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With my R  作者: あると
19/19

#19 昼下がりの山のなかで

あるとです。

ケバブにハマりました。

基本的なケバブはお手頃、

そしてボリューミーで食べ応えもあり、

なおかつ美味いという、このコスパの三重奏。

ハマらないわけがないと。

ヨーグルトソースもうめえんだなコレ。

食い過ぎて塩分過多で死んでしまいそう。

「……あの時。ほんの一瞬だけ、"夢"を見たんだ。」


富士見台展望台PA。バトルが終わり、一時の静寂が流れるその場で、ジュンと辻は向かい合って立ち尽くす。


ギャラリー達が彼らを見守る中、辻が先に口を開く。


「夢?」ジュンはそう聞き返す。辻は黙って頷き、また話を続ける。「あの時、お前が見せたあの走り。俺には岡本(アイツ)と同じ姿が見えた。


もう何年前になるかな……俺はアイツと本気でやり合って負けた。このもみじラインで、そしてあの場所で、その車と同じやつに勝負に出て、結果負けた。


ショックだった。そん時はまだ未熟だったから、車のフラつきも押されられなかった。そん時の車はぶっ壊れて、プライドもボコボコ。


それでも、俺はまだやれるって、これからだって思えた。」辻のその告白に、ジュンは息を呑む。「……なんでだ?」そしてまた聞き返した。


「……やり返したかったから。一度だけでもいいから、アイツを打ち負かしたかった。進化した俺を見てほしかった。ただそれだけ。


でも、それも叶わなかった。アイツは走り屋から降りて、家庭を作ってた。そん時の俺には、勝ち逃げされたようにしか思えなかった。」


辻は、思い出しその悔しさで、拳を強く握りしめながら、少しだけ声を震わせた。だが、それももう無駄なんだと昔から悟っていた辻は、すぐに手を緩める。


「だけど……だけど8年経った今になって、お前が現れた。お前とのバトルは、まるでアイツと戦ってる時と同じ感覚だった。お前の走りも、その根性も。


お前はあの時、俺が我慢して潰していた想いを、元の形に戻してくれた。あの時のお前の走りはアイツと瓜二つで、俺の心を奮い立たせてくれた。


何も、怖くなくなったんだ……。」辻はフッと笑い、俯いた。


勝ちたいという執着を押し殺すのが、辻は辛かった。執着がいき過ぎれば、いつか取り返しのつかないことになる。事故って、最悪死んでしまうのではないか。


そう理解していても、"アイツに勝ちたい"という想いを捨てられない。もっと速くなりたい、もっと速く走りたい。


その想いは、時間が過ぎれば過ぎるほど、どんどん苦しくなる。


時間が経つ度にその感情は強くなっていく。だが、それを発散させられる場所は、もう走り飽きたサーキットしか無い。


いつもの走りで、いつもの勝ち方で戦い続けるのは、むしろ苦痛。勝ち続けたかった。だが勝ち続けるのも辛かった。


GT-R相手にサーキットで戦い、勝っても、何も面白くない。それは相手が岡本じゃないから。だが、岡本は表舞台にはもういない。


どうしようもない、どこにも行かせられないその気持ちが、彼を縛り上げる。結局リベンジを諦め、キッパリ忘れる事しか、自分には出来ないと思い込んでいた。


だが2年前。ジュンがもみじラインで最速記録を樹立。それも岡本と同じ、R32 GT-R。辻はあの時の闘争心を再び震え立たせ、ジュンをタイマンで倒そうと考える。


そしてMR-Sをベースに、自分への見せしめとして保管していた、TRD2000GTのエンジン、3S-GTEを載せ、仲間と共に半年と2ヶ月の歳月をかけて、車を作り上げた。


そしてそれこそが、彼の新たな愛車である"ブルー・インパルス"なのだ──。




「──お前とのバトルの為に作り上げた、勝つため車。ま、結局負けたけどな。だけど……負けてスッキリしたよ。最初から本気(マジ)の全力でバトルできて、その結果負けたんだ。


ちゃんとケジメ付けて、自分に負けを受け入れられた。それだけで十分、俺は楽しめたよ。


ありがとうな、ジュン。俺にもう一度夢を見させてくれて。


もっともお前は、ただ走り屋相手に本気のバトルをしただけなんだろうけどな……。」辻はMR-Sの方へ振り返り、そう語った。辻がまた前を向いた時、ジュンも口を開き、ある質問をする。


「俺は……俺は一番速い走り屋になりたい。その過程で、絶対通んなきゃいけないボスがいる。ソイツを倒すために、俺は走ってるんだ。


"辻さん"、教えてくれよ。俺はコイツを使って、どうやればフルチューンドのランエボに勝てる?」


ジュンの発言に、辻は耳を疑った。今の話を聞いていながら、自分の二の舞になりかねない行動に出ようとしている。


巡り巡って結果上手く収拾つけて終われそうな自分の走り屋人生だったが、それが決して最善というわけではないことは自覚している。


だからこそ、答えるのに少しばかり抵抗があった。それでも、彼の期待に応えるために、話すことを選んだのだった。


「速く走るねぇ……まず、お前は"他のコースでも"走れるのか?」ジュンは辻の問いに目を点にする。「他の、コースで? そりゃあもちろん──」


「違う。お前が他のコースで十分走れるのは分かってる。俺が言いたいのは、お前が他のコースの地元最速(コースレコーダー)周りについていけるか、って話だ。


多分だが、お前が言ってるフルチューンドのランエボって……昔、神奈川の七曲りと長尾で最速記録を持ってて、今は赤城の最速……ソイツ、"新庄元也"ってやつだろ?」


ジュンはその名前を聞いて、彼も元也を知っているのか、と驚く。が、それもそのはず。元也は3つの峠の最速記録を手にしている。


それも、そのうちの2つは走り屋の聖地(メッカ)。一つは上毛三山のうちの1つの赤城。もう一つは、神奈川県箱根/静岡県御殿場の長尾峠。


聖地を2つも潰している男を、元走り屋の彼が知らないわけないだろうと、ジュンは薄々ながら気づく。


「……合ってるよ。」「なら負けて当然だ……アイツは異常だからな。確か2年前、埼玉で一度だけ負けてからは、ず〜っと無敗なんだと。


ま、そこはどーでもいいかな……自分の地元(テリトリー)でバトルしようが相手の地元でしようが、これだけは覚えておいたほうが良いぜ──ッ!」






8ヶ月前、埼玉県某所。山の中にある、辻のガレージ。そこに運び込まれ、様々なチューニングを施され始め、身ぐるみ全部剥がされた、フレームとタイヤだけのMR-S。


エンジンを抜かれたTRD2000GTは廃車にされ、その心臓はすでにMR-Sへと移されている。


その上で、これから灯火類や補機類の調整、マフラーの制作やECUセッティングなど、チューニングを行なうつもりだった。


今までの自分を捨て、新しく作り直す。使えるものは使い、他は切り捨てる。それはMR-Sだけの話ではなく、辻という人間そのものの再構築を意味することでもあった。


「……君塚ぁ。ラチェットにロクミリの六角つけて持ってきてよ。」辻は新しくつけたハイリフトのカムを取り付け終え、カムカバーをつけ直そうとしていた。


君塚は簡易ベッドに横たわっていたが、その声を聞くとムクリと立ち上がり、工具箱をあさり出した。


カチカチと音を立てながら、君塚はラチェットレンチを組み立てていく。「……はい。」「おっす、アリガト。」


君塚からレンチを受け取り、また作業に戻る辻。そしてまたベッドに戻り、すぐにいびきをかきはじめる君塚。


11月の寒い気温の中、エアコンをつけてガレージに籠もって、金属音を立てながら静かに作業をしていく日々。


……だが、今日だけは違かった。


「なぁ君塚。コイツに名前つけるとしたら、何にしような。」静かなのが嫌いな辻は、すぐに口を開く。「……辻さんの好きに決めたらいいじゃないですか。」


辻のチューニングに付き合わされている君塚は、たまに徹夜で彼の作業を手伝うことになる。前日もそうだったため、今日もものすごく眠くなっていた。


「じゃあ……ウルトラスーパーメガマッチョ──」「バカじゃないですか。もうちょっとマシなのにしてくださいよ。」


辻のワードセンスの無さに、君塚の目はすぐに覚めた。辻のワードセンスと睡魔の戦いで、まさかのワードセンスが勝ったのだ。


「なんだよォ、そんなにウルトラ・スーパー・メガ・マッチョ・ターボ・マン号が嫌なら君塚が決めてくれよ。」


「なんですかその、ウルトラ・スーパー……なんだっけ。調子狂わせないで寝させてくださいよ。ただでさえ外もうるさいんですし……。」


君塚はガレージの外に出て、空を見上げた。明るい空が一面に広がる。「……そっか、今日は航空祭か。」空を見上げながら、君塚は呟く。


「あ、だからか!? 外にこんな人集まってんの!」辻はガレージの中から目一杯大きな声で返す。君塚はしばらく、黙って空を眺めていた。


「……ん、あれは?」すると、空を6機のジェット機がスモークを放ちながら編隊飛行をしている様子が目に入る。


「ありゃ、ブルーインパルスか。ちょうどアクロバット飛行やってるみたいだな。やっぱT-4かっけえな……。」


ガレージの外に出てきた辻は空を見上げ、呟きながら君塚の隣に並ぶ。君塚は何か思いついたかのように、ひと言だけ口に出す。


「……"ブルー・インパルス"か。案外いいかもな。」「んえ?」


この君塚のたった一言の呟きによって、辻の最高の愛車であるブルー・インパルスは、誕生したのだった……。

今回で辻戦は終わりです。

薄々気づいてる方もいるかもしれないですが、

次のバトルの舞台はもみじラインでは

ご ざ い ま せ ん 。

まあ、次の次の話をお楽しみに。

以上、あるとでした。

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