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ユウセイ  作者: 遠藤ほうり


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5/8

5

「あのさ、なんで学校休んだの?」


 私は、全然なんでもないように訊くつもりだったのだ。それが一体どうしたことか、思っていたより二倍くらい不機嫌そうな声音になっていたのが自分でもわかった。


「ああ、ううん、違うよ。本当に全然そんなんじゃないから、ね?」


 誤解されるのは嫌だから急いでフォローをしてみるけど、どう見たって必死すぎ。別にそんなつもりないのに、全力で言い訳をしてる人みたいになっちゃってる。傍目から見た印象最悪。


 なのに彼女は空気が読めないらしく、誰にでもわかるくらいあからさまにシュンと申し訳なさそうな顔。目ひとつ合わせられないのか、斜め下を向きながら小っさい声で言った。


「あの、ごめ……」

「謝んなくていいからさ」


 彼女がビクッと肩を縮める。その()()()()が自分の口から出たものだと気付いたのは、クラスメイトたちの視線が背中に刺さったから。私自身、もしも他人だったら引いてたくらいには声を荒げていたと思う。


 うわ、どうしよ最悪だ。これじゃあなんか突然キレた人っていうか、弱いものいじめしてるみたいじゃん。っていうか、こんなの相手に本気で怒鳴るとか。


 誤解だって言わないとなのに、振り向けない。いや、本当はちゃんと別にケンカとかしてるわけじゃないって周りにわかってもらった方がいいけど。そういうのってほら、弱そうな方から弁解しないと逆にいじめじゃん。


 だから早くなんとかしろ、お前から言わないと心象最悪なんだってば、だなんて念を込めて彼女を睨み付けるけど、この人見知りは顔を背けるのに必死で、私が見てることに気付いてすらいないだろう。

 じゃあ、もう仕方ない。私は表に見えないように内心でだけ大きな溜め息を吐き捨てる。


「あのね、私は別に怒ってないから。ただ、どうして休んだかちゃんと教えてくれなかったら、無駄に心配しちゃうじゃん?」


 小さな子どもを諭すような、優しい口調と言葉選びで彼女に語り掛ける。その作戦はやっぱり効果てきめんで、クラスメイトたちは私たちから興味を失くしたらしい。チクチクとした視線がなくなって、私は胸を撫で下ろす。


 でも、彼女だけはより一層深く俯いた。微かに唇を動かすのが見えたけど、何を言ってるかなんて聴こえるはずもない。小さいから、声が。


「ね、お願い。どうして学校休んだのか、ちゃんと教えてよ」


 だから私は気付かないふりをして、もっともらしい言葉で問い詰める。今の私は、突然学校を休んだ友達が心配で、その理由を訊ねている友達思いな子。普通はちゃんとその理由を教えるだろう。

 教えるはず、なのに。


 それでも彼女は頑なに、首を横に振る。さっきからずっと目も合わせないくらいだから、きっと申し訳なさで押し潰されそうになってるのに。


 流石にちょっとイラつく。だってこれじゃあ、最初に声を掛けたときより悪くなってるじゃん。折角友達になったげたっていうのに、こんなのってない。


「本当にさ。心配なんだよ、星ちゃんのこと。だから」


 ね、と。彼女の手をとって、両手でぎゅっと握ってみせる。真っ直ぐに目を見ながら心配そうに困り眉を作れば、健気な少女の完成。心優しくていじらしい私が友達のことを心配するのなんて、そんなの当たり前のこと。


 そしたらさ、心配された方も普通は答えるじゃんか。だっていうのに、それでもこいつは頑なに休んだ理由を答えようとしない。


「私たち、友達なんじゃないの……?」


 だからそう呟いて、いっそ握った手を離す。落胆、と似てるけど少し違った風に肩を落として、いかにも消え入りそうなまでに押し殺した感情の発露みたいに。まるで心の奥底に沈めた想いが、抑えきれなくて溢れてしまったみたいに。


 そして、事情をなんとか飲み込んだ風を装って。


「……大丈夫、わかった。どうしても言えないことだってあるもんね。仕方ないよ」


 物分かりの良い私は、寂しそうな気持ちを隠しきれないままの幼気な笑顔を見せる。こんな顔をされたら誰だって悪いことをした気になって、たとえ自分が悪くなかったとしても自白してしまうだろう。でも。


「ありがとう。絶対にユウは私の、友達、だから」


 これで話はおしまい、とでも言うようだった。


 むしろ彼女は肩の荷が降りたみたいに、安堵の表情で私に微笑み返している。私の言葉だけを真に受けて目を合わせようとしないから、そんな訳のわからないことを言い出すのだ。


 どうせ押そうが引こうが理由なんて語るつもりは一切なくて、私は無駄に気を揉んだだけ。とんだ骨折り損じゃん。きっと彼女に友達がいなかったのもそういうところが原因に違いない。

 ただ、彼女がそうして話を終わらせてしまったから、私はそれ以上何も訊くことが出来なくなってしまったのも事実。


 もし理由を訊き出そうと粘ったとして、さっきの気持ちを隠したロールプレイを彼女が気付くまで続けるしかないわけで。そんなのどうせ、無駄な努力だってわかりきったこと。


 それでも確実に言えることがある。それは、今までひとりぼっちでもずっと学校に来ていた彼女が、突然学校を休んだこと。そしてその理由を、誰にも言えないっていうこと。


 私っていう、たったひとりの友達にさえ。

次回更新


05/24 18:00

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