5.距離
「……また一緒か」
ユウマは掲示板を見ながらぼやく。
隣には、いつものようにミナがいる。
「はい」
「はいじゃねぇよ。なんで毎回いるんだよ」
「偶然です」
「絶対違うだろそれ」
ミナは少しだけ考えてから言う。
「じゃあ、必然です」
「余計おかしいわ」
⸻
依頼はいつも通り、低ランクの雑用に近いものだった。
街の外の見回りと、簡単な魔物の駆除。
ユウマは剣を持っているが、戦う気はほぼない。
というより、戦えない。
「来たぞ!」
小型の魔物が飛び出してくる。
ユウマは反射で後ろに下がる。
「無理無理無理!」
「そこ下がってください」
ミナは前に出る。
動きに迷いがない。
一瞬で距離を詰めて、的確に斬る。
「……やっぱ強ぇなお前」
「普通です」
「普通じゃねぇよ」
⸻
帰り道。
夕方の光が、石畳を長く引き伸ばしていた。
昼間の喧騒が少しずつ落ち着いていく時間。
商人が店じまいを始め、冒険者たちも三々五々に散っていく。
ユウマとミナは、その流れの中を並んで歩いていた。
特に会話はない。
それでも、気まずさはなかった。
足音だけが一定のリズムで続く。
ふと、風が吹く。
ミナの髪がわずかに揺れて、すぐに元に戻る。
ユウマはなんとなくそれを見て、すぐに視線を逸らした。
言葉にするほどのことでもない、どうでもいい瞬間。
でも、なぜかそのまま歩き続けていた。
⸻
街に戻る。
夕方。
人通りが少し増えてくる時間。
「じゃあ、また明日」
ミナが言う。
「……ああ」
ユウマは少しだけ間を置いてから頷く。
別れるのが当たり前みたいになっている。
それが少しだけ、不思議だった。
⸻
その夜。
ミナは一人、静かな場所にいた。
手元の通信具に小さく声を落とす。
「……対象ユウマ・カザハラ」
報告は淡々としている。
「危険性、現時点では確認できず」
少しだけ間が空く。
「……一般人と大差ありません」
それだけ伝える。
⸻
別の場所。
セレスはその報告を受けていた。
「……了解」
短く返す。
表情は変わらない。
⸻
少しずつ、“一人じゃない時間”に慣れ始めていた。
「……まあ、悪くないか」
誰にも聞かれないように、小さく呟く。
(続く)




