⑤ 合理的判断と自動演奏人形
「ねえ、マイケル!なんで、みゆきが、みゆきたちがが攻撃してくるの!」
「心美!危ないから頭下げて!」
くまの着ぐるみは心美の頭をぐっと抑える。
「こころ、あれはみゆきではないよ。だってみゆきが何人もいるわけないでしょ」
・・・恐らくは光学迷彩・・・
「今、敵の正体を明らかにしてみせますよ、それっ!」
そう言うとマイケルは手榴弾のようなものを取り出して投擲した。
ドンっと爆発音とともに敵兵をこまかな霧が包む。
光学迷彩を解除するための特殊兵器である。
「これで、あいつらの正体が。えっ」
マイケルは、いや、奥澤みゆきは目を疑った。
敵の姿は相変わらずみゆきのままなのである。
「ハハハ、セブンスは、儚い当てが外れて驚いているようだね。」
突然、瀬島薫子は笑い出した。
「セブンス、なぜ、それを?薫子さん、あなたは一体?」
奥澤みゆきは、その言葉を聞いて動揺する。
「これは、儚い嘘をついた子猫ちゃんへの罰なのさ」
「薫子くん、郁美、薫子くんが何言っているのわからないよ」
「つまりこういうことさ」
瀬島薫子は、心美の頭に拳銃の銃口を突きつけた。
「セブンスは嘘つきだが、心美、君も大嘘つきさ。さあ、こっちに来てもらおう」
そういって、こころを連れた瀬島薫子は、敵に向かって歩いていく。
みゆきの姿をした敵兵たちは、銃撃を止める。
突然の展開に他のドールたちも応戦を停止する。
「マジ、まじかよ。薫子さん、裏切ったのかよ。どーすんだようーすけ」
「えっ?筒ヶ谷さん、どうするって急に言われても。。」
「三葉さん、薫子さんには何らかの目的なり、交渉の意図があるからこそ弓巻さんを攫ったはずよ。その意図を確認するために今は敵の出方を待ちましょう」
八汐留美が淡々と話す。
「そ、そうよ、私も今、それを言おうと思っていたところなのよ。ところで富家満智さん、あなた何やってるの?」
「何って、ハッキングだよー。うーん、誰か手伝ってほしいなあー。みんな忙しいそうだしなあー」
「富家満智。わたしが手伝うよ。」
四ツ谷紗理奈が手を上げた。
「え、本当、紗理奈先輩が手伝ってくれるなら、百人力だよー」
「えーとハッキング先は?ちょまっ!富家満智、これ進化研のレベル6?」
「そーだよ。進化研のみゆきネットワークだよー。もうすぐ最終防壁を突破できそうだよー」
「みゆきネットワーク?しかも存在しないはずのレベル6って。」
「えへへへ、紗理奈びびってる?」
香織は、四ツ谷紗理奈の後ろから抱き着いた。
「香織!びびってねえし、オタク舐めんな!」
「これは、みゆきちゃんのクローンたちの制御のためのネットワークだよー。奥澤さん、これいじってもいいよねー」
富家満智七海は、奥澤みゆきのほうを向いて問う。
「かまないよ。私はとうにネットワークから切り離されている。というか、今も、このネットワークが生きているなんて思わなかった。」
「ははあ、私のおもちゃにいたずらをしようとしている悪い子猫ちゃんがいるね。」
みゆきネットワークの異常に気が付いた瀬島薫子は薄ら笑いを浮かべる。
「厄介なセブンスだけ叩けば、残りは、儚い雑魚だけさ、さあ僕のしもべたちやってしまえ」
みゆきの姿をしたクローンたちは、一斉にみゆきに向けて突撃を開始した。
すかさず、応戦する奥澤みゆき。
「うーん、さすがに自分の姿相手の人殺しは気持ち悪いなあ。」
奥澤みゆきは、そうぼやきながらも、敵兵をなぎ倒していく。
あっという間に死体の山ができていく。
「ハハハ、まんまと私の儚い誘いに乗ってくれたね。でおしまいさ。」
応戦していた奥澤みゆきは、いつしかにか本隊と離れてしまっていたのだ。
そしてその間隙を縫って、別動隊が一斉に富家満智たちを襲ってきた。
「ごめん!富家満智!突破された!逃げて」
筒ヶ谷桐子が悲鳴を上げる
「ちょまっ!富家満智!まじやべええ」
四ツ谷紗理奈も腰を浮かせる。
しかしそんな状況に全く動じず、キーボードを叩き続ける富家満智七海。
そして、みゆきクローン兵たちの銃剣が彼女に迫る。
絶対絶命の危機!
ぐさっ!!!!
銃剣が肉を抉るにぶい音。
??????
「・・・筒ヶ谷さん、あなたはいつもそうね・・・」
銃剣が刺さり鮮血が迸る自分の胸を眺めながら淡々と語る留美。
「・・・ありがとうルミルミ・・・」
倒れこむ留美に横目で見やりながら、最後のコードを入れ終えた富家満智七海は、エンターキーを押す。
「・・・でも、これで、終わりだよ・・・」
途端、突然の発作の如く、クローン兵は次々と卒倒していく。
「留美いいいいいい!」
絶叫しながら筒ヶ谷桐子は、留美の傍らに走り寄る。
「なんで留美なんだよ。いつも冷静な留美が、なんでこんなことするんだよ!」
「合理的な判断よ。私が生きていても、富家満智さんがやられてしまったら、どうしようもないじゃない。」
「また、合理的かよ!お前、それでいいのかよ!お前、また合理的な判断で動いて、結果、こうなって・・・」
「別に後悔はしていないわ、それに富家満智さんを信じていたから・・・」
そう行って八汐留美は静かに息を引き取った。
終わった。
ドールたちはそう思った。
しかし
ハハハハハッ
血まみれの戦場に薫子の高笑いが響く。
「やはり劣化コピーのコピーなんてこんなもんか。さていよいよ真打の登場だね。お前たち出番だよ」
薫の後ろから5人の人影が現れる。
その姿は、弓巻心美であった。
5人の弓巻心美であった。
5人の弓巻心美を引き連れた瀬島薫子は、こころとともに、ゆっくりとドールたちのほうに歩を進めてくる。
「やあ、子猫ちゃんたち。元気そうだね。安心したまえ、別に君らには手を出すつもりはないよ。」
瀬島薫子は、ドールたちに向かって冷ややかな笑顔を向ける。
「わたしの目的は、このPSの出来損ないでセブンスを十分いたぶってから、こころに殺させることだけだからね」
「わかった。薫子、私が相手になるから、他のみんなには手を出さないことを約束してくれ」
奥澤みゆきが前に進み出る。
「ハハハ、セブンスはすいぶん儚い願いをするんだね。シェークスピア曰く期待はあらゆる苦悩のもと。いいよ、その願い聞いてあげようじゃないか」
「感謝する」
「マイケル、一人で戦うなんておかしいよ、郁美も一緒に」
「はあ、迷惑なんですけど、南沢さん、余計なお世話なんですけど」
「しょんなあ・・・・」
「みゆきちゃん、あなた、」
「果歩さん、わかってくださいね。」
たあああああ!!!
叫びながら、奥澤みゆきは、5人の弓巻心美に向かっていく。
5人の弓巻心美が、みゆきに襲い掛かる。
そして、クマの着ぐるみの絶望的な特攻を、ただ見守ることしかできないドールたち。
「ねぇ、紗理奈っ?ところでなんで、薫子くんは、みゆきちゃんのことセブンスって呼ぶの?」
そう言いながら小山香織は、四ツ谷紗理奈に抱きついた
「ちょまっ、香織っ!いきなり抱きつくなよ」
「なんで敵兵がみんなみゆきちゃんなの?そして、なんで急に倒れちゃったの?ねぇねぇ」
「わかった、わかった、わかったから」
「そして今度は、なんで心美ちゃんが五人いるの?」
「香織、今、説明してやるからとりあえず離れろよ」
「もう、紗理奈ったら照れちゃって」
「はい、はい、じゃあ説明するからしっかり聞けよ。一回しかしてやらねーからな。
四ツ谷紗理奈は、語りだした。
今から16年前に進化研で、あるプロジェクトが始まったんだ。
通称「みゆきプロジェクト」。
デザインベイビーを使って最強の戦士を作るというプロジェクトだ。
デザインベイビーの名前は、「みゆきシリーズ」。
みゆきシリーズは、いままで何代もかけて改良されてきた。
で、その7代目が、今ここにいる奥澤みゆきなんだよ。
7代目だからセブンス。
そして彼女たちの戦闘の記録を蓄積して解析、改良し、彼女らの脳にフィードバックするネットワーク。
それがみゆきネットワークというものなんだよ。
進化研の最高のセキュリティレベル5のさらに深層のレベル6にそれはあったんだ。
あ、ちなみにデザインベイビーは普通の人間よりも成長も老化も早いからね。
だから奥澤みゆきは、いま2歳くらいかな。」
「でその初代から6代目までのみゆきちゃんはどうなったの?」
「みんな死んじゃったよ。いや、正確には殺されたんだ。
みさきプロジェクトが始まったと同じ時期に、弓巻重工でも、あるプロジェクトが始まった。
「シヴァ復活計画」ってやつさ。
香澄は知らないかもしれないが、シヴァって言うのはヒンドゥー教の破壊と再生をもたらす神と言われている。
その魂の器を弓巻重工は、とある遺跡から発掘したんだ。
そして弓巻家の当主弓巻大蔵が自らの娘に、その魂を移植した。
それが弓巻心美なんだよ。
生まれたばかりの弓巻心美は何の変哲もない少女だったんだ。
しかし同時に発掘された古文書の解析と繰り返された実験によってある事実が判明した。
すなわち弓巻心美の超常の力は、より強い戦士との戦いを経ることで発現し、強化されるということがね。
それでここに進化研と弓巻重工の思惑が一致する。
最強の戦士の実現のためのデザインベイビー、みゆきシリーズと弓巻心美との殺し合いがこうして開始されることになったわけだ。
結果、6代目までのみゆきシリーズはすべて弓巻心美によって殺され、その力はこころに吸収された。
ちなみに、進化研の当時のみさきプロジェクト責任者は、瀬島龍吉。薫子さんのおじいちゃんだ。
そして瀬島龍吉は、弓巻重工の社外取締役でもあった。」
「えっ紗理奈なんでそんなこと知ってんの?それに心美がそんな事するなんて見えないよ」
「私もさっき知った。富家満智と一緒に進化研にハッキングした時に知った。
それとね、心美は、短期記憶の消去や記憶の改竄がされているんだよ。
だから心美は、自分がやったことを全然覚えていない。。はず。。本当にそうかは、ちょっと自信ないけど
ところで6代目みゆきが殺された直後に、みゆきプロジェクトは突如、中止になった。
理由は、進化研があらたな可能性を見つけたからなんだ。
それは、進化しつづける弓巻心美をもとにした新たなクローン兵士の開発。
「じゃあ、薫さんのおじいちゃんの瀬島龍吉が今回の黒幕ということ?」
「半分当たりで半分はずれ。瀬島龍吉は最初の弓巻心美のオリジナルクローンがうまれた直後に死んでいるんだよ。その死因ははっきりしない。
その意思を継いだ薫子さんが、7代目のみゆきちゃんの遺伝子を使って、クローンみゆきを作り、放棄されていたみゆきネットワークを再稼働させた。
そしてさらに弓巻心美のオリジナルクローンから、あの5体のクローンを作った。
ざっとそんなとこかな。でも疑問もあるんだ。」
「紗理奈!もうあたしの頭の中、もうごちゃごちゃだよ。明日は、期末試験なのに、心美と一緒に勉強したこと全部忘れそうだよ。」
「明日は数学と歴史と生物の試験か。って香織、いまそれを気にすることか!
で話を戻すと、薫子さんって瀬島龍吉とはほとんど接点がなかったそうだよ。
もちろん進化研にも何の関係もない、普通の演劇好きの少女だったんだ。
そんな薫さんが突然、瀬島龍吉の意思を継いで、こんなことを始めるとは思えない。
まるで誰かに操られているような。。。」
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「ハハハ、セブンスはざまあないね」
満身創痍の奥澤みゆきの姿を見て薫が笑う。
「さすがに、オリジナルクローンのコピーとは言え、弓巻心美5人を相手じゃ、こうなりますか」
みゆきは地面に膝をついて苦笑する。
「あーあ、これで終わりか、まあ、遅かれ早かれだったけど」
「さあ、心美、君の力でセブンス、いや奥澤みゆきに止めを刺すんだ。その儚い命を奪ってしまえ」
「いやよ、それにみゆきなんかいないじゃない。」
「はは、嘘つき子猫ちゃんは、まだそんな事言うのかい。まあいい。じゃあそこの汚いクマの着ぐるみを、マイケルを殺してしまえ。いままでやってきたようにさ、簡単だろ。」
「殺さないわ。そして私は誰も殺していない。」
「そうか、じゃあ仕方ないな」
そういって薫子は心美の耳元に口を近づけて真言を唱える。
こころの精神を操るための悪魔のパスワードを。
途端、心美の表情は変わり、口の端が上がり、目を吊り上げ鬼のような様相を呈す。
・・・殺してやるわ・・・
普段の声とか全く違う低い声でうなる
心美のコピーの一人が持っていた長刀を奪い取ると、一閃してその首を刎ねた
・・・いい切れ味だわ・・・
「ハハハ、いつも通りのめちゃくちゃだ」
身の危険を感じた心美のコピー、残りの4人が同時にこころに切りかかるが、一瞬で切り捨てられてしまった。
「おーい、こころ、相手が違うぞ、相手が」
・・・わかっているわ・・・
そして膝を屈しているみゆきの胸の長刀の先を突き付けた。
「いいよ、こころ、やって。これもあたしの運命だし。」
グザッ
長刀がみゆみの身体を貫いた。
「みゆきちゃーん!」
「みーくん!」
みゆきは仰向けに倒れた。
そして心美に向けてほほ笑んだ。
「ごめんね、心美・・・・」
「また、助けられなくて・・・」
その言葉を聞いた途端、心美は我に返る。
「また?助ける?なんで?」
「み、みゆきなの!」
「なんで私、私がみゆきを刺してしまったの?」
「・・あ、心美、正気に戻ったんだね・・・でも、あれ、みゆきって・・果歩さん、もしかして自分の光学迷彩解けてます?・・」
「みゆきちゃん、解けてないよ、マイケルのままだよ、でも・・」
「なーんだ、それに、郁美も今、みーくんって、みんな嘘つきだな・・・」
・・・でも、一番の嘘つきは・・・
・・・自分か・・・
そう言って、みゆきは息を引き取った。
「みーーゆーーきーーー」
号泣する心美。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
突然地が響き、雷鳴が轟く。
そして、心美の周りを黒い霧が包み始める
「ハハハハハ、や、やった!ついにやった!弓巻こころの真の目覚めが!破壊神の復活じゃが!」
瀬島薫子の狂気に満ちた哄笑が響き渡る
「ハハハハハ、待ちに待ったこの日がついにきたぞ!」
黒い霧はまるで神殿のように形づくり、弓巻心美を包んで空に上がっていく。
「くそ、遅かったか!」
「オーナー!、それにみんな!」
大阪から戻り合流を果たした都田大佐とドールたちは、目の前に広がる光景に唖然とした。
「美香!」
三竹凛が青木美香のほうを向いて叫ぶ。
「美香ちゃん、いくよーーー」
青木美香は、肩に担いでいたスティンガーミサイルを発射する。
スティンガーミサイルは一直線に心美に向かって進んでいく。
ドガッ、ドーン
しかしミサイルは光の壁に阻まれてあえなく爆散する
「オーナー、あれピンポイントバリア?」
「三竹、恐らくそうだろうね」
「ハハハ、儚い通常兵器なんかあれに効くものか。いっそ核でももってこい、たわけども。
では、私は、この世界が滅ぶ姿を特等席で眺めるとしよう。」
いつの間にか、背中に羽を生やした薫子は上空に上がっていく。
黒い闇はさらに広がり東京上空を覆っていた。




