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後日談Ⅱ 川の果て

  細く曲がりくねった川だった。


  ミレイアは小舟に揺られながら、

  流れのまま進んでいた。


  片手は剣の柄に添えたまま。


  周囲へ警戒を向ける。


  だが。


  辺りは闇に包まれていた。


  何も見えない。


  何も聞こえない。


  自分の呼吸すら。


  ただ。


  小舟だけが静かに流れていく。


  ----------------


  やがて。


  川の終わりへ辿り着いた。


  ミレイアは剣を抜く。


  だが。


  相変わらず静寂しかない。


  しばらく待っても何も起きなかった。


  ミレイアは舟から降りる。


  その時だった。


  「おかえり」


  声がした。


  懐かしい声だった。


  それでいて。


  もう何十年も聞いていなかった声だった。


  ほとんど反射だった。


  剣先が声の方へ向く。


  ミレイアも振り返る。


  そして。


  言葉を失った。


  そこにいたのは。


  見覚えのある顔。


  けれど。


  五十年近く会っていない青年だった。


  写真の中では毎日のように見ていた。


  兄の顔だった。


  「ここじゃ剣なんて要らないよ」


  彼は笑った。


  もう。


  あの頃のように怯えたりはしていない。


  自然な足取りで近付いてくる。


  そして。


  反射的に。


  剣が閃いた。


  迷いはなかった。


  青年の胸を貫く。


  だが。


  血は流れない。


  青年は呆れたように笑った。


  まるで。


  「だから要らないって言ったのに」


  そう言いたげな顔だった。


  「兄さん……」


  ようやくその言葉が零れる。


  兄は肩を竦めた。


  「よく言ってたじゃないか」


  「自分が作った国を見てほしいって」


  ミレイアは目を閉じる。


  そして。


  ようやく理解した。


  兄がここにいる理由を。


  自分がここへ来た理由を。


  「そうですか……」


  剣先がゆっくりと下がる。


  「私は死んだんですね」


  兄は何も言わなかった。


  ただ。


  優しく笑った。


  ならば。


  ここはきっと。


  三途の川の先なのだろう。


  しばらくして。


  ミレイアは恐る恐る尋ねた。


  「兄さんは」


  「どう思いましたか?」


  兄ならどう評価するのだろう。


  また否定されるのだろうか。


  それとも。


  今度こそ認めてもらえるのだろうか。


  兄は少しだけ笑った。


  優しく。


  本当に優しく。


  「そんなことはどうでもいいんだよ」


  そう言った。


  「大事なのは」


  「ミレイアが本当によく頑張ったこと」


  「大事なのは」


  「君がいつまでも僕の妹だってこと」


  「大事なのは」


  「僕たちがまた一緒に歩けることだ」


  そして。


  そっとミレイアを抱き締めた。


  「功績も」


  「過ちも」


  「それを決めるのは生きている人たちだよ」


  兄はそう言った。


  それから。


  手を取る。


  前へ歩き出す。


  老いて皺だらけになった手を。


  昔と同じように。


  小さな妹の手みたいに握って。


  「おかえり」


  兄はもう一度言った。


  そして。


  少しだけ笑う。


  「ミレイア」

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