3.少しずつ
ユウマは、この町で普通に暮らしている。
冒険者ギルドに行き、安い依頼をこなし、帰って寝る。
それだけの生活だ。
「……またいる」
ギルドの中。
新人冒険者のミナ・クロフォードが、依頼掲示板の前に立っていた。
「おはようございます、ユウマさん」
「おう」
最初はそれだけの関係だった。
ただの顔見知り。
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「この依頼、一緒にやりませんか?」
ミナは軽く掲示板を指さす。
「いや、俺ソロなんだけど」
「ソロだから誘ってるんです」
「理由になってなくね?」
ミナは少し首を傾げる。
「危ないので」
「冒険者ってそういうもんじゃね?」
「そういうもんです」
即答だった。
ユウマは少し黙る。
(こいつ距離感バグってんな……)
「まぁいいけど」
結局断りきれず、同行することになる。
⸻
依頼は近くの森の魔物討伐。
結果から言うと、ユウマはほぼ役に立っていない。
「うわ、無理無理無理!」
「そこ下がってください」
ミナは淡々と魔物を倒していく。
ユウマは後ろで避難するだけだった。
「俺いなくてもよくね?」
「安全確保できてるので問題ないです」
「それ俺の存在理由どこ?」
「そこです」
会話は成立しているのに、何かがズレている。
⸻
帰り道。
「ユウマさんなんか追われてるらしいですね?」
「そうなんだよ」
「なんでなんです?」
「わからん」
ミナは少しだけ間を置く。
「大変そうですね」
ユウマは肩をすくめる。
「他人事みたいに言うなよ」
ミナは即答した。
「他人事ですよ?」
ユウマは一瞬だけ固まってから笑う。
「正直で逆にムカつくわそれ」
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その夜。
ギルドの屋上から街を見下ろすセレス。
「監視対象ユウマ・カザハラ。変化なし」
通信は淡々と返る。
『監視継続』
「了解」
セレスは短く答え、それ以上は言わない。
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ユウマはまだ知らない。
この“普通の関係”の中に、意図された距離が混ざっていることを。
ただ今はそれでもいいと思っていた。
「……まあ、悪くないかもな」
ミナに対して、そう思っただけだった。
(続く)




