妖怪料理人?
「ところでお前、次はなにか仕事するアテでもあるんか?」貧乏神は俺にいきなり聞いてきた。その時貧乏神は俺の顔をマジマジと見ていた。俺の顔に何かついているかのようなといった態度に少し不愉快になってしまった。
「ねえよ! 失業保険というものを貰って少し遊びたいんだよ! 高校を卒業してからマトモな就職先などなかったから、バイトやフリーターをやってようやく正社員になったかとおもったらクビになったからな。まあ、何とかできなくても何とかするつもりだが」俺はそう言い返したが、貧乏神は少し何かを考えてから、ある職業名をいいだした。
「お前、妖怪料理人になってみないか? 寿司を握っていたんだからそれぐらいの応用きくだろう? このとおりフツーの人間では見えないワシが見えるから、妖怪相手の職業につけるぞ! 」そういわれたが、俺は少し料理人という職業は嫌だと感じてしまった。実はこのときは、飲食関係の仕事はもうこりごりだと思っていたから、意外な勧めであった。いくら相手が神でも躊躇してしまった。
「いったいなんなんだよ、妖怪相手の料理人とは? まさか危険な仕事じゃないか?」俺はそういったが、妖怪という者の存在など信じていなかったので想像も出来ないものを相手に出来ないと感じていた。
「まあ、普通の人間なら相手によっちゃ食われてしまうかもなあ。でも、お前なら大丈夫だ。妖気が強いからのう。だいたいの妖怪なら寄せ付けないぞ!」そういって貧乏神は俺に言い寄ってきたが、ここで即答する必要もないと思ったので、こう言って別れる事にした。
「おっさん、ありがとよ。でも俺はそんな得体もしれん職業に付く事はないかもしれんぞ。まあ、すこし考えさせてくれよ、すぐに職の枠が無くなるわけじゃないんだろ? どうするかはお袋とも相談させてくれ!」
貧乏神と別れた俺は「寿司神社」の脇にある風雅寿司本部のある建物に入った。この建物は創業者の趣味でお城の天守閣のような外観に純和風の豪華な内装を備えた事務所だったが、常連客からはとかく評判が悪かった。どっちかといえば「悪趣味」な感じだったからだ。また従業員からも事務所に金をかけるのなら店舗の備品に予算を出してくれたら良いのにと陰口を叩かれていた。まあ、そんな事務所だった。
中の事務所はいつもなら派遣の事務員が働いているはずなのに殆どいなかった。どうしたものかと思っていると一人の事務員がやってきた。
「山村さんじゃないの? あなた辞めてよかったよ。いま、この会社はタイタニックのように沈みつつあるから、一斉に派遣会社の方が契約を打ち切ったので、本部の事務員は殆どいなくなったよ。まあ、あたしもどうせクビだろうけどね」
そういう彼女の事務所のデスクはガランとしていた。風雅寿司はお客ばかりか派遣社員にまで逃げられてしまったという事らしい。




