酒と涙と男と女と神と天使2
前回更新日の告知をしてませんでしたね。今日更新します。
なにか楽しそうなことが起こるのを察して、酔っぱらい組はモドリスを囲って盛り上がる。まあ、騒いでいるのは燕だけだが。不気味なのは這って移動してきたシャロンだ。うつ伏せになっていて、寝ているのかどうかまったく分からない。
とにかく、モドリスを満足させない限りこれは終わらない。頼みのベリメスは深い眠りについていて起きそうにない。
「しょうがない。俺がやるか」
最初に立ち上がったのは天見だった。
囲いの真ん中に立った天見はみんなに一枚のコインを見せて指で弾く。落ちてきたコインを両手で取りにいき、
「どっちだ?」
と、観客に問いかける。酔っぱらっても見極められるもので、二回やって二回とも左右どちらにコインがあるかみんな当てた。そして、三回目。
「どっちだ?」
またみんなは正解の手を指さしたが、そちらにコインはなかった。「あれ?」と思っている時に天見は逆の手を開いたが、そっちにもない。
天見はファイナの耳元に手をやり、抜くと人差し指と中指でコインを挟んでいた。
「おお~」と感心する声を上げ、拍手が送られる。
「手品はかじったことがあるんだ」
「じゃ、次は私が讃美歌を歌います」
言い出したのはうつ伏せのシャロンだった。動けるの? と思ったが、予想外にすんなりと立ち上がって真ん中に立つ。
ただ、立ち姿はちょっと斜めっていて、右肩が下がっている。それでも歌おうとして口を開き…………。
「……歌詞を忘れました」
天見と崑崙はコケたが、他のみんなはすごい笑っていた。
「ほら、崑崙もなにかしなさいよ」
「あ? 俺はそんな芸なんて持ってないね」
「ダメですね~崑崙さんは。それなら私の手伝いをしてください~」
燕が無理やり崑崙の手を引っ張って前に出て行く。嫌な予感を覚えている崑崙は必死に「嫌ね!」と叫んでいたが、燕の強引さには勝てなかった。
ムスッとした崑崙は立とうともしなかったが、その頭にトンッとリンゴが乗せられる。
そして、燕は刀を持つ。
なにをやらされるか分かった崑崙は青ざめ、即行逃げようとしたが、
「ダメですよ、崑崙さん。舞台に上がって何もせず下りようなんて」
ミヤが膝の上で横になっているだけなのに体が全く動かなかった。
燕はみんなにペコリとお辞儀をしてから、
「リンゴを縦に割りますね~」
「横~! せめて横にするね!」
「え~、それだと面白くないですよ~」
「十分面白いね! 腹筋切れるほど笑ってやるから横にするね!」
「成功したらご喝采。失敗したらお慰み~」
「やめるね! シャレにならんね!」
聞く耳持たず刀を抜いた燕は上段に構える。
刀がゆらりと動いた瞬間、崑崙は必死の力で抗って頭を全力で下げた。慣性の法則でその場に残っていたリンゴは真っ二つに切れ、刀はそこで止まることなくふり切られた。刀が描く円の軌跡ギリギリ外に、崑崙の頭はあった。
外で見ていた天見は真っ青になった。もし頭を下げていなければ……。
「ふむ、これは負けていられないな」
「私も天見さんと何かしたいです」
背中に怖気が走った天見は、
「モドリス! 飲みの席で最適な、もっと面白い異世界のゲームをしないか!」
「異世界のゲーム?」
「その名も、王様ゲームだ!」
王様ゲーム。言わずと知れた団体ゲームで、王様になったものの指令は絶対なのだ。
モドリスは知らないゲームに興味を引かれ、すんなりとゲームを受け入れた。
人数分の棒を用意している天見と崑崙はコッソリと、
「いいか、崑崙。絶対にどっちかが王様になって、この会の終了をモドリスに命令するんだ」
「だが、指令を受ける側は番号で振り分けられるから名指しはできないね」
「盗み見ればいいだけだ。モドリスのガードは固くても、他は酔っぱらいだ。初めてのゲームで番号を隠すってことも分からないはずだ」
「なるほどね」
「棒に目印をつけるのはやめておいた方がいい。相手は知恵の女神だ。小細工をすれば逆手に取られかねない」
「純粋に運の勝負ね」
用意された棒は八本。やる気に燃える天見と崑崙が音頭を取って一回戦。
王様はファイナになった。
「私か」
悔しそうに呻いた天見と崑崙に気にせず、ファイナは少し考え込む。
「命令か……それでは、三番は終了までバニーガール姿で語尾は「にゃん」だ」
「姿と語尾があってないね」
「というか、バニーガール姿って……そんな服ここには」
「この服はなんですかにゃん」
天見と崑崙がバッと振り返ると、ミヤがバニーガール姿になっていた。その少女の姿に二人の男は戦慄した。
「あら、忘れているのかしら? この場を支配しているのが誰か?」
モドリスの声が静かに響く。
この会を終わらせようと選択したゲームが、その実最悪な選択をしてしまったことが分かり、二人の動悸が激しくなる。
「安心しなさい。出目を操作するなんて無粋なマネはしないわ。さあ、王様ゲームを続けましょう。命令は絶対なのよね? 神の力で保証してあげるわ」
ドクドクと心臓が脈打つ中、王様ゲームは続けられる。その回数、数えて六回。
崑崙が一度だけ王になったが、残念ながらモドリスを指定することはできなかった。
他ではシャロンが恥ずかしい話を暴露したり、モドリスが水とお菓子を持ってきたり、セリアがチャイナ服を着たりなどがあった。
天見とファイナだけが、まだ命令を免れていた。と、天見の目の前にいた長身でグラマラスな長い黒髪の女性が姿を消した。今のは、崑崙の好みのタイプが分かりやすく映像化されたものだ。羞恥により、本人は床に突っ伏して痙攣している。恐ろしい。
「さあ、次に行くわよ」
「ふむ。また私か」
何気に引きが良いファイナだ。
「では……」
チラリとファイナが天見の方を見たが、警戒していた彼は当然番号の所を握ってガードしていた。
「六番が王様に愛の告白をしろ」
六番の天見は吹き出した。
どうしてこんなピンポイントな恥ずかしい命令が出来ると思った天見は、もしやと背後を振り返った。燕がニタニタと右手を広げ、左手の人差し指を一本だけ立てていた。
(こいつら、ビギナーのくせにこんな連携技を!)
おそらく、天見が番号を確認した一瞬の隙を狙って、燕が読み取ったのだろう。
自分の油断に舌打ちしてから、天見は愛の告白なるものに疑問符を浮かべた。まったくの経験不足に、照れる前に困ってしまう。普通に好きとかでいいのだろうか?
「本人らしさで」
「ズルい! 後のせは卑怯だろ!」
「ギリギリセーフよ」
モドリスが認めてしまったので、天見は歯噛みする。無難に納めようとしていた魂胆を見透かした追加項目だ。
「え、え~っと…………ん、ん。魔法を使わせてくれればどんな君でも愛せるよ」
「最低」
「魔法ありきってどうかと思いますにゃん」
「クズですね~、水鏡さん」
女性から総スカンをくらった天見はズッシリとした闇を背負って項垂れた。
「いや、今のはおまえが悪いね」
味方の崑崙からもフォローはなかった。
再開して、次の王様は燕になった。
「二番と七番がポッキーゲーム~!」
「ちょっと待つね!」
「なんでそんなゲームを知って……」
そこで気づいた。不思議な点は他にもある。みんな初めてやるゲームのはずなのに、命令の出し方とか番号の盗み見など、そつが無さすぎる。
「ルールや命令の種類などいちいち解説するのも面倒でしょ。二人の知識を共有させてもらったわ」
モドリスの発言に二人は仰天する。妖精の姿を取っているくせに、そんなことまで出来るとは……知恵の神だけはある。酔っぱらい連中は、自分の知らない知識がいきなり思いついても不思議にすら思っていない。
「天見、なにくだらないこと知っているね」
「コスプレの類は全部崑崙だろ。俺はそんな命令系がありなんて知らなかったぞ」
ちなみに、二番と七番は天見と崑崙だった。
「ポッキーならさっき私が持ってきたお菓子の中にあったわね」
「成功は一センチ以内ですからね~」
苦しみの叫びをあげ、天見と崑崙はポッキーを両端から食べ、七ミリを残して唇を死守した。二人とも精神をガッツリ削られ、終わった後は床に手をついて激しく肩で息をついていた。
「いいか、崑崙! 次だ! 次で決めるぞ!」
「もちろんね! どんどんハードルが半端ないことになっていってるね。これ以上進んだらもしかして……」
「王様だ~れだ!」
天見と崑崙……ハズレ。
「なに考えた! 今、なにを思いついた!」
「知らんね! 絶対に俺と今回の命令は無関係ね!」
「一番の人と三番の人が野球拳を三回やってくださいにゃん。で、終わったらその恰好のまま続行でにゃん」
一番、崑崙。三番、天見。
「野球拳ってなんだよ!」
「というか、この的中率はなんね! モドリス、本当に操作はしてないのね!?」
「してないわよ、失礼ね。さっさとじゃんけんをして、負けた方が服を脱いでいきなさい」
「そういうの!?」
野球拳なるゲームを知って、天見は度肝を抜かれた。
夏場のため、二人とも薄着だ(靴下がないのが痛い)。もし三回連続で負けたらかなりマズイことになる。
結果、天見は二負けでパンツ一丁になり、崑崙は上半身裸となった。
「貧弱ですね~」
「うるさいよ! 鍛えている魔法使いの方が変なんだよ!」
体を指さして爆笑する燕に、天見はお腹辺りを腕で隠した。
「えっと、三番の人が王様をおんぶしてください」
セリアの天見を狙って出した命令は、残念ながらシャロンに当たった。天見は心底助かったと思った。こんな半裸の状態でセリアをおんぶしたら、色々と自分が邪念で変わってしまいそうで怖い。
次はシャロンが王様になり、
「そうですね。コスプレしていない人は異性の恰好をしてください」
「おい! 全体攻撃はありね!?」
「分かんない! 俺はホントに分かんない!」
「とすると、これは純然たるあの子の趣味ね」
「シャロン先輩! なんかストレスでもあるんですか!」
騒いでる間にそれぞれを煙が覆って、晴れたら恰好が変わっていた。
天見は学園の女子の制服を着ていて、崑崙はタイトスカートのスーツ姿。
「……やばい、凹むね」
「なんで制服」
服を着られたのはいいが男子はあんまりな惨状だった。ただ、女子の方は変わった服装に盛り上がっている。ファイナのタキシード姿や燕の袴の武士姿、モドリスの緑の半袖短パン姿など、よく似合っている。
「天見さん、可愛い~」
遠慮がなくなっているセリアは、背中から抱きついて天見の頭をなでなでする。
「褒めないでくれ」
そして、ついに天見に王様が巡ってきた。
崑崙とアイコンタクトをかわし、彼が「四」というのは確認できた。が、他の面子が何番なのかは一つも分からない。防御法もしっかりと分かっているようだ。
(くっ! モドリスの番号が分からないと、いつまでもこの宴会が終わらない。どうすれば……どうやったらモドリスの番号が分かる……)
天見はじれったそうにモドリスを睨むが、しっかりと棒をガードしている。「ふふん」と自信満々に嘲っている顔に天見の額にピタッと怒りマークがはりつく。
(この女神は…………あ!)
天見はグッと拳を握って、
「四番は王様をかついで台所まで行って、飲み物を用意すること!」
命令の意図を理解した崑崙は、元気よく立ち上がってすぐさま天見を担いで部屋を飛び出した。命令でなら外へ出られるのは、水とお菓子を取りにいったモドリスで分かっていた。
「ちぇ、やられたか」
おもちゃを失ったモドリスはつまらなそうに呟いた。それでも十分遊んだかと思い、あとは他の好きにさせて、彼女もこの場から消えてベッドのある部屋で寝た。
そして、台所に行った天見と崑崙は、
「あの部屋から出ても、服装が戻るわけじゃないんだな」
「そうみたいね」
道中と台所で執事とメイドに女装を目撃された。後日翁からファイナへ天見との『連理の枝』を見直さないかと、マジメに提案された。
次の日、ファイナ達は昨日のことをほとんど覚えていなかった。
燕も実家に帰り、天見とファイナもスペリオルで著作権委員に監視されながらも普通の日常を過ごしていた。
そんなある日、
「天見、ちょっと頼みがあるの」
「ベリメスがそんなこと言い出すなんて珍しいね。なに?」
「うん。行方不明だった神具が見つかったから回収してほしいのよ」
「いや! そんなおつかい感覚の提案では受け切れない大ごとだと思うんだけど!」
ついこないだ神具でえらい目にあった天見は慌てた。
神具とはその名の通り神が作った道具で、とんでもない能力を秘めている。天見のモノクルや崑崙のガジェットも神具だ。
「ダメ?」
ウルウルとした目で見られ、天見は後ろ髪をかきながら、
「ベリメスの頼みなら断るつもりもないけど……で、その神具ってどんなの?」
「神剣『魔断大帝』。鍛冶の男神が作った神具で全ての魔法を両断する剣よ」
それを聞いて、天見は頬を引きつらせて頭に大きめの汗をかく。
「……………………それは……あれ? どっかのダンジョンの奥に眠っているとか、どっかの毒の沼に沈んでいるとか?」
「ううん。人手に渡っているらしいわよ」
「一筋縄ではいかない厳しい予感!」
「あなたは本当に素晴らしい魔法使いだ。魔法の威力は完璧で、魔法の理解度はオリジナルの経験を凌駕する。無手の魔法使いがあなたに勝つのは無理かもしれません。ですが――」
男は刀を一振りし、背負っている鞘に納める。その背後で血飛沫が激しく舞い、人が地に伏す。
「コピー魔法使いゆえに、あなたは私に勝てない」
コピー魔法使いの弱点を突かれた天見は、ベリメスの絶叫を死に向かう背中で聞いた。
最後に長編の予告を入れておきました。こう出来るように努力する予定です。
天見の裸体がさらされた時に出ましたが、天見は貧弱です。当然武器を持っての接近戦なんて技術はありません。ですので、武器魔法のコピーはかなりマズイです。
でも、それは天見の弱点であって、コピー魔法使いの弱点ではありません。だから、天見が負けて死にそうになるのは別の要因にするつもりです。
次回のストーリーはいまいち使ってこなかった武器関係のコピー魔法にするつもりです(まったく、武器を持つ魔法使いなんて野蛮な)。
それでは、ちゃんとしたプロットを作って書き始めて、たまってから載せますね。なるべく早くになるよう頑張ります。




