④ 姉妹と自動演奏人形
大阪市でライブを終えた翌日、深夜に反政府勢力の拠点への強襲を控えながらも、アザリアの樋川沙耶と妹のパなんとか樋川姫子は、大阪の街に繰り出していた。
「お姉ちゃん。今日一日は、私のいう事聞くんだよ。」
「わかってるわ、姫子。行きたいとこでも、欲しいものでも何でもいいなさい。」
楽しそうな姫子を横目に沙耶は、深いため息をつく。
「お姉ちゃんとデート楽しいな。お姉ちゃんは楽しくないの?」
「姫子、私にとっては罰ゲームよ。なんで楽しいはずが」
「まず、お姉ちゃんがやりたいことをやりたいな。なんかある?」
「今すぐ、部屋に戻ってギターの練習よ」
「それは、却下だな。じゃあまずアイドルショップに行こう」
姫子は、沙耶の手をとってアイドルショップに入っていく。
「あった!これだ。この店だけの店舗特典ついてるやつだ」
姫子は、あるアイドルのCDを手にして喜んでいた。
「姫子、そのアイドルが好きだったの?知らなかったわ」
「ううん、私は好きじゃないよ。綾香ちゃんが大好きなアイドルだよ」
「ああ、お土産なのね。」
「じゃあ次はどうしようかな。。剣道防具店に行こう。お姉ちゃん」
二人は剣道防具店に入っていく
「お姉ちゃん、この面の面縁。パステルバイオレットカラーでまさにブシドーって感じだよね」
「そうなの?私には、そうは思えないわ。」
「お姉ちゃん、ここでほしいものある?」
「あるわけないでしょ」
「じゃあ次は食事して、映画見に行こう」
食事を済ませて映画館に入る二人。
「お姉ちゃん、これ見よう」
「この映画、黒鷺千景さんが出ているのね」
「そうだよ。主役じゃないけどね。千景ちゃんの演技は本当にるんってくるよね」
「るんっかどうかは知らないけど、悪くない演技ね」
映画が終わり、今度は楽器屋へ。
「ここなら、私も時間は潰せそうね。私はエフェクターを見ているから、姫子は好きなもの見てきなさい」
「うん、そうするね。」
・・・ここが姫子が、来たかったとこなのかしら。・・・
そう思った沙耶であったが、姫子が買ったのは、ギターとベースのリペア用具であった。
「ギターのは分かるけど、ベース用って、ああ長門真美さんへのお土産ね」
「お姉ちゃん、お揃いのピック買おう」
「買ってもいいけど、ライブでは使えないわよ。私たちは、EPSのバンドロゴ入りって決まっているじゃない」
「使わなくていいよ、お守り代わりだよ」
楽器屋を出た頃には夕日が迫っていた。
「姫子、そろそろ帰る時間よ。でもこんなデートでよかったの?」
「なんで?お姉ちゃん。楽しかったよ」
「だって丸川さんの好きなアイドル、古宮さんの剣道用品、黒鷺さんの出演映画、長門さんの修理用品。どれもあなたのバンドのメンバーのやりたいことじゃない。姫子自身がやりたいことはないの?欲しいものはないの?」
「お姉ちゃん、私の欲しいものはね」
ズドーン!
姫子は、そう言いかけとき、激しい爆発音と爆風が2人を襲った。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!大丈夫!」
「ええ、大丈夫よ。耳が少しやられたけど、マーシャルを無駄にボリューム上げて毎日鍛えているから大したことないわ。姫子は?」
「わたしも大丈夫だよ。わたしはJCだけど耳も大丈夫だよ」
二人の携帯が同時になった。
湊川明菜と丸川綾香からの緊急連絡であった。
「どうやら、うちのメンバーが今攻撃を受けているらしいわ。そっちは?」
「お姉ちゃん、同じだよ。苦戦してるみたい」
「とりあえず、部隊に合流しないと」
パンパンパン
自動小銃の乾いた銃声が響く
紗夜と日菜は、拳銃を抜いて敵の位置を確認する
「簡単に合流できないようね」
「お姉ちゃん、どうする?とりあえずここからなら私の小隊のほうが、近いよ」
「そうね。そんな大部隊ではないからまずパ隊に合流してから、アザリアに合流するのが賢明ね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻。
第4小隊、通称パ隊も苦戦していた。
最高戦力の樋川姫子を欠いての交戦であったので当然である。
しかし、意外に善戦はしていた。
特に古宮糸の近接戦闘能力、特に剣術は秀でたものがあり、敵の戦力を削いでいった。
電子戦闘員の長門真美も白兵戦に長けており、また黒鷺千景は、パニックになった丸川綾香を叱咤し、沈着冷静な判断を指示を行っていた。
「綾香ちゃん、大丈夫よ。もうすぐ姫子ちゃんと沙耶ちゃんが合流するわ。敵を挟み撃ちにできるわ」
・・・もっとも姫子たちのほうも今頃は・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
沙耶と姫子は、敵兵を倒しつつも第4小隊に近づきつつあった。
そんな中、沙耶は、劣等感に苛まれていた。
やはり戦闘能力は圧倒的に姫子のほうが高いという事実を思い知らされて
・・・私は、姫子に助けられているの?姉としての私が・・・
・・・やはり私は、頑張っても姫子には及ばないってこと・・・
「お姉ちゃん!あたしの部隊を視認したよ。」
「あ、姫子。私も確認したわ。この位置だと敵を挟撃できるわね」
「お姉ちゃん、でも私はちょっと伏兵が気になるけど。」
その言葉に沙耶はいままで抱えていたイライラ感を爆発させた
「姫子!今は攻撃のチャンスよ!私の言うことを信じないの!」
「わかったよ。お姉ちゃん。気をつけて」
「しつこいわよ、姫子!」
そういって、沙耶は敵部隊に向けて駆けだしていく。
その瞬間!
沙耶の側面に潜んでいた伏兵が沙耶に自動小銃の銃口を向けたのだ!
「お姉ちゃん!」
パパパパーン
乾いた銃声が響く
「ひ、姫子!」
姫子は、瞬時に跳躍して敵兵と沙耶と間に割り込み、自動小銃を乱射した。
伏兵は、射殺され、後背を突かれた敵兵たちは、撤退していく。
しかし、姫子も敵の銃弾を全身に浴びて血みどろになっていた。
「ひ、姫子!」
「よ、よかった。お姉ちゃんが無事で・・・」
そういって姫子は地に伏した
パ隊のメンバーが姫子の周りに集まってくる。
「私のせいだわ、私のせいだ、私のせいで姫子が・・・」
沙耶は姫子の手をとって大粒の涙をボロボロと流す。
「お姉ちゃんのせいじゃないよ・・・」
そういって姫子は、優しく微笑む。
「なんで!笑顔なのよ!そんなになってまで、あなたはなんでそんなに嬉しそうなの!」
「なんでだろうね。お姉ちゃん。私、わたしたちは、双子だよね。双子の姉妹だよね」
「そうよ、生まれた時から一緒の双子じゃない」
「だからね、私がお姉ちゃんに妹じゃなかったことなんか一時もなかったんだ。私、それが本当に嬉しくて、本当に嬉しくて・・・」
「でも、私は、姫子には何もしてやれなかった。姫子の欲しいものは何ひとつとしてあげられなかった」
「違うよ、あたしの欲しいものは・・」
姫子は、沙耶を見つめて微笑む。
「・・・もう貰ってるよ。お姉ちゃん・・・」
それが樋川日菜の最後の言葉であった。
優しく、そして柔らかな表情で、まるで眠るように目を閉じた日菜。
「姫子、ふざけないで!目をあけなさいよ!」
「沙耶さん、姫子さんはもう。それにまだここは危険です。」
長門真美が沙耶の肩に手をかける。
「沙耶!姫子がここいるのよ!妹がここにいるのよ!」
「沙耶さん、自分卑怯な言い方します。もしここで沙耶さんまでが、、」
「わかったわ、真美。続きは、もう言わなくていい。アザリア隊に合流します」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そしてアザリア隊を包囲する敵陣の一角と破って紗夜とパ隊は合流を果たす。
戦力差に苦戦していたドールズたちであったが、東京から軍用VTOL機で駆けつけた都築大佐自ら率いる第2小隊の加勢により戦況は一気に覆され、敵は一掃された。
しかしさらなる犠牲者がうまれていた。
今田律子が腹部に銃弾を受けて重傷を負ったのだ。
致命傷であった。
もちろん湊川明菜を庇っての被弾であった。
「あは、あたし、またドジ踏んじゃったね、ごめんね明菜」
「律子、喋らないで!智子、律子の傷を見てやって」
「あ、はい、今田さん。失礼します。」
黒金智子は、律子のシャツをボタンを外し、はだけさせる。
え????
律子の身体の傷を見て思わず口を押えた。
「け、軽傷です。だ、大丈夫ですよ、今田さん」
「智子、いいよ、無理に嘘つかないくても、自分のことだからわかるよ。」
「そ、そんなことないです、今田さん、すぐに病院に。。」
「そうよ、律子。馬鹿なこと言わないで!」
「そうだね、でも、私、明菜が無事だったからそれでいいや」
「律子!」
「わたし、医療担当なのに、こんなことになってほんとダメだね」
「律子さん!」
明美が涙声を上げる
・・・出血がひどい、恐らくは彼女の命はそう長くもない。・・・
「湊川さん、こんな時に言うのもなんですが、甘いもの欲しくないですか?」
律子の脈をとっていた沙耶が唐突に言い出した。
「沙耶!何よ、こんな時に」
「ありがとう、沙耶、私の鞄の中にさ」
沙耶の言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべる律子。
「はい。わかりました」
そういって沙耶は律子の鞄を開き、中から小袋を取り出し、明菜に渡す。
律子の手作りクッキーであった。
震える手で袋の口を結んだリボンをほどき、中からクッキーを取り出し口に運ぶ明菜。
「ど、どうかな」
「悪くないわ、いつも通りの律子の味よ」
「あは、その言い方、凛みたい。でもよかった。クッキー食べてくれて」
律子は静かに目を閉じる
「食べるわ!これからもずっと律子のクッキーを!だから!」
・・・・
「律子!目をあけなさいよ!」
・・・・
「律子!、あなたがいないと、あなたがいないと、ダメなのよ!」
「湊川、今田はやり切ったんだろ、でも、お前は」
号泣する明菜の肩に手をかける都田大佐。
「オーナー!」
明菜は、都田大佐を睨みつける
「まだ、お前は、お前たちはやり切っていないだろ!」
「は、はい。」
明菜は涙を拭う。
「オーナー、まりなさんから連絡です。」
緊張した面持ちの黒金智子は軍用無線機を都田大佐に手渡す。
「そうかい、やはり動いたかい」
「お前たち、みんな聞いてくれ。いま本部が攻撃を受けている。お前たちは、連戦となるが、いまから一緒に本部に戻ることになる。さあ急いでくれ」
いそぎドールたちは、軍用VTOL機に乗り込んでいく。
「オーナー、敵はやはり反政府ゲリラなのでしょうか?」
機内で黒金智子が都田大佐に尋ねた。
「敵の正体は現在不明だが、多分違うだろう。しかし相当の手練れのようだ。そしてその見た目は、なぜか全員奥澤みゆきの姿らしいのだ」
そう語りつつ、都田大佐は一抹の不安を感じざるを得なかった。
・・・今回の大阪での襲撃事件をみても部隊の中に敵の内通者がいることが明白だ・・・
・・・敵の襲撃の目的は、こちらの戦力の分断を狙ったことも明らかだ・・・
・・・戦力を分散して、誘いに乗ったふりもした・・・
・・・むこうには奥澤みゆきを置いてきた。あれは一人で2個小隊の働きはする・・・
・・・しかしなぜ、敵はすべて奥澤みゆきの姿をしている?・・・
・・・おそらくは、最新鋭の光学迷彩。であれば、奥澤みゆきに限らず、他のドールの姿に擬態したほうが混乱させるためには効果的ではないか?・・・
都田大佐は自問自答を続けている。




