後日談Ⅲ 結婚式
荒野の山だった。
三番隊の面々にとっては見慣れた場所だ。
何度も休暇で訪れた。
何度も笑った。
何度も思い出を作った。
だからこそ。
見慣れないものもあった。
山腹に建てられた小さな石造りの家だ。
三百年前なら。
立派な館だったのだろう。
少し前までは。
その名残である瓦礫が残っていた。
だが今は違う。
そこにあるのは。
慎ましい石の家だけだった。
----------------
ユウトは今でも覚えている。
修復しようと言い出した時のリコの目を。
あの目の輝きを。
もちろん。
見積書を見た瞬間の、あのがっかりした顔も覚えている。
「だってここで工事するの高いんだもん」
セレナが苦笑しながら頭を撫でていた。
「僕なんて二か月分の給料つぎ込んだんですよ!?」
ユウトも真剣に抗議した。
するとリコは。
『仕方ないなあ』
そんな顔をした。
十秒くらいだけ。
その後は。
いつもの笑顔で隊長へ抱き付いていた。
----------------
そして今日。
石の家は綺麗に飾り付けられていた。
「ユウト君!」
フィナの声が飛ぶ。
「その風船もっと上!」
「ルシア隊長も!」
「お花は真ん中のテーブル!」
ユウトとルシアは顔を見合わせる。
そして笑った。
言われた通り飾り付けを続ける。
その時。
外に車が止まった。
「ノエルパン屋でーす!」
「ケーキとお菓子、お届けに来ましたー!」
フィナが何か言う前に。
ガレスが荷下ろしを始めていた。
----------------
そして。
主役の登場だった。
リコとセレナが車から降りる。
二人はゆっくり石の家へ入った。
小さな家の中は人でいっぱいだった。
管理局の同僚たちの間を抜け。
やがて三番隊のみんなの前へ辿り着く。
その途中。
リコは慣れないドレスの裾を抱えて歩いていた。
案の定。
フィナに手を叩かれる。
「もう!」
「花嫁なんだからちゃんとして!」
リコは渋々手を離した。
純白の裾が床へ広がる。
その様子を見ながら。
ユウトがノエルへ顔を寄せた。
「先輩」
「二人とも同じドレスなのに」
「なんで隊長だけあんなに格式高く見えるんですか?」
「本人に聞こえる場所で私に聞かないで」
ノエルは少し距離を取る。
「いやだって」
「本当に同じドレスですよ?」
「隊長が緊張し過ぎてるからです」
フィナが呆れたように言った。
リコはセレナを見る。
確かに。
まるで新人が初めて訓練に参加する時みたいだった。
背筋がぴんと伸びている。
「セレナちゃん」
「緊張してる?」
「してません」
即答だった。
「でも手震えてるよ?」
「…………」
セレナは視線を逸らした。
「そういうことは言わなくていいんです」
その二人の後ろには。
正装姿のグラントが立っていた。
だが。
何度も空っぽのポケットを探っている。
当然ながらタバコは入っていない。
ようやく諦めて咳払いした。
「それでは」
「結婚式を――」
そこまで言った時だった。
リコが先に口を開く。
「セレナちゃん」
「僕ね」
「セレナちゃんが好きだよ」
「ずっと」
「これまでも」
少しだけ言葉を止めた。
思い出を振り返るように。
セレナが思い浮かべたのは。
思い出ではなく。
聞かされた過去だった。
それでも。
リコは笑う。
「これからも」
「ずっと好きだった」
「だから」
「結婚しよう」
セレナは小さく頷いた。
「よろしくお願いします」
「うん!」
「よろしくね!」
後ろで。
グラントは再び空のポケットを探った。
「おい」
「俺を司会に呼んだ意味あるのか?」
----------------
そんな式だった。
それでも。
誰も拍手を惜しまなかった。
「局長、おめでとうございます!」
「局長補佐、おめでとうございます!」
祝福の声が響く。
その中で。
三番隊だけは違う言葉を贈った。
「隊長」
「リコ」
「おかえり」
----------------
だが。
当のリコは感動するより先に動いていた。
真っ先にケーキへ向かっていた。
「ノエルのケーキすっごく美味しいんだよ!」
「セレナちゃん早くー!」
そう言って手を引く。
セレナは呆れたように笑った。
そして。
どこまでも優しい笑顔で。
当たり前のように。
その手を握り返した。




