呪詛する魚シングルアイ・フィッシュ
憲太は寿司屋で鮮魚をネタにするのを幾度もこなしてきたので、魚をさばくのに抵抗感はなかったはずだが、目の前にあるシングルアイ・フィッシュには躊躇してしまった。
「フォッシャーさん。この魚をどうやって調理すればいいのですか?」
「なんでもいいよ。寿司でも煮つけでも。そうそう酢メシはすぐ用意できるように炊飯ジャーとお米も寿司酢もあるし、調味料も一通りあるから。そうそう道具も一式揃っているから。
実は前にうちに所属していた妖怪専属の料理人が使っていたものだから、なんでも出来るよ」
「それはありがたいですが、その板さんはどこにいかれたんですか」
「ああ、あんまりにも歳を取ったので引退したのよ。たしか三百歳だったかな」
「・・・」
とりあえず憲太が一つ目の魚を捌こうとした時、フォッシーは何かを思い出したかのように棚から耳栓を出してきた。
「なんで耳栓なんかを?」
「その魚はな、身を切り刻まれる時に相手を呪詛する念力波をだすんじゃ。まあ普通の人間ならそれで体調を崩してしまうんじゃ。まあ君もわたしも妖怪族だから耐性はあるのだが、念のためだよ」
「・・・」
憲太はこのとき、妖怪料理人は料理を提供する相手だけでなく、食材もまた不思議な事ばかりなことを垣間見るものであると思った。それにしても、こんな変な魚を愛里に食べさせてどうしようというのだろうか、疑問に思ってしまった。
とりあえず憲太は魚の煮つけと握り寿司を作ることにした。シングルアイ・フィッシュの鱗を剥ぎ始めたところ、やはり呪詛を言っているのか。気色悪い感覚に襲われた。
以前にも完全に死んでいない魚を捌き始めた時に俎板の上で暴れ始めた事をしばしば体験した事があったけど、こんなふうに精神攻撃をしてくるというのは。やはりこの魚も妖怪なんだと思ってしまった。
シングルアイ・フィッシュは身はタラかタイのような白身だったけど、やはり頭部は個性的過ぎた。いままで捌いた魚の中には片目が潰れたようなものもいたけど、生まれた時から一つ目の魚とは恐れ入ってしまった。
「わるいけど憲太君。その魚の頭部を標本にするから綺麗に取ってもらえないかな? 標本としたら結構高値で売れるから」
そういわれたので頭部を取り除いたところ、まだシングルアイ・フィッシュは恨めしそうな大きな目でこっちを睨んでいるようだった。それにしても冷凍になっていても魂がまだ残っていたんだろうか、こいつはと憲太は思っていた。
憲太が煮つけと寿司をつくり準備ができたことになって、母親の紗那がやってきたけど、その姿に憲太はビックリしてしまった。なぜか朝見たときよりも若返っていたからだ。
「お袋! いったいどうしたんだその姿は! なんか女子大生みたいじゃねえかよ」
「いいんじゃない? これから夏なんだし恋をしたいなあと思って若返ったのよ。いままでの姿はコントロールして老けてみえるようにしていたけど、これが私の本当の姿。そうそう、あんたは男だから容姿は変えられないからね、残念だけど」




