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憲太は妖怪料理人になりました  作者: ジャン・幸田
その壱:クビにされてしまった!
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ブラックボンビー神

 あまりにも本店の惨状が酷すぎるので食事する事にした。本店でこの状態なら俺がクビになる直前まで働いていた店は、想像するまでもなかった。聞いた話では俺が辞めた後で、クビになっていない者も結構な数が辞めていったということだが、やはり理由は岡島の暴走が原因だったということだろう。


 「山村、お前先にクビになってよかたなあ。俺なんか辞めさせてくれないんだ。こんな会社はもうタイタニックのように沈んでいるから逃げ出したいのに」と本店で副店長をしている佐々島が話しかけてきた。彼もヒマを弄んでいるようだった。本店にはお客が俺のほかには誰もいない状態だった。


 「ほら言うじゃないか。船が沈む前にはまっさきにネズミが逃げ出すって。弱いもの程危険を察知すれば一目散に逃げるって事よ。お前はある意味岡島の奴に感謝しなきゃいけないよな。なんだってリストラ対象を誤ったからな。本当は岡島とその一派が先に辞めればこんな惨めなことにはならなかったのにさ」


 このとき、店内には霊気のようなものが漂っているような気がした。俺がその霊気を感じる時はお客さんが誰も来ないとわかっていたが、この時の本店で感じた霊気は人を跳ね返してしまいそうなぐらい強く感じていた。俺にとっては居心地が悪くてしかたなかった。


 昼を取ったばかりで腹は空いていなかったが、所持金と相談しながら結構食べていった。もちろん回転寿司屋なのに”回っていない”ので、普通のカウンターの寿司屋のように注文してであるが。


 俺は少し遅くなったが、保険証の返納と離職証明書を速く出すようにという催促のため本店脇にある風雅寿司本部事務所に向かった。本店と本部の間は大きな駐車場になっているが、いつもよりも駐車スペースが空いていた。お客さんだけでなく出入りの業者や本部従業員も疎らな様子だった。


 その途中に神社のように境内を持った祠があった。その祠は商売繁盛と食の安全を祈願して風雅寿司の創業者が建立した”寿司神社”があった。この祠は相当な金銭をかけたと社長が豪語していたが、今となっては空しかった。もう祠に守られているはずの回転寿司屋は風前の灯だからだ。


 そう思いながら祠を見ると貧乏そうな衣装を着た風采が貧相な小人が座っていた。そいつは継ぎ接ぎだらけで汚れた着物に痩せこけて青白く皮膚が朽ちかけ髪の毛がボロボロで伸ばし放題だった。一体何者なんか? そう思って恐る恐る聞いてみることにした。


 「そこで座っているおっさん、なんでそんなところに座って何をしているんじゃ?」


 「なんだよお前知らねえかよ? わしゃ貧乏神じゃ! ここで座ってお役目をはたしているだけじゃ。それにしてもお前何で見えるんじゃよ? さてはお前妖怪の血を引いていねえか?」


 「おう引いているぞ! それがどうした。それよりも貧乏神っているのだよなあ。俺んちにもいるというのか? 結構貧乏だからなうちは。それにいつからいるんじゃ?」


 「お前んちにわしの仲間がいるかは知らねえぞ。でもわしが見えるなら家にいるかどうか判るはずだ! そうそうわしはこの祠が出来てからずーといたんじゃよ!」


 「いた? どういうことやそれは?」


 「お前知らんかい? 貧乏神だって神様の仲間じゃ。だから祠に住んでいてもおかしくないじゃろ! それに貧乏といっても災いを引き起こすものじゃねえから、いるだけじゃ問題ないのじゃ。じゃがな。いまのわしは災いを巻き起こしているブラックボンビー神になってしまったがななあ」


 「ブラックボンビー神? なんじゃそりゃ?」俺はその貧乏神の言う意味が判らなかったが、とりあえず風雅寿司が沈みかけている理由がわかったような気がした。

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