#18 デジャヴ
あるとです。
今回で辻戦は終わりになります。
いや〜疲れた。
この調子だと1ヶ月半で1人ずつ
バトルしていく感じになりそう……?
『ガガッ……こちらC-2ヘアピン! 32RがインベタからMR-Sをオーバーテイクした!』トランシーバーから流れたその言葉に、ギャラリー達は歓声を上げ、より一層盛り上がった。
「決まったな。くくく……。」岡本はその時を待っていたかのよえに、彼から笑みがこぼれた。「……マジで引き当てたのね、彼。」
まさかの結果に驚きを隠せない鴨居。全て岡本の予告通りにバトルが進んでいくことが、彼女にとって、とても恐ろしく感じれた。
「25%は最低でもお前の憶測だ。こっちは最初から1000%勝てる見込みなんだよ。もしあのヘアピンで抜かれちまえば、もうどうしようもない。
次のヘアピンで抜くこともできるが……それも無理だろうな。アイツにとっちゃ相当のショックになるだろうし。」
「……の割には25%って言葉引きずってたわよね。」冷静にツッコむ鴨居。「うっせえ、念には念をだろうが!」「はいはい……で、一応これも聞いておきたいんだけど……
辻がここから巻き返すには、どうすべきなのか分かる?」鴨居から興味深い質問を投げられた岡本は、指を顎に置いて考える。
「……そうだな。普通ならもうタイヤもズルズルだし、アクセル踏み込んで抜き返すのは無理難題だろう。フッ切れてベタ踏みしたせいで、滑って砕け散るのが目に見える。
……だが、アイツの負けず嫌いとド根性の事だ。案外、ベタ踏みで行くっていう大博打に出るかもしれねえな──ッ!」
C-2ヘアピン立ち上がり。最後の最後での、まさかのオーバーテイクに、その場は騒然とした。どこにでもいる普通の峠小僧が、プロレーサーを抜いたというのだから。
抜かれてしまった本人である辻は、8年前の"あの時"とあまりにも似通いすぎているこの状況に、唖然としていた。
(抜かれた……俺が? それも同じ場所、コーナー、状況、車で!? あり得ねえ、こんなのあり得ねえッ!)
GT-Rは4輪全てを使い込み、立ち上がりでふらついたMR-Sを一気に離そうとしていた。どうにか食らいつこうとする辻。
アクセルを半分ほどまで踏み込み、タイヤの様子を伺う。そこであることに気づく。(……まだ残ってる。アクセル全開でいける分のタイヤが、まだ残ってる!)
まだグリップが確保できる状況なら、まだ負けたと決まったわけじゃないのなら、彼に踏む以外の選択肢はなかった。ストリートに上位入賞はない。
2位でもいい、という考えが通用しない。勝つか負けるかだけが決まるのだ。
ならば、やることは一つ。
「このまま、ぶち抜くッ!」
このままの勢いで相手とのアドバンテージを増やそうとしているジュンに追いつこうと、決死の覚悟で辻はアクセルを踏み込む。
僅かにグリップが残っているタイヤからは、激しいスキール音が鳴り響きながらも、最後の力を振り絞るように地面にしがみつく。
「あとは、今ここにあるもん全部使い切って、お前をぶち抜くだけだ、内山 ジュンッ!!」
C-1に続く左コーナーに突入しようとしている2台。ジュンはアウトサイドから進入し、そのままC-1でインサイドにつけるライン取りを取る。
突っ込みで辻にインサイドを取られないよう、ジュンは注意深く左コーナーへ突き進む。グリップが無くなってきているのか、GT-Rのリアが少し流れ始める。
だが、ジュンはそのままアクセルを踏みっぱなしにした。辻はその様子を見て、ついさっきの自分をライン取りを、彼に重ねた。
自分が見せた走りを、彼が自分流で再現しようとしているのを見て、少し驚いた。(このままじゃ……このままじゃ逃げ切れない!
いくら店長が言ってたからって、アレは初めての、一か八かの勝負だった。いくら上手く出来たからって、次のコーナー抜けないと勝ちか負けか分かんねェ!)
C-2でのオーバーテイクで手に入れたアドバンテージがC-1で取り返されたら、それこそ無駄になってしまう。ジュンはせっかく得たこの順位を守り抜くべく、守備意識を持ち始める。
(最終コーナーだ、ここで必ずぶち抜くッ!)左コーナー立ち上がりから、そのままC-1ヘアピンに突入し、最後の攻撃を仕掛けに行く辻。
走行ラインを大きく取った、アグレッシブな動きでジュンとの差を一気に縮めた。一方でジュンは、辻の走るであろうラインをあらかじめ塞いでおくラインに出る。
インを塞ぐ事でアウトからしか攻めることが出来ず、タイヤの負担も大きくなる。ただでさえ少ないタイヤ残量だが、それがまたごっそり減るとなれば、塞がれたインを大人しく走るしか無い。
だが、辻は出し惜しみをするつもりは一切ない。アウトがガラ空きならば、そこに突っ込むだけ。C-1ヘアピンの中腹あたりで、2台が再び並んだ。
「な……こんなとこでオーバーテイク!?)
ジュンは驚く。まさか、今ここで不利なラインに自ら突っ込んでいくとは思いもしなかった。辻は状況に焦りながらも、立ち上がりに入るにつれて、アクセルを徐々に踏み込んでいく。
(このまま攻めなければ……このままアウトから刺さなければァ……ッ!)
タイヤも車もドライバーも、完全に限界になっている状況にも関わらず、無理をしてまで諦めようとしない、追い抜こうとするその姿。
ジュンはある意味、感激した。辻は横並びのまま車を立ち上がらせようとする。このままならいける。勝てる。
「攻めろ……攻め続けろ……ッ。攻めて攻めて、攻め続け──!?」
だがそう思ったのもつかの間だった。MR-Sのリアがブレイク。無理なラインからの無理な進入が仇となり、タイヤが限界を迎えたのだ。
MR-Sがスピンする。タイヤから白煙を上げながら、車が回ろうとしている。(これもあの時と同じ……また回って、車ぶつけて負けるのか……。)
スピンの動作に入ったMR-Sを避け、ゴールの方へと走り去っていくジュンの姿が、辻の目に一瞬だけ映る。
その時、辻の意識がスローモーションになったかのように、窓の外の景色がゆっくりになっていく。それはまるで、走馬灯のようにも感じれた。
(……いや、せめてぶつけるのだけはッ!)
辻はスピンしながら壁へと向かうMR-Sのステアを握りしめ、ブレーキを強く踏み込む。車は激しいスキール音とともに、本当に速度が落ちていく。
ブレーキローターが熱を持って赤く発光し、タイヤは煙を吐き続けている。そして1回転半回ってやっと、車は停車した。
去っていくR32のテールを見つめるしか無い辻は、ため息をつくと、車の中で俯く。そして、その時の辻の心の中には2つの感情が芽生えていた。
一つは、プロとしてバトルに負けた事に対する悔しさ、劣等感などの感情。そしてもう一つは、プロとしてバトルに挑み、本気て戦って負けることができた相手がいたことに対する高揚感。
本来重なり合うことのない2つの感情が、その時と辻のなかには混在していた。
ギャラリーたちは辻の様子が心配で、彼を見にMR-Sの下に駆け寄る。「大丈夫かよ、アンタ!?」「ケガ無えか? 車は!?」
結局、辻は混在する感情から、高揚感を選んだ。というより、彼はこの状況のなかで、ただ笑う事しか出来なかった。
「……そうか、勝ったか。」C-18ストレート。岡本は歓声騒ぎのギャラリーの中で、冷静さを戻しながら安堵した。
そしてそれは、鴨居も同じだった。「ま、大体の勝ち方は学べたわ。どーもアリガト。じゃ、私は帰るとしますか……。」
そうつぶやくと、鴨居はそそくさと自分の車のもとへと向かっていく。「……ん、帰るのか?」「ええ。今回のバトルを整理して、作戦を組み立てたいのよね。
どうやれば勝てるのか? 仕掛けるタイミングは? そういうのをキチンと固めとくのよ。それやってるだけで一日潰れるから……じゃ。」
そういい、鴨居は愛車のエンジンをかけてギャラリーを退かすと、すぐにもみじラインを下っていったのだった。
「アイツも、もうオトナなドライバーになっちまったな……。」
彼もまたつぶやく。すると岡本は、バトルを見届けていたギャラリー達の中で、一際目立つ男を見つける。ジュンが勝っても嬉しそうにしない、辻が負けても悔しそうにしない。
それどころか、レースに盛り上がっている様子さえ、見えなかった。それは、岡本達のように、冷静にバトルを見届けているようにも見えた。
「……よう、兄ちゃん。面白かったか、このバトル?」岡本は、その男に話しかけてみた。「ん……まあそれなりに。特に、"あなたのトコの32R"は、面白い走りしてましたね。」
その瞬間、岡本の眼光が鋭くなる。「……兄ちゃん、俺のこと知ってんのか?」「たまに、あなたのカフェに伺います。美味しいんですよ、あなたの淹れたカフェモカは。」
クスリと笑いながら、男は話している。「ほぉ、そりゃドーモ……あぁ、確かにたまに来るな。いつも駐車場にご自慢の、あのクルマ乗りつけて、いつもアイスのモカだけ頼む……。」
岡本はスペースの端に停められていた、コンバットグレーのVeilSide製エアロに身を包んだ、RX-7 FD3Sを見つめる。
「今回のバトルで、このコースでの彼の全力を見れた。でも、ず〜っと同じ場所で闘い続けても、ちっとも楽しくないでしょう、普通?
まあ、その辺の話はまた今度しましょうか。また今度、あなたのカフェに行きますから、その時にでも……その時はモカ以外も飲んでみますよ。」
男はそう言い残すと、FDの方へと歩き始める。「……あぁ、待ってるぜ。」岡本は歩いていく男にそう返す。FDの男は手を上げ、すぐ降ろして歩き去っていった。
(……アイツは速い。だけど、俺はその速さがどこでも通用するとは思っちゃいない。逃さないぞ内山 准、お前はこの宮坂 伸弥がぶち抜いてやる……ッ!)
最後に出てきた宮坂くん。
彼は本文からわかる通り、
岡本のカフェにたまにくる常連です。
峠の麓にあるというのもあるでしょうが、
走り屋が集まりやすいカフェだこと。
以上、あるとでした。




