わたしに任せてくれない?
紗那は憲太の実母であったが、その年齢差は見た目は殆どなかった。だから二人で出歩くと親子なのに姉さんカップルと間違われるのはしばしばだった。しかし憲太を産んだのは実年齢五十二歳のときだった。
それはともかく、未婚にしか見えない紗那が世間に隠れてやっていた仕事は、昼間はパチンコ店のアルバイト店員、夜は清掃作業員だったが、あまりの美貌でキャバ嬢のスカウトなどを受けたことはしばしばだった。
「紗那さん。憲太くんだが今日はハローワークに行っているって行ってたよね。たぶん、わたしの姪の潮美にスカウトされているところだ。おそらく彼女の目的は自衛隊特殊妖力部隊に入れることだと思う」
「自衛隊? まさか妖怪族のなかに人間の政府と癒着している者がいるわけなの?」
「いいや癒着ではない、最近政府中枢部の役職に出世している妖怪族がいるわけだ。自分たちの勢力を拡大しようとしているようなんだよ。それで妖力が強い若者を勧誘しているようだ」
「それじゃあ憲太が万が一にも、その潮美さんの言うことを聞いたら自衛隊に入らないといけないかもしれないと?」
「その可能性もあるということだ。憲太君に適正があればだろうけど、風雅寿司で憲太君が発生させた妖力発現現象、結構話題になっているからどうだろうかな」
「そんなのいやよ! わたしの父さんは妖怪族部隊として出征して帰ってこなかったのよ! そんなふうに息子がなるのは・・・イヤ!」
紗那は少し涙目になっていた。その姿は少女の面影が残る可愛らしい姿であったが、もう七十年あまり生きてきた老化速度が遅く長寿の呪われた妖怪族だった。
「まあまあ、紗那さん。そこで相談だけど憲太君がよければ彼の再就職先をわたしに任せてくれないかな? 歩合制なので収入にバラツキはあるけど憲太君じゃないと出来ない仕事があるんだけど?」
「それって何ですか? また危ない仕事じゃなければいいけど」
「実は妖怪族生活協同組合専属の料理人の職なんだ。妖怪族の間でどうしても妖怪族の食事じゃないといけない事があるのを。そんな時に派遣されるのが妖怪料理人なんだ。まあ、場合によっては徐霊まがいの事をすることもあるけど」
「でもフォッシャーさん。回転寿司屋の板前モドキのことをしたぐらいの、あの子が勤まるのですか? 料理人といえば長い年数修行しないといけないのではないですか?」
「それは大丈夫ですよ。憲太君の包丁裁きなどは結構良い線いっていますし。それに食材によっては人間でも妖怪族の血が流れていないと扱え無いものもありますし。
ですから、話をしてもらえないでしょうか?」
「いいですよ。でも憲太に最終的には決めさせてあげてくださいね。あの子も二十二歳ですから、これからは生活できるのであれば自分のやりたい事をやらせてあげたいですから」
そういうと、紗那はなぜかランチの追加を注文していた、もちろんフォッシャーのオゴリだった。それを見たフォッシャーは紗那の可憐さには叶わないなあと思って彼女の仕草をみて、心がほっこりとしていた。




