑えるために亜空間の時の流れを遅くしていたのかもしれない。
今となってはわからないが、オーディン王国に戻るためには随分と時間と予算が掛かりそうだ。
「リーアナはいまどうしてるんだ? ラクシャ達もだが」
「リーアナはサーシャについてる。 準備が出来たらすぐこちらに来るよ」
精霊にとって時間と距離は意味をなさないというが、そのとおりだとは知らなかった。
サーシャの衝動は、自力でどうにかしてもらおう。幸い屋敷も整いアースドラゴンで得たお金は渡してある。ラクシャ達でも連れて盗賊や罪人討伐でもしてもらおう。
「まずは村に行って薬を作ろう。 魔法路火傷は時間と薬でしか治しようがない」
エルに誘導され、傷付いた半身を引き摺るように森の中を歩き始める。
夕闇が森を覆い尽くしても村の明かりは微かにも見えず、まだまだ先は長いようだ。
傷を負った状態での夜間移動は体に響くが、作ったゴーレムは眠ってしまえば、短時間で魔力が尽きて護衛として役には立たなくなってしまう。
一睡もすることなく歩き続け、日が昇り空高くなった頃人の声が聞こえてきた。
ようやく村の近くまでこれたのかと思ったのだが、声が徐々に近付いてくると共に、余り良い状況ではない事が分かってきた。
視界に入ったのは子供が3人、どうやら猪のような生物に追われているようだ。
「猪型の獣を倒せ」
ゴーレムが振り上げた両腕を振り下ろすと同時に岩石が放たれ、猪らしき生物の頭部に当たると鈍い音を立てながらその場に倒れた。
続けて岩石が投じられ、止めとばかりに再び頭部に直撃、完全に動かなくなるころにはゴーレムの両腕が半分ほどなくなっていた。
「腕の岩石を回収しろ」
ひとつひとつ命令しなければまったく動作しないというのはなんとも手間だが、高度な命令を受け付けられるだけの魔方陣を描く事は今の体では不可能。手持ちに魔石もないことだし、今はこれでなんとかするしかない。
猪を確認するためゆっくり歩いていくにも一苦労しつつ、近くで確認すると完全に額が砕かれ絶命している。猪のような生物は一度罠に掛かっていたのか、脚に怪我をしているため追いつかれなかったようだ。
確認し終えて周囲を見回すと、子供達は遠巻きにこちらを見ていた。警戒しているようだが、突然現れた相手を警戒するのは仕方ない。
「村の子か?」
声をかけると少し怯えているが、男の子が一人前に出てきた。他の子達は木の後ろに隠れながら様子を伺っている。
「そうだよ。 あんた誰だ」
「冒険者」
「ぼっ、冒険者がなんでこんなところにいるんだよ。 この島に冒険者が着たなんて聞いてないぞ」
あまり反応が良くない。先ほどよりもあからさまに警戒され、他の子供達も怯えている。
「転移事故だよ。 それより村があるなら村長か長老に話を通しておきたい。 案内してくれるかな」
「だ、ダメ。 父さんから冒険者は村に入れちゃダメって言ってた!」
「でも、助けてくれたし」
「そうだよ。 助けてくれたし大丈夫だよ」
子供達なりに話し合いが行われている。ダメならダメでどうにかするが、出来ればよい方向に向って欲しい。
少しの間話し合い、先ほどの男の子がこちらに近付いてくる。
「村長のところまで案内するよ。 でも変な事したら置いていくからね」
「わかった。 ゴーレム、猪を担げ」
ゴーレムに倒した猪を担がせ、先を歩く子供達に着いていく。子供達は森をどんどん歩いていくが、怪我の状態が良くなく着いていくのも厳しい。
「怪我をしているんだ。 ゆっくり歩いてくれないか」
「おじさん脚も怪我してるのかよ」
「そうだ。 だからゆっくり歩いてくれないか」
「おじさんよわっちぃんだな。 ゴーレムが強いだけなのかよ」
子供達にはこのまま誤解させ、下手に強いと思われて警戒されるよりは話が通りやすいだろう。
「余り強くはないよ」
20分程度で村に到着し、村の入り口で待たされていると、男達が鉈や農具などを持ち出して集まりだしている。
どうやらまったく歓迎されていないようだ。子供達は大人の陰に隠れてこちらをみているが、白い髭を蓄えた老人が前に出てきた。
「ふん、よそ者がこの村に何の様だ」
「オーディン王国に戻る手段と、方法を教えて頂ければすぐに出て行きます」
怪しまれているというより、状況から見て排他的という考えだろう。
得体の知れない怪我だらけの、冒険者を名乗る男が突然現れれば当然か。面倒をかける気もないので要件さえ住めば早々に出て行くつもりだ。
「・・・・・・13日後に船が来る。 それまで村はずれの小屋を貸すが、うろうろせず船でとっとと出て行くことじゃ」
「そうですか。 宿の礼と言ってはなんですが、この猪はそちらで好きにしてください。 ゴーレム 猪を下ろせ」
命令に従い80キロはある猪がその場に置かれる。血抜きもまだすんではいないが、礼には充分だろう。
「ありがたいとはいわんぞ。 小屋の貸し代と、数日分の食料代としてもらっておくわい」
排他的とはいえ攻撃的ではないのはありがたい。村はずれの小屋も荒れていようが雨風を凌げれば助かる。
村人に案内され、村はずれにある掘ったて小屋に到着した。
「その小屋だ。 くれぐれも村の邪魔はするなよ」
案内した男はそのまま立ち去っていく。
中に入ると炊事場やトイレも一通り揃っており、見た目こそ掘っ立て小屋だが狩猟、もしくは農作業小屋として一時使われていたようだ。
ベッドも板張りされているだけだが、壊れている様子もなく塵や埃を落とせば使えるだろう。まだ日も高いが、体を休めるためにベッドに横たわった。
翌朝、ベッドから体を起こすと全身に痛みが走り、怪我をしていた事を思い出した。
朝日の下で傷跡を調べてみると、傷痕周辺が酷く爛れいる。微量ずつ魔力を流すと痛みが走り、傷口から僅かずつ霧散していくが、末端まで届かないわけではない。
やはり魔力火傷の度合いは中程度、完全完治が可能な範囲内だ。
「朝ごはん、子供達が置いていったよ」
エルの言葉に扉の前に行くと、小さな籠に野菜が少し入ったかごが置かれていた。どうやら約束どおり、数日間は食料をわけてくれるようだ。
焼くだけで簡単に食事を済ませるとすぐに森に入り薬草を探し始める。
自然治癒力を助ける一般的薬草、森に入ってすぐに薬草となる植物は見つかった。森が豊かで小動物や鳥たち頻繁に見かけ、薬草も多く自生している。薬草を採取し、小屋に戻ると薬草をすり潰し、水で延ばし、顔を含む右半身の傷跡に塗り込むと千切った布を巻きつける。
薬効が浸透する違和感と、痺れる感覚がありちゃんと効いているようだ。早く治ってくれるといいが、これでは半身がぐるぐる巻きで動きにくい。




