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憲太は妖怪料理人になりました  作者: ジャン・幸田
その壱:クビにされてしまった!
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閑古鳥の回転寿司屋は回らない!

 有給休暇も終わり、正式に退職することになった7月31日、俺は株式会社風雅寿司の本部事務所にやってきた。夏場は寿司が比較的よく売れるので、昼間のランチタイムを避け午後3時ごろにやってきた。なぜなら本部があるのは風雅寿司本店と敷地内で駐車場も共用なので昼間は駐車場いっぱいに乗用車が止まっているので、止められないと思ったからだ。


 思えば七月はのんびりとしてしまう、ほとんどニートのような堕落した日々をすごしていたが、一方でお袋から俺に妖怪の血が流れているわ、不老ではないけど極端に長寿だと聞かされるわ、驚くような事実を聞かされてしまった。


 考えてみれば俺の身体能力におかしなことがある事に気付いていた。極端に足が早いわけでも力が強いわけでもないが、疲労からの回復が極度に人よりも早い事だ。こんなクソがつくようなブラック企業でひどいときは18時間勤務なんて事をやった翌日も15時間勤務というシフトをしても平気だったからだ。同じように勤務したのは辞めるか休むかしていたのにというのにだ。まあ、岡島の奴に仕事を押し付けてられてしまったということでもあったけど。


 俺はボロボロの愛車の軽を本部前の駐車場に乗り入れたが、俺が知る本部の様子とは違いすぎる事に気付いた。ここは市内でも有数の規模を誇る回転寿司屋なので、アイドルタイムであっても多少はお客も来ているのに、駐車場には社長の高級ドイツ製外車ぐらいしか止まっていなかったのだ。そこで、本部事務所よりも先に本店に客として入ってみた。


 本店はボックス席百、カウンター席五十席と県下有数の規模のレーンがあり、社長は常日頃「旗艦店舗」と自慢していたが、入って直ぐ驚いた。レーンが動いていないのだ。レーンが動かないなんて回転寿司屋じゃないだろう!


 まあ、規模の小さい回転寿司屋が客のいない時にレーンを止め、もし客がいたら注文を聞いて握るという事があったが、ここではありえないことだった。ここは全国チェーンの回転寿司屋のようにタッチパネルで注文するシステムがないので、とめている意味がわからなかった。


 しばらくエントランスにいると、ようやく客室担当の店員がやってきた。その店員は俺の送別会にも来てくれた五十を過ぎた河原おばさんだった。


 「山村君、ひさしぶりね。このように開店休業なのよ。回転しないといけないのにレーンも休業だけど、ははは」と自虐気味に話した。俺は理由はなんとなくわかったが、聞いてみた。


 「これって、どうしたのですか? いくらなんでも本店でこんなにお客さんがいないなんてありえないよ。一体何があったんですか」


 「そうか、山村君の家ってテレビもないし新聞も取っていない。あるのはラジオだけだったんだね。これはねえ、ネットでうちのマネージャーが不正をしていたことを暴露する動画がアップされて、いま世間からバッシングを受けているのよ。だからお客さんが来なくて閑古鳥に占拠されているのよ」


 「そういえば岡島の奴、社長と一緒にウチに来て、お前がネットに拡散しただろと怒鳴り込んで来たよな。何のことが判らなかったけど、そんなに大変な事になっていたの?」


 「しかたないわね山村君。あの動画、丁度これといった大きなニュースが無い時にマスコミの格好の題材になったのよ。マネージャーがゴミのような廃棄寸前のボロ魚をネタにしたり、冷凍焼けして色が悪くなったネタを薬品につけて再生したり、賞味期限切れで食べれないはずの冷凍ネタを使っていたり。そんな画像が投稿されていたそうよ。なんでも投稿したのは港町店の店長だった柴草さんだったそうよ。でも、口止めする前にテレビ局や週刊誌に売って逃げたそうよ。いま、必死にマネージャーが行方を探しているけど、やらないといけないことは一杯あるのにねえ。お客さんが全店舗来ないのでも、もう風雅寿司も終わりだろうといわれているわよ。昨日なんかお客さん数えるほどしか来なかったし、ネタの廃棄量もバカにならんしね。最後なんか店員に原価以下で販売したけど売れなかったけど」


 そういって河原おばさんは開き直った表情をしていた。どうもホールにはおばさん一人しかいなかったが、俺と私語をしているのに本店にいる誰もとがめられなかった。今までなら忙しいから私語をするなという声が聞こえたというのにである。

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