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コピー魔法使いのローファンタジー  作者: 春花
酒と涙と男と女と神と天使
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酒と涙と男と女と神と天使

 ずいぶんとお久しぶりの更新になってしまいました。お待ちになっていた方には申し訳ありません。とりあえず、いつも通りの本編の間の短い話が出来たので載せます。

(追伸、更新がなくても感想をいただけてホントに嬉しかったです。見に来てくれた方もありがとうございます)。

「あ~……疲れた。今日はもう、風呂入って寝よう」


「それがいいわね。ご苦労様」


 昨日魔法対決をし、今日は一日中海で騒ぎ倒し、体力がない天見はフラフラだった。頼りない足取りで部屋から出て行って、お風呂で寝やしないかとちょっとベリメスは心配だったが、そうなったら助けに行けばいいと思い、ゆっくりしようとベッドの方へ向かう。


「ベリメス、いるわね」


「……モドリス。何か用なの?」


 来客に嫌そうな顔を向けるベリメス。


 入って来たのは、ベリメスと同じ妖精の姿を取っているモドリスと、彼女を頭に乗せている少女ミヤだった。


「久しぶりに一杯やらない?」


「人の家にお世話になっているのに図々しい」


 この家――いや、屋敷は天見の『連理の枝』であるファイナ=グリューテイルの実家である。昼間にこの前の事件で世話になった人達を集めて海でバーベキューをし、その流れでみんなを屋敷の夕食に招待し、そのまま泊まっていくことになったのだ。


「別にワインを失敬しようとは思わないわよ」


 と、説明するのも億劫そうにモドリスはピンクの髪をかき上げ、「ミヤ」とだけ言って任せる。


「お酒の神様であるバインド様から神具『アクエリアエーテル』をお借りしました。これさえあれば、ただのお水ですらお酒のような味わいにできます。しかも、元はただのお水ですので、どれだけ飲んでも翌日に悪影響を残すこともありません」


「あいつはろくなもの作らないわね」


 ミヤがテーブルに並べたのは、何の変哲もなさそうなワイングラス八つだった。


「私あまり、お酒って得意じゃないんだけど」


「旅と放浪の神が~? 笑っちゃうわね。お酒なんて分かりやすいコミュニケーションツールじゃないの」


 鼻で笑われて挑発され、ベリメスはムッとしてグラスの一つを指さす。


 すかさずミヤが持ってきた水のボトルでグラスの三分の一ほど注ぎ、ベリメスがグラスをガシッと持って仰ぎ飲んだ。


 妖精の体格的にかなりの量だったはずなのに、ベリメスは一気に飲み干して、ワイルドに腕で口元を拭う。


「さすがにいい味しているわね」


「決まりね」


 モドリスがパチンっと指をならすと、二つのグラスが妖精サイズに小さくなる。


 ベリメスとモドリスはテーブルの端に腰掛け、グラスを持つ。ミヤは小さくなったグラスに零さないよう水を注ぎ、お酌を続ける。


 ……………………。


 やはり最初の一杯が効いたのか、少しするとベリメスの目がトロ~ンとしてきた。チビチビとやっていたモドリスは、頃合いを見計らってキラーンと目の端を光らせる。


「そろそろかしら」


 まさにそのタイミングで、ドアが開けられた。


「水鏡……ん? どうしてコンロの妹が水鏡の部屋にいる?」


「いえ、崑崙です。李 崑崙」


 ミヤが訂正した相手はファイナだった。


「ちょっと美味しい水が手に入ってね、ちょっと飲み合っていたのよ。あの子もそろそろ戻って来るだろうし、あなたも一緒に飲まない?」


 ファイナはモドリスの言葉に訝しんだ。元々崑崙は天見の命を狙っていた男だ。殴り合った結果仲良くなったらしいが、ファイナはまだ彼を警戒しているし、彼と一緒にいるモドリスとミヤも同様だ。


 だが、


「ミヤちゃん、来ましたよ~」


 後ろからやってきた燕に押されるように、ファイナは部屋に入ってしまった。


「燕? どうしてここに」


「ミヤちゃんが食事のお礼に美味しいお水を持ってきたと聞きまして~、ファイナさんも飲みに来たんですよね~?」


「いや、私は……」


「食事のお礼にお水って可愛いじゃないですか~。飲んであげましょうよ~」


 どうしてか、燕は崑崙達と仲が良い。ファイナは少し迷ったが、見るとベリメスがすでに飲んでいるし、変な水ではなさそうだ。ボトルを持つミヤを見て嘆息し、


「一杯もらおう」


「私も~」


 と、二人ともテーブルの上にあったグラスを持って、ミヤに水を注がれた。


 その次に、


「燕の見送りについて相談があると聞きましたけど」


 シャロンが来て、


「ああああ、あの、天見さん。お、お部屋でおおおお話って、な何でしょうか」


 セリアが来て…………静かにドアがパタンっとしまった。



「風呂場で寝落ちって、死にたいのね?」


 崑崙の呆れた口調に天見は返す言葉も無かった。運よく後頭部が浴槽のふちに引っかかっていたが、下手をすればそのまま溺れ死ぬ可能性もあった。


 あまりの長湯に不思議がった執事さんに発見されて無事だったが、のぼせてしまってしばらく動けなかった。その間に崑崙が風呂に入り終わり、タイミング良く二人そろって廊下を歩いている。


 話題を変えたい天見は咳払いを一つしてから、


「ところで、崑崙はこの世界を楽しんでいるのか?」


「それなりね。魔法には左程興味はないけど、飽きそうにない面子が多いからね」


「ふぅ~ん、魔法に興味ないとか理解できないけどな」


 崑崙は細い横目で隣を歩く天見を見下ろす。飽きそうにない面子の筆頭が彼なのだが、その愉快さを自覚していないみたいだ。


「モドリスは変なこと考えてないだろうな」


「日々の生活にうるさいだけで悪巧みはしてないと思うね。一日の大半をミヤの上で寝ているしね」


「あ~……あのミヤって子も、けっこう苦労人そうだよな」


「おまえが言うなね」


 天見は崑崙の足が客室でなく、自分と同じ順路に向けられていることに首をひねる。


「あれ? 崑崙達は一つ下の階じゃなかったっけ?」


「モドリスがベリメスと飲んでいるらしいね」


「飲んでる? ……ベリメスってお酒飲めたのか、あまりそんな印象なかったんだけど」


「子どもの前じゃ飲まないんだろね」


「そんなもんか」


 話している間に、天見は自室に戻ってきた。自然と欠伸が出て、早く寝ようと思いながらドアノブに手をかけ、開ける。


 音が溢れ、部屋の中はざっくばらんな賑やか空間と化していた。


 パタンっと無言で天見はドアを閉め直した。すると、不気味なほど静まり返る。


 崑崙は大きな汗をかいていたが、ふと隣の天見に目をやる。


 目を白黒させて、顔を強張らせて斜線が引かれ、頭上に疑問符が次々に浮かんでは消えている。


 二人とも、無言。


 もう一度このドアを開けるべきか、それとも賢明に君子危うきに近寄らずを実行するべきか……。


 二人の男はここに立ち入ってはいけないという本能に従い、後ずさりした。だがその瞬間、抗いがたい力が二人を襲った。


「こ、これは!」


「足が! 意思と関係なく、前に進むね!」


 天見の震える手がドアノブにかけられる。


「天見! ドアから手を放すね!」


「は、放れない! 開けたくない! 開けたくないのに!」


 天見は左手で右手をノブから引きはがそうとするが、まったく放れない。


「崑崙! なにか魔法は使えないのか!」


「ガジェットがないから無理ね! そっちは!」


「今はモノクルになにも入っていない! ベリメス! ベリメス!」


 ベリメスの名を必死に叫ぶが、姿が現れることはない。


「誰か! 誰かいないのね!」


 執事を呼ぼうと叫ぶが、聞こえていないとしか思えないぐらい誰もやってこない。これだけ叫べば、普通ならやって来るはずなのに。


「くっそ~!」


 全力で抗ったが、結局二人は部屋の中に入った。



「イエェ~イ! た~のしいですね~!」


 グラスをかかげて盛り上がっている燕は、テーブルの上に乗っている。その顔は満面の笑みで真っ赤だ。


「燕、なにをやっているのですか。いいですか、テーブルに乗るなんて行儀が悪いですよ。もっとしゃんとしなさい」


 と、椅子の背もたれに足をかけ、頭が床に落ちている――さかさまになったシャロンがテーブルの足に向かって説教をたれている。こちらも頬が真っ赤だ。


「……………………」


 ファイナは窓際の席で、一人優雅にワイングラスを口元で傾けている。その表情は無表情で頬は一切赤くなっていない。


「……い、一体なにが……」


「どう見ても、酔っぱらっているとしか思えないね」


 崑崙は部屋を見回し、ミヤの背中を見つける。


「おい、ミヤ。これはなんね?」


 と、肩を持って振り返らせると、


「ん」


 目を座らせたミヤが「ひっく」としゃっくりをした。


 すかさず手を引っ込めようとした崑崙だったが、その手をガッシリと掴まれた。


「いいですよね、崑崙さんは。モドリス様に対しても恐れ入ることなく気楽に接して。でもですね、分かっています? 崑崙さんがなにかする度に、私も動かなくてはいけないしなにか問題が起きたらモドリス様から責任を取らされるんですよ~。上からは怒られ、下は自由奔放。どれだけ私が頭の痛い日々を過ごしていると思うんですか~。それなのに崑崙さんは……大体にして、モドリス様に意見してまであなたを助けてあげたというのに、それに関して感謝の念というのを感じられません。多少忘れてしまっても、魂で覚えているべきじゃないんですか。いいですよね、崑崙さんは。お気楽で。大体にしてモドリス様に対しても――」


 まずい、ループに入ったと思いつつ、崑崙は助けを求めるように背後を振り返ると、天見は気配を消して逃げるようにベッドへと向かっていた。薄情なものだが、おそらく逆の立場だったら崑崙も同じことをしていただろう。


 天見は全てを夢だったことにして、絡まれる前に寝ようとする。


 テンションが高いためか、みんな視界が狭い。コソコソ進んだ天見は無事にベッドにまでたどり着き、シーツをめくった。


「あ~、天見さん」


 真っ赤な顔になって、慌てて天見はシーツをかけ直した。


 なぜか天見のベッドで寝ていたセリアは、長いスカートが上がって普段なら隠れている素足の太ももが露わになっており、上体を天見に向けたので腰のくびれが強調され、黒い前髪からのぞく左目で微笑み、その顔は甘く誘うような――妖艶な雰囲気をかもし出していた。


 完全に天見の脳内キャパオーバーな映像だったので、彼は今起こったことを記憶できず、フリーズしていた。


 それなのに、セリアはシーツの上からひょっこり顔を半分だし、照れくさそうに、


「いいんですよ」


 ナニが!?


 天見はここにいてはいけないと、足を床から引きはがすほどの勢いでベッドから離れた。


「ベリメス!」


 いるはずのベリメスを探すと、絵画の額縁の上でグースカと寝ている姿を発見した。どうしてそんな所で寝ているのかと思ったが、酔っぱらいの行動など考えるだけ無駄だ。


「思ってた以上に楽しいわね」


 そんなことを言いつつ浮遊するモドリスが、天見のすぐそばを通過した。


「おまえのせいか! 未成年に酒を飲ませるとか、なに考えてんだ!」


「お酒じゃないわよ。みんなが飲んだのはただの水よ、水」


「ウソつけ」


「ウソじゃないわよ。ただ、神具のグラスを使ったから、すこ~し気持ちよくなっているかもしれないけど」


 モドリスは手にあるグラスを仰ぎ飲んだ。


「あなたも一杯飲まない? 美味しいわよ」


「あんな風に仲間入りするのが分かっていて、飲むわけないだろ」


 モドリスと睨み合っていた天見の口に、瓶が突っ込まれた。


「あははははははははははは、水鏡さんも飲みましょうよ~!」


 ハイテンションの燕が天見の後ろから瓶を容赦なく傾ける。急なことに対応出来なかった天見はすぐにむせて、苦しそうに咳き込む。


「ダメよ。グラスから飲ませないと本当にただの水なんだから」


 息を整えた天見は口元を拭いて振り返り、


「アルハラだぞ、燕!」


「は~い、崑崙さ~ん! 私の水を飲んでください」


 さっさと燕は離れて無視だった。


 アルハラとはアルコールハラスメントの略。飲みの席などで上司が部下に飲酒を強要することなどをいう。


「燕、近寄るなね」


「え~! 私の水が飲めないって言うんですか~!」


「崑崙さん。まだ話の途中です」


 この隙に天見はドアへと駆け寄ったが、鍵がかかっているわけでもないのに開かない。


「結界をはったから無駄よ。外からは音も聞こえなかったでしょ」


「なんでこんな場に結界はってんだよ! 能力の無駄だろ!」


 モドリスに叫んだが、その時足首を誰かに掴まれた。バッと下を見ると、這っていたシャロンが顔を上げていた……ホラーさながらの衝撃で悲鳴を上げかけた。


 シャロンは天見の体を這いずってようやく立ち上がる。


「いいですか、水鏡さん」


 近くで吐かれた呼気は酒臭くなかった。確かに彼女達が飲んでいるのは水らしい。


「コピー魔法を使うなとはもういいませんが~」


 言いながら足に力が入らないのか、天見に力無く寄りかかってくる。


「ちょっとシャロン先輩! 重いですって!」


「重いとは失礼ですね。水鏡さんはもっと紳士としての心構えを……モラルを……ムニャムニャムニャ」


 ズルズルと下がるシャロンを支えきれず、どうにかゆっくり床に寝させられたので、天見は彼女から離れる。


「水鏡」


 前に立つファイナに気づいて、天見は身構える。


「不可解な。なにをしているんだ」


 ハキハキとしたいつも通りの口調に、天見は逆にキョトンとした。


「……あれ? ファイナは酔っていないんだ」


「当然だ。この程度のことで正体を無くすなど心身がたるんでいる証拠だ。私がそんな醜態をさらすと思うか?」


「いや、よかったよ。まともな女性陣が一人でもいてくれて……」


「ところで、この部屋は随分と暑くないか?」


「ん? 別にそんなことは……!!」


 おもむろにファイナが白いブラウスのボタンを外していたので、天見はすぐにその手を掴んで止めた。


「なにをする不可解な」


「俺の方が不可解だよ! どうしていきなり脱ごうとする!」


「暑いからだ」


 無表情なのにファイナも確実に酔っていた。


 普段ならブラウスのボタンは一つしか開けないファイナが、今は三つも開けていて白い肌だけでなく下着も見え隠れする。


 まさか天見がボタンをかけなおすわけにもいかないので、ただ視線をそらすことしか出来なかった。が、


「水鏡は胸が大きいのと小さいの、どっちが好みなのだ。気にしてそらしたということは小さい方がいいのだろ。そうなのだろ」


 酔っているくせに目ざとくそんなことを聞いてくる。


 脱ぎ癖がある上に絡んでくるって、始末に負えないと思った天見は逃げようとしたが、ガシッと手を掴まれた。


「ん? 水鏡の手は随分と冷たいな」


 のぼせた天見は手首を流水で冷やされたので、今はちょっと冷えている。


「…………」


 ファイナは天見の手を持って、ペタッと胸の上あたりにあてた。


「冷たくって気持ちいい」


「…………燕に頼んで水でもぶっかけてやるから放してくれ」


 スレンダーのファイナの胸には触れなかった(悲しいことだ。『誰が』とはハッキリさせないが)ので、ギリギリ冷静でいられた天見は虚脱した。


「天見さん。これ、天見さんの匂いがします」


 火に油を注ぎかねないタイミングで、シーツを体に巻いたセリアがピトッと天見の背中に体をくっ付けてきた。


「水鏡! どうやってセリア=フラノールを引っかけたのだ! 大体にして当初はリコリン狙いの人妻ババア趣味だったろ!」


「だからそれはファイナの勘違いだって!」


「天見さぁん」


「セリア! ちょっと離れてくれ~!」


 前からはファイナに胸ぐらを掴まれ、背中ではセリアに甘えられて引っ付かれ、天見はもう一杯一杯だった。


「あはははははははははははは」


「なにがそんなにおかしいのね」


「いいですか、崑崙さん。分かっているんですか、崑崙さん」


 崑崙の方も二人にまとわりつかれて身動きが取れていない。


「それじゃこれから隠し芸大会をするわよ」


「隠し」


「芸?」


 いきなりのモドリスの提案に、天見と崑崙が疑問符を浮かべる。


「そうよ。酒盛りで神様を楽しませる。よくある話でしょ」


「…………まさか」


「この乱痴気騒ぎの趣旨は……」


「私を楽しませなさい」


 …………………………………………。


 天見崑崙ともに、「最悪だな、この女神」とあらためて思った。

 まあ、酒盛りはギャグの定番ですよね。ただ、彼女達が飲んでいるのは断じて水です。

 ギャグオンリーなので、これは次回で終わります。では、次回予告。素面の天見と崑崙はこの宴会を終わらせようと「王様ゲーム」をモドリスにしかける。異世界のゲームは二人に有利かと思いきや、神の前では全てが「ぜった~い」だった。

 長い話の方にもかかっています。そっちも早くさらせるようにがんばります。

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