64.第二主島 シカク
第二主島シカク、第一主島まで船で2週間程度掛かる孤島群の中でもっとも大きく、それなりの町と前の島にはなかった冒険者ギルドがある。ギルドでは金は掛かるが一般人でもギルド間の通信魔法によって、遠くの相手とも連絡することができる。
サーシャやラクシャ達は、エルとリーアナが説明済みだそうだが、任務遂行中だったワイルドビートの王族に対する報告は必要だ。
島に到着して港町コウカの冒険者ギルドに向う途中、町並みを見て色々懐かしさを感じていた。前々世に住んでいた世界の和装にある程度似ており、町の作りも石よりも木材が多用され心が揺さぶられる。
急ぎ足で冒険者ギルドに入ると空いている受付の前に行くとギルドカードを提示する。
「オーディン王国冒険者ギルド登録、C級冒険者グレン・ソーディアン。 空間魔法の事故により数日前にこちらに来てしまった。 正式な入国書類の用意を御願い致します」
「わかりました。 それではまずは真偽判定を行いますので、このままお呼びになるまでお待ちください」
違法入国のままで居るわけにも行かず、冒険者ギルドによる真偽審査を受ける。これによって悪意なく入国した事を証明し、最悪それなりの罰金を支払い強制的に国に送り返されることになる。
ダンジョンのトラップには転移魔法が稀にあり、こういった事が極稀に起きるため、きっちりとした検査方法は格ギルドにおいて実施されている。
準備が出来たのかそのまま別室に案内され、全身に真偽判定を行う宝珠を身に着け椅子に座る。
この国の護りを司る兵士達に囲まれ、下手な動きを見せれば即座に捕縛、もしくは処刑が実行されてしまう。
「では真偽判定を行う。 正直に答えるように」
大体において不法入国手段が船と飛行生物に限られているため、入国した手段をあれこれ問う事で真偽を確かめられ、3時間後不法入国ではなく、空間魔法による事故であることが認められた。
拘束を解かれた後、正式な書類は数日かかるそうだが、冒険者ギルドから証明されたことで国から仮書類が発行され、これで冒険者ギルドで依頼を受けられる。
孤島郡は王国や帝国と違って大陸共通通貨のフリスではなく、エルンと種類が異なる。
海上交易が盛んなため、重量のかさむ金・銀・銅の様々な貨幣を使うフリスではなく、金貨と鉄貨のみを使用している。
交易があるためフリスをエルンに貨幣換金も出来るのだが、残念ながら冒険者ギルドで聞いた限りでは第一主島シュウホでなければ不可能だそうだ。
シュウホ行きの乗船可能な船の次の出港が一月後の為、許可が下りたので依頼をこなしながらワカの町で過し、通信費と旅費を稼ぐことになる。
ランクなし ギルド公認依頼
依頼 治療院の手伝い
対象 治癒術士
報酬 半日2200エルン
委細 治療院で治癒術士募集。要治癒術詠唱可能な事
まだ仮許可なのでギルド公認依頼以外は受けられないが、二三日我慢すれば他の依頼を受けられるようになる。これでようやく当面の旅費を稼ぐことができそうだ。
依頼を受領し治療院に赴く。木造で出来た治療院は一階建てだが比較的広く、到着すると扉を叩くとすぐに初老の男が出てきた。
「何か用かね」
「ギルドの依頼を受けてきました」
「おぉそうか。 怪我人が多いのだが人手が足りていなくてな」
扉が大きく開けられ中に招かれ、通路を進んだ部屋には怪我をした人達がベッドに寝かされている。それほど重傷と言うわけではないが、大群もしくは大物魔物が出たのか怪我人が非常に多い。
「助手を一人つける、薬が必要ならそれにいって欲しい。 一人当たり700エルンの治療費が出るので後は御願いする」
「治癒術士見習いの イトウサ・ヨウです。 よろしくおねがいします」
まだ10代前半と思われる少年が助手、まだ幾らか幼さがあるのだが薬箱を両手に持ち、助手としてそれなりに経験はありそうだ。
「では一人目に案内してくれますか。 薬は見て決めますので」
「こちらへどうぞ」
最初の一人目、ベッドに寝かされているけが人は腕と脚が縫われた状態のままだ。
薬などで悪化は防がれているようだが、このまま放置しておけば傷跡が消えることなく自然治癒してしまう。
どうやら治癒術士やポーションが足りず外科的処置を行っているようだ。
「まずは腕に縫われている糸を取り除いてください。 その後治癒魔法を掛けますので」
助手の少年は丁寧に縫合糸を切ると、怪我人は痛みでうめくが容赦なく取り除いてしまう。手馴れているようで、治癒術士の助手としては充分経験を積んでいるのかもしれない。
「清浄なる水の精霊 ウンディーネ。 魔力を奉納し治癒の力を求める者。 今その力を貸し与え、傷に苦しむものに奇跡を起し給え。《ヒールドロップ》」
治癒の力を宿した水滴か傷口に触れると痕もなく傷がふさがっていく。4滴ほど傷口に水滴が当たると腕と脚の傷は完全に塞がり治す事ができた。
少年は驚き手が止まっているが、ギルド依頼で大した実力がない治癒術士しか今まで来なかったのだろうか。
「次の方にいきましょう」
「まだ魔力が続くんですか!?」
「消費量が極端に少ない治癒魔法をちゃんと詠唱していますので、そもそもそれが出来る治癒術士を募集していたのでは?」
それが出来ないのなら何故依頼を受けるのか良く分からないが、どうも状況を見る限り低級の治癒魔法さえ、充分に扱えるものが余り居ないのだろうか。
確か孤島郡は武の国で戦士は多いが、魔導士は少ないと聞いた覚えがある、だからと言って魔力量が少ないものばかりではないはずだが。
「そっそうですが、今まで来られた治癒術士の皆さんは1人か2人が限界でしたので」
どうやら治癒術を最低限出来る者達が、小銭稼ぎで依頼を受けていたようだ。そんな者達と比較されると少々悲しくなってくるが、比較対象を知らない少年には仕方ない事だ。
「出来ますから次の治療が必要な人のところに案内してください。 急いで」
「わかりました! こちらへ!」
急かされると少年は持っていた治療道具を手早く片付け、その日のうちに5人の治療を行った。報酬として3500エルンとギルドからの2200エルン、あわせて5700エルンを手に入れ、これで二三日分くらいの生活費になるはずだ。
正式な許可証が出るまでは少しずつ稼ぐが、前にもまして金欠病が酷くなっている気がしてならない。




