第10話 所長、アバターでも愛は揺るぎません
西暦2050年。
59歳になった私は、宇宙の彼方からやってきた友人と縁側でお茶を啜っていた。
かつて重度の引きこもりだった私を救い、妻となってくれた最愛の女性、神代七海。
彼女と出会えた奇跡の因果を完成させるため、私は友である宇宙人のオーバーテクノロジーを借り受け、超精密アバターロボットを24年前の過去――2026年へと遠隔転送したのだ。
2026年、25歳の七海と出会ったアバターの私。
事務所で彼女から注がれる重すぎるほどの愛、ハートのおにぎり、そして不発に終わる回復魔法。
やがてアバターと心を通わせた彼女は、真実を知ることになる。目の前にいる誠実な所長が、未来からの遠隔信号で動く器に過ぎないということを。
「私の好きな人は、いま、どこにいるの?」
真相を知った七海は、2026年、実家で両親と3人暮らしをしながら自室に閉じこもっていた本物の私――35歳の引きこもりの元へと単身乗り込んできた。
実家のインターホンが鳴り、母の案内で私の部屋へ押し入ってきた七海。
仰天するボサボサ頭の私。
「……だれ?」
怯える私に、七海は満面の笑みで告げたのだ。
「あなたの未来のお嫁さんです!」
そこから始まった、愛と魔法のリハビリ生活。
七海の手料理と圧倒的な包容力によって私は見事に社会復帰を果たし、2人は晴れて結ばれた。
そして時は流れ、2050年の私が過去へアバターを送り込むことで、すべての輪廻が美しく閉じる――。
「……ふふ、ふふふふっ♡ これぞ時空を超えた、運命のタイムパラドックス・ラブストーリー……!」
自分のデスクで頬杖をつき、ノートの隅にびっしりと書き殴られた『未来の所長と私の壮大なる愛の軌跡(全12巻予定)』を眺めながら、神代七海は恍惚とした笑みを浮かべていた。
――と、七海はふと我に返った。
「んんっ、うまい! やっぱりこの時期のシュークリームは格別だねえ!」
目の前のデスクでは、3日前に消費期限が切れたカスタードシュークリームを、指についたクリームまで綺麗に舐め取りながら満面の笑みで頬張る現実の所長(35歳・独身・至って普通の人間)の姿があった。
「あ、神代さん。本当にお腹痛くならないよ。僕の胃腸ってやっぱり日頃の行いがいいのかなあ!」
能天気にお茶をすする愛しい人の横顔を見つめ、七海はそっと印を結び直した。
「(……まあいいわ。アバターじゃなくても、未来から来てなくても、お腹を壊さないように私が一生回復魔法をかけてあげるんだから♡)」
神代の血を引く恋する魔法使いは、今日もせっせと所長の胃袋へ、特大のオーバーヒールを注ぎ込むのだった。
仕事しろよ、七海。




