③ 光学迷彩と自動演奏人形
「なんでこんな事になっちゃたかなあ」
人通りのない裏路地に入ったクマの着ぐるみは、そう言いながら首すじに触れた。
途端、クマの姿は、水色の瞳をもつ少女の姿に変わる。
その少女は、花崎川の学年トップである奥澤みゆきであった。
「み、みゆきちゃんなの?」
その少女は聞き覚えのある声に驚き、振り返る。
こんな路地誰もこないはずなのに・・・
「あは、杉原果歩さんでしたか?見られちゃいました?」
「うん、見ちゃったよ。マイケルが奥澤みゆきちゃんに変わるところ」
「ああ、そうですか。しかし果歩さん、なんでこんなとこに」
「えっ、道に迷ってしまって。。ねえ、みゆきちゃん、秘密をみた私を殺すの?」
「まさか。そんなことしませんよ」
「じゃあ、記憶を消すとか?」
「そんなことできません。そもそも、別に極秘事項ってわけではないですから。」
「ほんとなの」
果歩はほっとしたように胸をなでおろす。
「はい、そもそもこれは、私の正体を隠すためではなくて、私の雇い主、弓巻重工が試験開発中の光学迷彩のテストなんですよ。
で、こんな着ぐるみになっているのが自分でもちょっと恥ずかしいので、正体不明にさせてもらったんですよ」
「そうなんだ。でもなんでクマなの?」
「さあ、それは私も知りませんが、まだ人の形が作れるほどの技術には到達していないそうですよ。」
嘘である。
弓巻心美の側近の護衛は代々、クマの着ぐるみの姿になることが決まっているのだ。
ちなみにみゆきは、7代目の護衛である。
前任者はすべて殉職している。
弓巻心美は精神は病んでいて、身近の人の死を受け入れることなどは到底できるわけがない。
だから死の危険が付きまとう側近の護衛は人間ではなく、クマのマイケルということになっているのだ。
それと、これは弓巻重工の関係者から聞いた話であるが、前任の護衛が誤って、こころ前で光学迷彩を解除してしまったことがあった。
こころの目の前でクマのマイケルは正体を見せてしまったのでだが、その時の心美は、「マイケルがいない!」と叫ぶだけ。
マイケルとその護衛が同一人物であることを決して認識しなかったらしい。
だから、そんなにシビアに正体を隠す必要がないとさえ言われているのだ。
「みゆきちゃんはその装備品のテストのためだけにここに呼ばれたの?」
「いや、メインは、こころの監視と護衛ですよ。」
「そうなんだ。」
「ところで、果歩さんは、これからドール養成所に行くんですよね。」
「そう、そうだった。じゃあ、私もう行くね」
「もう道に迷わないでくださいよ。」
奥澤みゆきと杉原果歩は別れた
・・・こころの前じゃない時は、光学迷彩切っておこうかな。評判もよくないし・・・
奥澤みゆきは、そんな事も考えた。
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「今日は、選曲と歌唱の授業を行います。」
教壇に立った八汐留美は講義を始める。
「ドールは、依頼主の気持ちを正確にかつ、迅速に理解し、依頼主が求める歌を選曲し、歌唱します。
ですので、本日は、2人一組なって交代でドール役、依頼主役となり、選曲と歌唱の実技をやってもらいます。
では、チームを指定します。富家満智七海さん、杉原果歩さんでペアを組みなさい」
「頑張ろうね、七海ちゃん」
「果歩ちゃん先輩、よろしくですー」
「まずは私が依頼主役をやるね。設定はどうしようかなあ。
うーん、じゃあ、ドールに憧れている女の子で、頑張って歌の練習をしているって設定どうかな」
「わかったりましたー。では始めます。
♪♪こんばんわ、自動歌唱人形だよ。音域テストを始めるよ。高音厨のあなたなら余裕で歌えるね・・・・・・
・・・hihihiE~ここまで出たら合格♪
どうでしょうか?」
八汐留美が、思わず眉をひそめて富家満智七海を睨む
「富家満智七海さん、あなたの歌唱は譜面に対して正確すぎです。普通じゃありません。
それにhihihiEなんて普通の人には出せるものではない。
しかし、あなたの歌は普通じゃない。
普通の人は、歌には気持をこめるのです。、普通、歌は気持ちを伝えるものです。
それに、そもそもなんでこんな曲を選曲したのですか?」
「うわ、留美キツー、とか言ってもお前、これチャンネルに上げるだろ。絶対」
「筒ヶ谷さん、あなたには関係ないわ。上げるけど」
「ごめんなさい、八汐さん、私の説明が抽象的だったから。。。」
「杉原さんの説明に問題はないわ。普通の人には理解できる話だわ」
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「七海ちゃん、今日の授業は残念だったよね」
一緒に帰宅する七海に果歩は声をかける。
「問題ありません」
「七海ちゃん、実は私の母は、歌手だったんだ。
私、方向音痴じゃない。よく迷子になっていたんだよ。
そんな時、母が迷子になった私を探しながら歌を歌っていたんだ。
私もそんな母の歌を頼りにして母に出会うことができたんだ。
そんなこと何回もあったんだよ。」
♪あーなたーのこえがーみちしるべー♪
「ズゴー!七海ちゃん、いきなり何それ?何いきなり歌うよなの?ふぇええ」
「ちょっといま私が考えた果歩ちゃん先輩の課題解決、思考ロジック、?いや気持ちだよー」
「富家満智さん、合格よ」
「八汐さん、いつの間に?」
「何かいい動画がとれないかと後をつけていたのよ。今の歌は別に面白くないけど。」
「留美、お前、いいとこあんじゃん、意外と」
「筒ヶ谷さんまで!」
「七海ちゃん、よかったねえ」
「皆さん、ありがとうございます。」
そういって深々と頭を下げる富家満智七海であった。
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翌日。
「だから心美、今、見てたでしょ!目の前でマイケルが私に変わるところ」
奥澤みゆきは、彼女にしては、珍しく声を荒げていた。
「変わってなんかいないわ。みゆきは、みゆき。
マイケルはマイケルよ。ねえマイケルはどこ?」
「心美は、本当は分かっているんでしょ。私がマイケルだということが!」
「みゆきは、何を言っているのはわからないわ。ねぇ、みゆき、マイケル知らない」
「はい、はい、じゃあ、ちゃんと見ててね」
そういってみゆきは、光学迷彩のスイッチを入れる
水色の瞳の少女は、一瞬にしてクマの着ぐるみの姿になる
「あ、マイケル、そこに居たのね。みゆきが呼んできてくれたのね」
「だから、今見てたでしょ。私、奥澤みゆきがマイケルに変わるところ」
「ねえ、今日のマイケルはおかしいよ」
南沢郁美が口をはさんできた。
郁美もマイケルとみゆきを別人と信じている人間だ。
「あー、そうだね。みゆきとマイケルがそれぞれ相手を自分だという。何かのゲームなのかい?儚いゲームだね」瀬島薫子だ。
「郁美も、薫子さんもおかしいですよ。だから私が!」
「ねえ、みゆきちゃん、もうやめようよ」
「果歩さん。そ、そうですね。ちょっと熱くなりすぎました」
そういって、奥澤みゆきは口をつぐんだ。
先日、路地裏で、光学迷彩を解くところを杉原果歩に目撃された後で、奥澤みゆきは、必要な時以外は、光学迷彩を解くことの許可をクライアントである弓巻重工に求めたのであった。
隠密行動にこの姿では却って目立つという理由を挙げた。
するとなんと、この要望が、すんなりと受けれられたのである。
みゆきは少し拍子抜けした。
それでみゆきは改めて、マイケルの中身が奥澤みゆきであることを特殊猟兵部隊のメンバー全員の前で明らかにしたのだった。
当然、弓巻心美は、その事実を認めないでのあるが、さらに南沢郁美と瀬島薫子もその事実を認めないことにみゆきは驚きを感じた。
この二人も何か精神的な問題を抱えているのであろうか?そうも考えた。
・・いずれにしても・・
・・弓巻心美は狂っている。・・
・・行動・言動がすべてが異常だ・・
・・こんな人の近くにいれば、命がいくつあっても足りない・・・
・・この人の狂気を少しでも和らげるためにはどうすればいい・・・
・・まずは、マイケルの中身が自分であることを理解して貰うことから始めるか?・・
・・それが効果があるという保障はない・・
・・だけど今はこれしか思いつかない・・
・・これは、自分の命を守るための正当防衛なんだ・・・
・・人助け?心美を救いたい?ないない、そんな気持ち、このあたしにあるわけないでしょ・・
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ところ変わって、ここは軍事演習所のほど近くのファミリーレストラン。
演習が終わったアザリアのメンバーたちは、反省会を行っていた。
バンドの練習ではなく、戦闘のほうである。
「今日の演習疲れたね。模擬戦も残念だったね、明菜」
「ええ、律子。まさか第4小隊、パなんとかに負けるとは思ってもいなかったわ」
1週間後にアザリアとパなんとかが、共同で行う作戦のための事前演習が目的である。
現在反政府勢力が半ば支配している大阪市にドールとして入り、反政府勢力の拠点を叩きつぶす作戦である。
「姫子の動きが半端なかったからねえ、ねえ、明菜、クッキー食べる?みんなも」
「頂くわ。律子。確かに姫子は危機迫るものがあったわね」と明菜。
「湊川さん、危機でなくて、鬼気ですよ。会話だとわかんないですけど」黒金智子が指摘する。
「それについては、私に責任が、、、いや、皆さん、反省会を始めます。まず宇田島さん、あなたは、突出しすぎです。全体の部隊の進行速度を考えてください。」
「紗夜さん、すいません。明美頑張ります。」
「黒金さん、あなたの状況連絡は綿密ですが、少し長すぎます。要点を整理して情報発信してください。」
「樋川さん、す、すいません。」
「それと一番の問題は、今田さん、あなたよ。あなたは総合支援の立場からすべてのメンバーの状況を見て行動してください。いつも、湊川さんにくっつぎ過ぎだわ」
「沙耶、ごめーん、ついいつものクセで。」
「以前の私たちはこんなではなかったわ・・・」
湊川明菜が、クッキーをかじるのやめて語りだした。
「アザリアの結成当時は、もっと緊張感があったわ。」
「明菜。そうかな。あたしは今の雰囲気悪くないと思うんだけど。」
「律子、少なくてもクッキー食べて和気あいあいって感じじゃなかったわ。」
「あ、あたしのせいかな・・・」
「今田さんもクッキー焼く暇あるなら、射撃や演奏の練習に力を入れるべきと考えます。しかし味噌フレーバーのポテトはなかなかいけるわね」
「同感よ。悪くないわ、だから律子。」
「だから何?」
「もうクッキーは要らないわ」
「そ、そうだね、クッキーは、もうやめとくね」
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「姫子先輩よかったですね」
「真美ちゃん、本当によかったよ。この模擬戦に勝てて。お姉ちゃんに約束したんだ」
「沙耶さんと?どんな約束なの」
「千景ちゃん、負けたほうが、相手の言うこと聞くって。だから、私、お姉ちゃんとデートするんだ」
「姫子ちゃん、だけどお互い日程調整するの大変じゃない」
「千景ちゃん、そうなんだよ。だから、今度の作戦の時、ライブの翌日の、作戦決行前にデートするんだ」
「えっ、作戦の直前にデートするんだ?大丈夫?」
「綾香ちゃん、そのほうが、敵も疑わないじゃないかって言って説得したんだよ。」
「姫子ちゃん、そうなんですね。まさに武士道ですね。」
「もう、いまから楽しみだよ、ルンってしてきた。何しようかな。そうだ、みんなのやりたいことを教えて」
「姫子ちゃん、何で、みんなのやりたいことを聞きたいの?」
「千景ちゃん。みんなのやりたいことを、あたしとお姉ちゃんがやる。これがあたしのやりたいことなんだよ」
「姫子、君のやりたいことはなんて儚いんだ」
「みんな、お土産話楽しみにしててね」
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「もうすぐ俺の夢が叶う」
薄暗い地下。
何かの実験場であろうか?
その女性は、その美しい見た目に似つかわしくない口調で独りごちた。
「大分苦労したが、うまく、ここに潜り込めた。あいつにも接近することができた。
あとは、あいつの目覚めさせるだけだな。
女性は、目を細めて不気味な薄笑いを浮かべる
「ふん、いよいよ、お前たちの出番だな」
大きな水槽に向かって話かける
水槽の中には何人もの少女たちが眠っていた。
同じ顔をした少女たちが。。。




