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第6話 その不可解、厄介につき



すべては、友人宅からの帰り道に、夜空を駆ける不思議な光を見たことから始まった。


真夏の熱帯夜。


アスファルトの残熱が揺れる街路樹の向こうで、その光は星々を縫うようにして、不規則な軌道を描きながら輝いていた。


もし、あれが遥か宇宙の彼方から旅してきた「何か」であったなら、ロマンを感じずにはいられない。


世の中にはまだ解明できない現象があるのだろうから、想像を広げてみるのも夢があっていい。



そんな感傷的な思考に浸りながら夜空の光を凝視していると、どういうわけか、その光がだんだんとこちらに向かって下降してきた。



(おお……ついに、私にも未知との遭遇が訪れるのか……!)



期待に躍る胸のトキメキを感じながら、私は息を呑んだ。


……ん?


ちょっと待てよ。


トキメキ?


「トキメキ」というのは、そもそも恋焦がれる異性を前にしたときに使う言葉ではなかったか。


いまの状況で「トキメキを感じる」というのは、客観的に見て正しいのだろうか。


気になる。


私はポケットから携帯端末を取り出し、画面にインストールされている高性能AIアシスタントを起動した。



『「ときめき」の正確な意味と語源を教えて』



画面の向こうのAIは、一瞬の澱みもなく、いかにも知的なトーンで回答を返してきた。


「トキメキ(ときめき)とは、期待や喜び、恥じらいなどの強い感情によって胸がどきどきすることを意味します。

現代では主に恋愛感情による気分の高揚を指すことが多いですが、素晴らしいものに出会ったときの感動や、未知のものへのワクワク感を表す言葉としても広く使われています」




「おお、なるほど。つまりトキメキは間違いではないと」



すっきりした私は、視線を夜空へと戻す。



すると、先ほどの光はすでに驚くほどの至近距離、わずか地上数十メートルの位置まで音もなく接近していた。



巨大な円盤状の輪郭が、街灯の光を反射して怪しくギラリと蠢く。



「おお、あれはいったい何なのだ。面妖な。」



……ん?



ちょっと待てよ。



面妖な?



「面妖」という言葉は、姿や形が変化して怪しくなることを指す言葉ではなかったか。


今の状況で「面妖な」と形容するのは、適切なのか?


気になる。


私は再び携帯端末に視線を落とし、親指を高速で動かした。



『「面妖な」の意味を教えて』



AIから丁寧な回答が返ってくる。



「面妖な(めんような)とは、不思議なこと、怪しいこと、または正体のわからない気味の悪さを意味する言葉です。

日常会話ではあまり使われませんが、時代劇、小説、アニメ、ゲーム(特に和風ファンタジーや歴史もの)などでよく耳にする表現です」



「良かった、意味は合っていた」



私は胸を撫でおろしたが、新たな疑問が湧く。



『じゃあ、「姿や形が変わって怪しくなること」は何て言うのだ?』



「姿や形が変わって怪しくなること、またはその姿のことを『異形(いぎょう)』や『変化(へんげ)』と言います」



『面妖に似た感じの言い方はなかったか?』



「妖変(ようへん)、怪しく不思議な姿に変わること。

面妖(めんよう)は不思議なこと、怪しいこと、そのさまを指す言葉になります」



「なんだそうだったのか、うん、わかってスッキリした」



私は長年の便秘が解消されたかのような爽快感に包ままれ、夜空へと視線を戻した。



――その光はもう無かった。



未知なる光は、私にロマンだけを残して、次の星へ旅立ってしまったのだろう。






その頃、UFOの中。


宇宙人A「あの、地球人めんどくせえな」





人類は、遥か宇宙の彼方へ旅する未来を夢みて、今日も星空を眺めている。


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