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ユウセイ  作者: 遠藤ほうり


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6

 あれから彼女は、咳が増えた。


 声も小さくなったし、たまに比較的大きな声を出したときなんかは、以前よりも少し掠れている気がした。何て言うか、わかりやすく喉を痛めないようにしているような振る舞いが目立つようになった。そんな感じ。


 何も難しいことはなくて、私がどれだけ問い詰めても学校を休んだ理由を教えようとしなかったのも、つまりそういうことだったわけだ。友達だからって言ったのも、同じ理由で。


 なんとなく察しがついてしまえば冷静なもので、そりゃあ言い出しにくいよなって思えた。きっと友達相手なら余計に。


 でもあいつが言わないんだったら、私も気付かない。どうせすぐ黙ってるつらさに耐えきれなくなって、向こうから言ってくるに決まってるから。


 だからそれまで、私たちは今まで通り。


「ね、星ちゃん」


 なんて笑い掛けながら、今私たちが何の話をしていたかすっぽりと頭から抜けてしまっていた。そんないつもの休み時間。ほんのちょっとの間別のことを考えていただけで、自分が喋っていた内容すらわからなくなってしまった。


 でもどうせ、友達なんてそんなものだろう。たとえばあの日あの時いつもの教室で、どんな話をしていたかなんていちいち覚えていたりしない。今までの私たちの会話だって、いつもだいたいそんな感じだったし。


 気付けば、彼女は私にピースサインを向けていた。きっとそれは私が言ったことへの返事なのだろうなって思いながら、適当な愛想笑いで済ませる。だって何の話をしてたのかもう覚えてないんだから、仕方ないじゃん。


 だからっていうか、それきり彼女は何も言わないまんま。私はなんにも知らないままで、なのにひとりだけなんか納得したみたいにスッキリした表情で、なんかモヤモヤする。


 こいつと一緒にいるとき、なんだかいつもそんな感じだ。


 最初のときも、学校を休んだときも、それどころか今みたいなほんの小さなところですら。全部、何もかもが全然ちっとも私の思い通りにならない。


 ホントそんなことばっかりだから、なんていうか正直な話、もういいかなって。そう思った。


「星ちゃんってさ、私に隠し事してるよね」


 私はそれだけ言い捨てて、彼女の方を見ないようにちらりと反応を窺う。間違ってもこいつのこと気になってるとか、思われたくないし。


 で。案の定、彼女は無言で表情を固くしていた。終わったと思っていた話が急に蒸し返されたんだから当然は当然だけど、やっぱり彼女にとって都合の良い話ではないらしい。わかりきったその反応に、私は小さく嘆息する。


「隠してるのがつらいんなら、さっさと言っちゃえばいいじゃん」


 そう私は頬杖を突いて、退屈そうな顔で明後日の方を向きながら言った。横目に眺める彼女は俯いて、まるで思い詰めた考え事をするような有り様。


 もう一度嘆息する。だって、そんなに難しく考えるようなことでもないじゃん。なんか悩み事があって、優しい友達がそれに気付いて。打ち明ければ一緒に協力して問題解決。打ち明けないでいたら色々こじれてもっとめんどくさいことになる。


 多分どんなマンガや小説を読んでも、だいたい全部こんな展開になるに決まってる。友達だからって遠慮して、どうしようもなくなってからバレるとか、そんなの一番最悪だってわかりきってんじゃん。


 なのに。


「ううん、いいよ。多分、言ったら迷惑掛けちゃうから」


 だなんて言い訳して、本当に何にもわかってない。どうせもう迷惑なのは変わらないのに。当の私が言えばいいじゃんって言ってるのに。

 それでもこいつは、ヘタクソな気のつかい方して余計に心配させといて、苦笑いで誤魔化したまま全然教えようとしない。


 これじゃあなんのために友達になったのか、わかんないじゃん。だから私は、目を合わせてやんない。


「ね」


 そういえばさ、と普通っぽいトーンで、彼女は違う話を切り出した。それは、初対面の人と距離感を測りながら喋らないといけない時にするような普通っぽさで、目的だって明らかに閑話休題。どうせまた話を逸らすんだろうなとは思ってたけど。


「見てればわかるでしょ、普通に」


 たとえ話を聞かない分からず屋でもわかるように、あからさま突き放すような言い方で。私はつっけんどんに話を戻す。


 でもどうせ、わからないヤツには本当にどんだけ言ってもわかんない。ってのはなんとなくわかってたけど、私の言葉を聞いた上で彼女は、なんだか驚いたような、嬉し恥ずかしそうな感じで口許をニヤニヤとさせている。


「何?」


 本人は素知らぬ顔で誤魔化してるつもりだろうけど、隠しきれてないどころじゃない。そんな表情がむかついたから刺々しい言い方をしたのに。


「見てればわかるって、なんか、友達みたいだね」


 私に返って来た言葉はなんか変な響きで。言うなれば、わかってたはずなのにビックリしちゃった、みたいな声色。そんな良くわからない調子で言われても、こっちだって反応に困るわけで。


「は? みたいって、私たちもう――」


 不機嫌にそこまで言い掛けて、気付く。もしかして多分こいつ、全部わかってたのかもしれない。わかった上でずっと、気付いていないふりを続けてたってこと。


 いやさ、今更じゃん。今更だけど、だったらもうずっと気付かないふりで良いじゃん。っていうか、まさかこんなヤツに気付かれるとか。

 そんなこいつのにやけ面が滅茶苦茶ムカついたから、私は忌々しげに吐き捨てる。


「性格わるっ」


 そんなシンプル悪口。だけど彼女は案の定、いつもみたいに楽しそうに笑っていた。


次回更新


05/25 18:00

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