⑥ ハロー、ハッピー、ワールド
「ねぇ、美香、あれ何機目、相当するやつだよね」
炎を上げて墜落していくステレス攻撃機を見て三竹凛がつぶやく。
「凛、本体のみで1機430億だよー。」
すかさず青木美香が答える。
「オーナー、やめさせようよ、あれ税金の無駄だよ」
「国防軍にも意地ってもんがあるからね。ところで、三竹。最近、お前、いきりレズって評判だな」
「あー、やっぱり、SNSとかで叩かれているんだ」
「三竹さん。気にすんなって。あたしだって毎日SNSでアンチから死ね死ねって糞リプ受けてるし、そんなのミクロン、ミクロン」
「気にするわ、筒ヶ谷さん、普通に気にするものでしょ」
「うーすけは気にしいだからね」
「普通は気にするんだあー」
普通という言葉に敏感に反応する富家満智七海。
「富家満智には関係ないだろ、つーか、そんなこと言ってる間に早く作戦立てろよ」
「桐子ちゃん、作戦は、もう出来ているよー。みんなを集めてくれるかなー。」
「やっぱ、富家満智お前普通じゃないわ」
ドールズたちの前で、富家満智七海は作戦の概要を説明する。
「富家満智さん、つまりは、私たちは、360度全天球全方位から間断のない攻撃を加える。
攻撃には一致乱れる整合性を保ちつつも、攻撃内容、速度等においてバリエーションをつけるということでよいのかしら」
「沙耶さん先輩。そういうことですー。それで心美さんが、新たな攻撃への対応するための0.003秒の隙に、心美さんの精神中枢に侵入し、干渉を行います。まあその準備はいまからするんですがー。」
「ウィルスみたいなものね。。でも、あれだけの闇を抱えたこころさんの精神に干渉できるウィルスなんて簡単にできるものなの?」
「うーちゃん、ウィルスというか、まあ、基本は、心美さんの精神の中にあるものを利用するわけで。いずれにしても電子的な潜入は私とともとも先輩で行いますが、紗理奈先輩はバックアップをお願いします。」
「頑張ります」
「おうよ」
「じゃあ、作戦は今から30分後。1430スタートです。」
各小隊は装備を整えて配置についた
「富家満智さん、作戦開始まであと1分ですね」
「ともとも先輩が手伝ってくれたから間に合ったよ、コンパイル終わったからじゃあテストしてみるね。実行っと」
ビー
「あ、エラーでちゃった。」
「富家満智さん、ごめんなさい、たぶん私の書いた部分のミスで」
「ミスなんて普通だよ。直せばいいだけだし」
「でも、もう時間が!」
「時間はまだあるよ」
そういって富家満智七海は、実行モジュールを開き直接パッチをあてていく。
「うそ、この大きさの実行モジュールを直接修正する人なんて!」
あらためて黒金智子は、その神業に仰天する
「これくらい普通だよー。できたー。間に合ったねー」
同時にドールたちの総攻撃が開始された。
各小隊の足並みはぴったりと揃い、弓巻心美に対して間断なき攻撃を浴びせている。
しかし、それはダメージを与えるということはない。
弓巻こころは、まるで攻撃を予知しているかごとく、機敏にかつ正確にピンポイントバリアを展開し攻撃をはじき返す。
「月野。あの娘たちは、やるね、各小隊ともぴったり息があった攻撃だ」
「オーナー、これもドール活動の成果ですね」
攻撃が開始されて約10分が経過し、時計を見ていた富家満智七海は黒金智子に目配せする。
「ともとも先輩、そろそろだよ。せーので!」
「はい、富家満智さん」
「せーの」
2人は同時にエンターキーを押す。
0.003秒の刹那で同時に。
2人は寒々とした荒野に立っていた。
「富家満智さん、ここが」
「ここが、具象化された心美さんの精神中枢だねー」
「寒いところですね」
「えーっと、退避記憶、退避記憶。これか、これをメモリに流し込んでと、あっ」
「どうしました富家満智さん」
「このままだと、容量が足りないな、なんか消せるものはないかな、戦闘に関係ないものを」
「なんで戦闘に関係ないものを消すんですか?むしろ戦闘に関係あるものを消したほうが」
「うーん、今、心美さんは、論理的に攻撃に対処しているから、わたしたちも対応できているんだよ
下手に消すと暴走しかねないからね。あ、このあたりでよいか、ともとも先輩。念のため、バックアップお願いします。」
「はい」
「よし、流し込み終了っと。じゃあ、撤退しましょう。」
「はい」
弓巻心美の心象世界。
・・・・ここは、寒いわ・・・・
・・・・ねぇ、私誰だっけ・・・・
・・・・殺す。滅ぼす。なぜ・・・・
「・・・オモイダシテ・・・」
不思議な声は心美に話しかける
・・・思い出すって何を・・・
「・・・ライブタノシカッタネ・・・」
・・・ライブって何?・・・
「・・・ミンナエガヲダッタネ・・・」
・・・うん、笑顔だったね・・・
「・・・アナタ、エガヲスキ?・・・」
・・・うん、好きだよ・・・
「・・・アナタハダレ?・・・」
・・・私は・・・・・
・・・歌が好きで・・・
・・・みんなの笑顔が好きな・・・
・・・あ、思い出した・・・
バンドでのライブ風景。
お客さんの笑顔。
練習後のバンド仲間との他愛のない会話。
仲間の笑顔。
当たり前の記憶が・・・
ずっと忘れていた記憶が・・・
楽しい思い出が・・・
鮮明に浮かび上がってくる。
でも、しかし
同時に自らが手を汚してきた事実も
血で汚れた手も・・
死体の山も・・
・・・これもまた、私が受け入れなくていけない過去・・・
・・・忘れてはいけない事実・・・
・・・その過去を受け入れてなお、今の私は・・・
・・・その事実を認めたからこそ、わたし、弓巻心美は・・・
「今は、世界を笑顔にできるのよ!!!」
スウゥゥゥゥゥゥ
黒い霧が一気に晴れていく。
漆黒の霧の中心であった神殿はいまや眩しいばかりの黄金色に煌いている。
「富家満智さん、成功したようです。心美さんへの心理操作が」
「ともとも先輩、それはちょっと違うかなー。操作ではないよ。本来の心美さんに戻っただけですよー」
「そうですね、しかし、どんな魔法を使ったのですが、あの闇を振り払うほどの特別な対抗手段って」
「ともとも先輩、わたし、普通のことしか伝えてないよー。
ライブ盛り上がって楽しかったねーとか、学校での他愛のないおしゃべりとか、放課後のカフェタイムとか、友達とのショッピングとか、そんな普通の日常を思い出してって言っただけだよー。あとは、過去は消せないよーとか、人は誰でも裏表あるのは普通だよーとか、そんな普通なことを、普通に言っただけだよー」
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「こんな、こんな馬鹿なことがあるか!」
薫子には今の状況が理解できなかった。
「何故だ!神の力、破壊と創造の力より平凡なうつしよを選ぶというのか!」
・・・ははは、シェイクスピア曰く。愚者は己を賢いと思うが、賢者は己が愚かなことを知っている・・・
「誰だ!俺に説教たれるやつは!」
・・・ははは、君の夢のなんて儚いものだったんだ、君は人ならざるものであるのに・・・
「黙れ!俺に語りかけるな!」
「お前の精神なんかとうに消えたはずだ!」
その言葉を最後に、瀬島薫子は卒倒した。
そして黄金色の宮殿は、ゆっくりと地上に向けて降下していく。




