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憲太は妖怪料理人になりました  作者: ジャン・幸田
その弐:就職してみませんか
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気持ちの悪い魚

 愛里の家に行く日の朝、俺はフォッシーさんに指定された事務所に来ていた。ここがフォッシーさんの事務所だとはしらなかった。事務所には「狐塚管財」と書かれていたが、本当は妖怪とその血を引く人間に職を紹介したりする事務所だった。


 そんなとき、フォッシーさんが大きなクーラーボックスを下げてやってきた。そのクーラーボックスは重そうで、フォッシーさんがヨロヨロしながら歩いていた。


 「おはようございますフォッシーさん、なんですかそれ? 魚かなんかですか?」


 「やあ、よく来てくれたね憲太君。これは愛里さんに食べてもらう魚なんだ。本当は切り身をもってくるつもりだったんだけど、あいにく在庫が無いといわれて一匹小さいけどもってきたよ」


 「そういうことは、これから三枚にでもおろしてほしいということですか?」


 「そういうことだ。悪いけど憲太君さばいてくれないか? わたしではよう切れないんだよこの魚は。そうそう事務所の中にキッチンがあるから」


 そういわれ、俺はフォッシーさんの事務所に入った。ここはフツーのような感じだったけど、壁に架けられた写真には様々な妖怪が写っていた。


 「これらの方たち、みんな妖怪ですか?」


 「そうだよ。いつもは人間の振りをして生活しているんだけど、本性をだすとこんな姿になるんだよ。

 憲太君、妖怪には人間の姿の妖怪と、人間の姿にでも異形の姿にもなれる妖怪と、そして変化できずすっと妖怪の姿の三種類があるんだよ。

 まあ憲太君もわたしも人間の姿で固定されているけどね。でも忘れないで欲しいのは人間でも醜い心を持った者もいるし、妖怪でも人間愛に溢れた者もいることを。

 そうそう、これから君に調理して欲しい魚はこちらだ」


 そういってフォッシーさんがクーラーボックスから取り出した魚に俺は思わず言葉に詰まってしまった。


 「これ、魚ですか? なんか妖怪みたいだけど、食べられるんですか、これって?」


 「これか。シングルアイ・フィッシュといって北極海で獲れる妖怪魚だよ。人間が食べたら食あたりを起こすけど、妖怪が食べたら物凄く美味しいと感じるんだよ。白身なので刺身でもムニエルでも鍋物でもいけるんだ」


 そうはいっても、そのシングルアイ・フィッシュの顔が恐ろしかった。魚の頭部にイカの目玉のような大きな瞳がひとつしかなかったのだ・・・


 「どうして俺じゃないと捌けないのですか、フォッシーさん」


 「じつはね、この魚は妖力が強くてね。普通の人間が調理すると祟られてしまうのだよ。でも君みたいに妖怪の血が流れていたら無害化できるというわけなの。

 それに、わたしは長年生きてきたけど、どうしても魚を三枚におろす事ができないんだ。たから調理してください」


 俺は、この気持ちの悪い魚を調理する事になったけど、どうして愛里に食べさせなければいけないんだろう、こんな気持ち悪い魚を。

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