#5 ゾロ目の男
あるとです。
今話で香取戦は終わりです。
そう、この作品は一戦一戦を長めにしていることで
少し情報量を多くしています。
Exhaustよりストーリーも短いですので
そこの部分のボリュームは増えます。
言ってしまえば引き伸ばしです。
次のバトルもお楽しみに。
「ジュンさん、なんであそこで突っ込んでいけたんですか、どう考えても4WDじゃ無理なラインでしょう?」
「ん……あぁ。」レースが終わり、麓の駐車場で合流した2人。2人は缶コーヒー片手に、車を眺めながら話し合っていた。
香取は抜かれる直前、S字でのジュンの走りが気になって仕方がなかった。「あれは……ほぼ強引に突っ込んだだけで、別にテクもクソもない。」
ジュンは缶コーヒーを一口飲み、R32のフロントフェンダーにもたれかかる。「その突っ込む瞬間をよく見極められましたね。流石地元勢、長く走り込んでる。」
「いやいや……あれでも結構怖かったんだぜ? ライン取りも甘かったし、何より思ったより強引に前に出ようと過ぎたから、アンタの事吹っ飛ばしそうだったし……。」
ジュンは苦笑いしながら缶コーヒーを揺らした。香取は少し驚いた顔をする。「えっ……怖かったんですか?」「当たり前だろ。」即答だった。
「俺だって人間だ、あの突っ込みが怖くない訳がねぇ。狭い道で二車線いっぱいに広がって走って……怖えよ十分。」
明らかに手が震えているジュンは、その瞬間の自分がどれだけ異常だったかを思い出していた。「じゃあなんで……なんで、あそこで踏み切れたんですか……?」
香取は聞く。自分に無理をしてまで勝とうとした、ジュンの行動が理解出来なかった。今まで自分は勝ちにこだわらなかった。
負けてもそれをフィードバックにして戦ってきた。それが今までの自分の戦い方だった。ジュンのやり方を否定するつもりはなく、ただ疑問が心に残る。
その疑問の詰まった言葉に、ジュンはただ、一言だけ答える。「……負けたくなかったから。」
それ以上でも、それ以下でもない。あまりにも単純な答え。だが、その単純な答えに、彼の走る思いのすべてが込められていた気がした。
「負けたく……ないから?」「おう、負けたくないから。」ジュンは頷き、話をつづける。
「地元の意地ってのもあるけど……俺、昔っから負けず嫌いなんだ。この前バトったランエボ。さっき頂上で話したエボⅨな。
ソイツと地元でバトって負けた時も、すげえ悔しくってさ。それからより一層、その気持ちが強くなった気がするんだ。」
ジュンはそう言って、また缶コーヒーを見つめる。「だから勝ちたいし、そのために走るし、無茶だってする。深い理由なんてないよ、あーゆーことに。」
ジュンは苦笑いをしながら肩をすくめた。「走り屋なんて、そんなもん。走りたくて走る。俺はそれだけで走ってるからな。」
香取は自分のワンビアを見る。自分はどうだっただろう。走る事で何かを知りたかった。何かを見つけたかった。だから峠を走り続けた。
だが、今日のバトルを思い返していくと、今までの行動が馬鹿みたいで仕方なかった。彼の言うこの浅い世界で、深い意味を求めて走っていたその姿が。
香取はいつも、自分に言い聞かせていた。負けはステップアップのための過程。走っていて意味の無いことは1つもない。
その考えが間違ってるわけではないと、香取は分かっていた。だが、それが今日のバトルでの結果によって、間違った考えだと思い知らされたような気がしていた。
自然と寂しい目をしてしまっていた香取の顔に気づいたジュンは、バトルの時に見せた強張った表情とは一転した、穏やかな表情で香取に聞く。
「今、俺とお前で比べたろ。その時の気分で走ってる俺と、走ることに意味を持とうとした自分に。」
図星だった。自分の思いがすべて見透かされているような、ジュンには、そういった雰囲気が感じられる。
マジシャンでもなんでもない。ただ地元で一番速いだけの走り屋なだけだと分かっていても、彼には本当に驚かされる。
「……もしかして、顔に出てましたか。」「出てる出てる。」香取が寂しい声でそうきくと、ジュンは軽く笑いながら即答する。
「……僕自身、分かってるんです。僕の考えが間違ってない事は。だけど、なぜかそれが間違ってる事だって知ってて、今まで走っていた気がしていて、それまでの時間は無駄だったのかなって。
今まで、負けることの意味を探してきて、今日のバトルで手に入れたのは、結局"悔しかった"という答えだけで。
誰でも感じれるような、そんな答えが、結局は負けた事で手に入れられるものだったんだなって。なんで今まで、僕は、それに気づけなかったんだろうって……。」
香取は涙ぐみながら、そう話した。「……別に、"負けたから悔しい"。それだけで十分だと思うぜ俺は。」
ジュンはそう言って、香取に微笑んだ。「負けて悔しいって思うってことは、本当は、勝ちたかったんだ。勝って喜びたかった。
勝ちたくもない相手と戦って負けたって、悔しさなんて微塵も感じないだろ。」香取は黙って聞いていた。
「意味なんてゆーのは、探して手にはいるもんじゃねえ。テキトーに過ごしてて、気づいたら足元にあったりするもんなんだぜ。」
「……ジュンさんって、大人なんですね。」香取がそう言うと、ジュンは思わず吹き出した。
「いいや、これは俺よりもっと長く生きてる大人が教えてくれた言葉だ。俺のじゃねえよ。」ジュンは岡本の顔を思い浮かべた。
2日も前、負けて落ち込んでた時のこと。その前の日にも助言をくれていた。「そう……俺のじゃねえんだ。」
すると、山の方から段々とエンジンの音が聞こえてきた。音の上がり方的に見て、高回転型エンジン。
「走り屋かコッチくるみてえだな……?」ジュンはその時、香取が険しい顔をしていることが気がかりだった。「……まさか、バレた?」
「バレたって、どういう事だ?」ジュンがそう聞いても、香取は何も答えない。ただ冷や汗をかくだけだった。
「……知り合いか?」「……えぇ。チームのリーダーです。僕が勝手にもみじラインに行ったのが気に食わなかったんです。
本当は抜けたかった、こんなチーム。だけど脱退させてくれないんです。即戦力だなんだって言って、全然。」
香取の様子を見る限り、ただの仲間同士の揉め事ではない。何か面倒な事情がある。そんなことは容易に想像できた。
「お前、そのチーム好きじゃねぇんだな。」「……僕が入って最初の頃は良かったですよ。でも、段々速さや勝った数に固執していくようになって、方針が合わないなって。
それで気になったんです。走るって何だ、って……。」ジュンはその言葉でやっと、香取がなぜ走る意味を探していたのかを理解した。
香取は勝ち負けに執着しないから、走ることそのものが好きだから。だからこそ、走る意味を探していたのだろうと、今になって理解した。「……なんか、悪いな。」
ジュンは不意にそう呟いた。「へっ?」「……なんでもねえ。」
山の方から聞こえていたエンジン音が、急激に大きくなる。一台だけではない。複数台。しかもかなりのペースで下ってきている。
「……やっぱり来た。」ジュンは香取を見る。「そんなに面倒な相手か?」「面倒ですよ。」即答だった。
「話が通じない訳じゃないです。でも……。」香取は言葉を選ぶ。「速さこそが全てだと思ってる人です。」「げ、俺の嫌いなヤツ。」
香取の話を聞いたジュンはしかめっ面になる。そして、4台のスポーツカーがジュンと香取のもとに到着する。
「黄色いのがリーダーです。」「ほぉ、スポコンか。趣味はイイみてえだな。」イエローのAE111レビンからリーダーらしき男が現れると、他の車からもぞろぞろとチームのメンバーが降りてくる。
フロントウィンドウ、助手席側の上部の端に、Candiez Strikeと言うステッカーが貼られていた。おそらくはチームの名称だろう。
「お前、誰だ?」レビンの男がジュンに話しかける。「地元の走り屋。一応ここじゃ一番速いってことになってる。完全に自称だがな。アンタは?」
レビンの男はジュンを上から下まで眺めた。そして、その後ろに停まっているR32を見る。ガングレーメタリックの車体。
戦うためのマシンだろうと一目でわかる。男がR32をジロジロ見ていると、呆れたジュンが男に迫る。「聞いてんのかよオニイサン。名前はあんのかよ?」
「……俺は髙木仁。第2いろは坂でアタマ張ってる、Candiez Strikeてチームのリーダーだ。」
岡本店長の立ち位置は助言者に近いです。
ジュンをカフェの店員として数年間雇っていて
彼の車のことをよく知っています。
ジュンに代わりR32チューニングを
するほどには車を理解しています。
こういう助言者的な立ち位置大好き。
以上、あるとでした。




