⑧ ボーイズ バンド フェスティバル
そのライブハウスは満席だった。
観客のほとんどが女性。
彼女たちは、目当ての新人男性ロックバンドの出番を待ちわびていた。
そんな中でひそひそ声が漏れてくる。
・・ねえ、あれ、アザリアの港川明菜じゃない・・・
・・ギターの樋川沙耶もいる。うわっ実物めちゃくちゃ奇麗・・・
・・あれは、パなんとかとかいうアイドルバンドに新しく入ったギターの娘じゃない?・・
・・そうなの?・・・
・・解散しちゃった元メタニカのギタリスト・・
・・ああ、桐子か、なんか雰囲気変わったね・・
・・あのサングラスにマスクした金髪の娘も多分、有名人だよ、きっと・・
・・なんで?・・
・・だってなんかSPみたいの連れてるし・・
そのロックバンドのメンバーたちはステージの袖から客席を覗いていた。
「力斗、お前の彼女、ちゃんと来てんじゃん」
「当たり前だろ、飛宇馬。あいつは俺ににべた惚れだからな。そんなお前の彼女だってきてるだろ」
「俺の初ステージが心配でしょうがないって、うるさいんだよ。」
「飛宇馬の彼女の姉さん女房ぷりっまじで笑えるわ。」
「うるせーぞ、塁也、まだ結婚してるわけじゃないし。女房じゃねーし。」
「まだ?じゃあいずれ結婚するんだ、飛宇馬。」
「それは、いずれするとは、したいとは思っているけど、まあ今はまだ、、、あ、あれ塁也の彼女さんじゃね?」
「ちっ、あのブス!来るなって言ったのに!」
「冷てーな、おまえ、あんなに健気でかわいいのに」
「はい、はーい。みなさーん、そろそろ行きますよ」
「はい、プロデューサー」
ステージにメンバーが登場した。
キャアアアアア!!!!
黄色い歓声が上がる。
ズダーン、ズダーン。
強烈なダンスビートが鳴り響き、ゴツゴツとしたベース音が絡んでいく。
空気を引き裂くようなテレキャスターのカッティングが刻まれる。
そしてアバンギャルドなバイオリンの響き。
そのバンドはギター、ベース、バイオリン、DJといった不思議な編制だった。
観客はすでに総立ち状態。
イントロが終わり、ギターの飛宇馬の甘く少しけだるそうなボーカルが始まる。
サイドをかりあげたパステルグリーンパンキッシュショートヘアの美少年。
キャアアアアア!!!!飛宇馬!!!!
すでに失神するものも出ている。
ベースの力斗が飛宇馬と同じマイクでコーラスを合わせる。
こちらは、亜麻色髪をマッシュウルフにした美少年だ。
力斗!力斗!力斗!力斗!
ファンの絶叫が続く。
そしてストレートの黒髪の塁也、5弦エレキバイオリンで高速タッピングをしているやや中性的な雰囲気の美少年である。
塁也さまああああああ!
ガチ勢は絶叫しながら涙ぐむ
そしてこのバンドの総合プロジューサー兼DJは!
くまの着ぐるみのマイケール!
まったくの無名だった3人を発掘した敏腕プロデューサー。
某有名プロデューサーがその身元を隠すためにくまの着ぐるみを着ているとか、
着ぐるみの中は、実は3人にひけをとらない美少年だとかいう噂もある。
「ありがとーみんな」
キャアアアアア!!!!
そのライブは、大盛況のうちに幕を閉じた。
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ライブが終わり、控室に戻ってきたバンドメンバーたち。
控室には、港川明菜、樋川沙耶、筒ヶ谷桐子に弓巻心美が待っていた。
あと黒服のSP数名。
「お姉ちゃんっ!」
飛宇馬は、いきなり樋川沙耶にひざまくらする。
「ちょっと、姫子じゃなくて飛宇馬やめなさいよ。もう法的にもDNA的にも姉妹じゃないんだし」
「そうだね、姉妹じゃなくて、今は恋人同士だし。で、今日の俺たちのステージどうだった?」
「えっ、どうって、それは、もちろん」
そこまで言うと、沙耶は、膝枕している飛宇馬の耳元に口を近づけて、小声で囁く。
・・・るんっ来たわ・・・
「力斗、お疲れ様」
「明菜、ありがとう」
「力斗、クッキー作ってきたんだ。口に合うかどうかわからないけど」
「口のほうを合わせるよ」
「じゃあ、あーんして」
「あーん」
そういって口をあけた力斗は、クッキーを食べさせようとしていた明菜の指先を舐める。
「もう、律子、やめてよ」
明菜は思わず、顔を赤らめる。
「ごめん、ごめん、明菜。それと今は、力斗、力斗。で最近アザリアのほうはどうよ?」
「問題ないわ、富家満智さんもよくやってくれてる。」
「桐子ちゃん、パなんとかのほうはどう?順調?」
「はい、力斗さん。頑張って練習していますが、曲も、なかなか難しくて。一緒に加入した三葉さんと練習してます」
「桐子は馬鹿でへたくそだしな」
「塁也くん、ひどい。」
筒ヶ谷透子は思わず、涙ぐむ。
「私だって、一生懸命練習しているのに、だって留美がいなくなって、私たち解散するしかなくて、それで・・・」
「うるさい、お前、黙れよ」
そういって塁也は、突然、桐子の唇を奪った。
いきなりのキッスにびっくりしてぽかんとする桐子。可愛らしく頬を赤らめている。
「はは、塁也は相変わらずだなあ。そうそう塁也、今日の2曲目なんだよ、いきなりアドリブに変えやがってさ」
「うっせーぞ、飛宇馬。俺は、俺の感情のおもむくままに弾くんだよ。それだけだ」
「塁也が一番変わったね、俺たちの中では」
「仕方ねえだろ、そもそもそこいる金髪のガキが」
「あら、それあたしの事かしら」
「そう、お前だよ、弓巻心美。お前が俺たちに余計なものつけてくれたから」
塁也はまじめに怒っているようにも見える。
「それなー、テロメア操作できるのに、なんで、こんな基本的なこと間違えちゃうかね。神様は」
力斗もそれに合わせる。
「俺もいまだトイレとか間違える。そのうち捕まるわ」
飛宇馬も愚痴る。
「アンドロギュヌスにならなかっただけましじゃない。でも私だけの責任?そもそも富家満智さんが私の記憶の・・」
「はーい、はーい、皆さん、それくらいにしときましょう」
マイケルが口をはさんだ。
「うっす。」
「じゃあ、みんなに聞くけど」
「心美、だからもういいって」
「今、幸せじゃない人はいってください」
・・・そんなの・・・
・・・言わなくてもわかるだろ・・・
・・・つまんねーこと聞くなよ・・・
・・・本当に当たり前のことを聞くなよ・・・
・・・そして、ほんと、君はいつも当たり前のことを言うね・・・
「ほらっ!みんな、いま、最高の笑顔じゃない」




