幕間 尋問
男は手錠と足枷を嵌められていた。
全身を拘束魔法で縛られたまま、
椅子へ固定されている。
薄暗い部屋だった。
鼻をつくのは湿った黴の臭い。
管理局の連中め。
心の中で何度目かも分からない悪態を吐いたその時だった。
扉が開く。
男は顔を上げた。
入ってきた人物を見て、
少し意外に思う。
高官でも軍人でもない。
ただの老婆に見えたからだ。
だが。
視線が合った瞬間。
考えを改める。
――ただ者じゃない。
老婆は静かに歩いてくる。
そして男の正面へ腰を下ろした。
「君が教団の団長ですか?」
男は頷く。
「だったらあんたは誰だ?」
「行動部長か?」
「思ったより年寄りだな」
老婆は答えない。
ただ質問を返した。
「なぜこの国に反対するのですか」
「なぜ罪のない人々を殺したのですか」
少しだけ間を置く。
「……あなたは本来、そういう人間には見えません」
断定だった。
少しも迷いがない。
自分の判断を疑っていない口調だった。
男はしばらく黙る。
やがて。
低く呟いた。
「この国はもう終わってる」
「ほう」
たった一言。
それだけなのに。
胸を押さえ付けられたような圧迫感があった。
男は顔を上げる。
思わず声が大きくなった。
「真実を知れば、誰だって同じだ!」
口を開いた瞬間だった。
今まで押し込めていた感情が溢れ出す。
「俺は昔、学校で魔法陣を教えていた!」
「生徒が社会へ出ていくのを見るのが嬉しかった!」
老婆は無表情のまま聞いている。
男は構わず続けた。
「だが後で知ったんだ!」
「この国の真実をな!」
「指定封印地!」
「その全てが巨大な術式だった!」
「国民の命を吸い上げるためのな!」
拳を握る。
声に憎悪が混じる。
「だから学校を辞めた」
「そして真実を伝え始めた」
「もちろん誰も信じなかったさ」
「妻も娘もだ」
苦笑する。
乾いた笑いだった。
「最後に残った連中の大半は狂人だった」
「社会への不満をぶつけたいだけの連中だ」
「それでも構わなかった」
「利用するには十分だった」
「だから怪物になれる薬を与えた」
「この国を壊せるなら」
「それでいいと思った」
「だから封印地の魔物を解放した」
「どうせ同じだろう?」
「狂人に殺されるのも」
「魔物に殺されるのも」
「封印地に殺されるのもな」
そこで初めて。
老婆が口を開いた。
「残念ですが」
「あなたは失敗しました」
「教団は第一封印地で全滅しています」
男は鼻で笑う。
「それにアルカードもいるんだろ?」
「今頃頭を抱えてるんじゃないか?」
嘲るような声だった。
「それに俺を殺したところで意味はない」
「真実が広まれば」
「俺みたいな人間はいくらでも現れる」
「その尋問記録も」
「あんた自身もだ」
「結局はこの国の罪を広めることになる」
老婆は頷いた。
「なるほど」
そして。
机の上に置かれていた自動記録装置へ視線を向ける。
「忠告に感謝します」
次の瞬間。
剣閃が走った。
記録装置が真っ二つになる。
男が目を見開く。
何かを言うより早く。
剣先が喉を貫いていた。




