#16 Payback of attack
あるとです。
ちょっとお高いイヤホンを買いまして、
現在満喫中な私。
音の深みというか、立体感というか、
そこら辺がやっぱり100均の物と比べたら
とても凄くいいですね。はい。
あと大盛りアイス独り占めしてます。
辻が練り出した作戦は、およそ2つ。まず、相手を手中に収める作戦、そして手の上で転がす作戦。
第一の作戦のアーリーブレーキングは、相手が予想するであろうブレーキングのタイミングよりも早く、ブレーキングを開始する。
それによって、相手は追突の危険を感じ、無意識にブレーキを踏む(例外はあるが、今回はジュンという信頼を置ける走り屋相手なので堂々と使用している)。
自分はそのままコーナーに進入し、コーナーでアクセルを踏み続けられるが、相手はそうではない。踏むか踏まないか、中途半端なアクセルワークで走ることになる。
無駄な区間が増え、走るリズム感を崩す原因になってしまうのだ。これが第一の作戦のアーリーブレーキング。
第二の作戦は、アーリーブレーキングを使うタイミングを利用した、敢えて相手に抜かせる作戦。
まずは、急なコーナーでアーリーブレーキングを使う。この時相手は、自分の作戦の内容を知っていて、対処法を何となく把握している状態にある。
そこで相手は自分を抜きに来る。その際、抜こうとしてアクセルを踏んでしまい、コーナーに備える時間がなくなる。
相手が、自分が今使ったアーリーブレーキングが建前で、実はベストタイミングでのブレーキだと知ったときには、自分はオーバースピードでガードレールに突っ込みそうになる。
そしてブレーキに集中している間に、自分はコーナーを安定して抜けることができ、アドバンテージを一気に作り上げることができる。これが第二の作戦。
これらを1→2の順番に、タイミングをよく見計らって使うことで、レースの状況を支配することができる。それが、辻の速さの理由なのだ。
(第二の作戦も効いた……このまま逃げ切らせてもらうぜ!)
C-21ヘアピン。2台の差はだんだんと縮まっていく。そこから続くS字コーナーの連続。(ここは……宏一くんに仕掛けた所か。だけど、今回ここで仕掛けんのは違うよな。
相手の格が違えんだし、それに店長の言ってる感じ、仕掛けるポイントはまだまだ先なはず……ッ!)
右、左、右、また左と、続くS字を何度も曲がっていく。そして最後の右コーナー、C-18。「見えてきた……祐介がまだ前にいる感じかな。」
C-18 の先のストレートでバトルを見ていた岡本や鴨居、その他ギャラリー達。ヘッドライトの光が、C-18の壁を照らす。
すると、辻がC-18で再び仕掛けた。煙を残しながらストレートをアクセル全開で走るMR-S。「おぉっ!!」同時に、ギャラリー達の歓声が沸き上がる。
そしてその後ろについていくジュンとR32。遅れてはいるものの、まだ余裕そうな雰囲気を漂わせる。「……気づいたか、鴨居?」
「えぇ……辻、本気でキテるわね。C-18でのドリフトに一切隙が無かった。スパートをかけ始めてる。このままの調子じゃ負けるわね。」
ハイパワーMRのMR-Sは、S字を曲がり続けることによる荷重移動が激しく、車がフラフラとふらつく様な走りを続けることを敷いられていた。
そしてS字区間最後のコーナーであるC-18に辿り着くと、アクセルを抜いてタイヤの遊びを作り、グリップ力を作り出す。
そしてある程度車がストレートを向いたら、あとは一気にアクセルオン。300馬力のパワーがフル開放され、圧倒的な加速でストレートを駆け抜けるだけ。
それだけで、チューンドのR32が相手でも同じ土俵で圧倒することができる。「コーナー1つでこんな深いなんて……ギャラリーの奴らは、誰も気づいてないんでしょうね。」
「だろうな。車に見惚れて走り方なんて気にやしねえ……と、言いたいところだが、俺はプロ気取りの普通の男だからな。何も言えねえ……。」
C-17ヘアピン。スパートをかけ始めた辻は、このままのペースでジュンからの逃げ切りを図る。が、C-18の直後のストレートで、辻はあることに気づいていた。
(岡本……アイツがわざわざギャラリーに来るなんて、岡本にしちゃ珍しい。いつもは"ダルい"だとか言って行かなかった癖に……。
GT-Rがホントは速い車だってのは、身をもってよ〜く知ってる。だが認めたくねえ。一番速えのは、この俺なんだ。内山 准、お前は俺が叩き落としてやるからなッ……!)
8年前。辻と岡本は、もみじラインで最後のバトルをした。その結果、辻は岡本に敗北を喫し、その悔しさを糧にプロの道をそのまま突き進んだ。いつかは岡本を超えるため。
辻はプロのレースで、R32やR33、ましてやR34など、様々なGT-Rを相手に取り、戦い、勝ってきた。そして数年。プロの技術が身について、岡本にリベンジを申し込もうとした。
だが、岡本は辻とのバトルを最後に走り屋を引退し、家族と生きる道を選んでいた。彼にも家族はいる、家庭はある。そう知った時、辻は悔しかった。
だが、その思いも全て自分の踏み台にして、レースで戦い続けていた。舞台は違えど、やり方は同じ。アーリーブレーキングで相手を手中に収め、そして転がす。
それによって作り上げた名声と金は、彼の持つ喪失感から、どこにも行き場が無かった。愛車のチューニングもして、もみじラインでレコードを叩き出した。
だが、それでも相手が現れず、面白くなんてない。そこで、ある男が現れた。内山 准という青年が、自分のレコードを打ち破った。
彼がぽっと出の走り屋でなく、岡本の関係者だと知ると、辻は「岡本の後継者だ」と跳んで喜んで、新しい車を作り上げる。
それで生まれたのが、ブルー・インパルスこと、3S-GTEのMR-Sなのだ。新しい走り屋のジュンへの……そして、何年も燃やし続けた岡本への対抗心。
その思いを青い衝動に乗せて、辻は相手の二枚、三枚も上から戦っている筈だった。
だが、辻はこの状況が岡本とのバトルと似ていることに気がつく。悔しさに押しつぶされる原因となった、あのバトルに。
(ヤツがたまたま岡本と同じ走りなのか、GT-R乗りが皆そういう走り方になるのかは知らねえ……が、明らかおかしい。走りのペースが、後半になって異常に上がってくる!)
そう考えているうちに、気づけばC-14にまで辿り着いていた。長くもあっという間に感じる。だが、それは全てこのバトルのレベルが高いことにある。
ハイスピードで行われる、高度なテクニック。そしてそれを帳消しにする程な速さを見せる、直感的な走り。
だが、そんな事を気にしている暇は、2人にはない。前を向いて、ただ走り続ける事だけが、今の2人に課された使命なのだから。
(とはいえ……ちょっとずつスパートかけたほうが良さそうだな。もうここまで近づいてる。相手との距離も、なによりコースの残りの距離も。
だけど……店長の言ってたやり方を信じるだけだ。だからこそ、今のうちは我慢するしかないんだ。集中しろ、俺!)
ジュンは必死にMR-Sのリアを追い続ける。だが、近づきすぎては逃げ切られる上、タイヤを無駄に使ってしまう危険もある。負けたくないが、アクセルは踏みきれない。
ジュンは、まさにその状況にあるのだ。
そして連続ヘアピン。やっとアクセルを全開にできる区間に入る。(パワー全開じゃねえと、たまに速度がガタ落ちになって止まりかけるからな……踏むッ!)
マフラーから炎を吹きながら、ジュンはドリフトを何度も何度も決めて、辻の背中を追っていく。ジュンはその間、度々入るギャラリーが鬱陶しくて仕方がなかった。
プロ相手に勝てるわけがない、そう思うギャラリーの目線が、まるで矢のようにジュンの身体に刺さっていく。
それでも、アクセル全開でコーナーを曲がり続けていく。それがジュン、それでこそジュン。やり方は見えている。あとは実行するだけだ。
(店長の言ってた通り、仕掛けるタイミングは、最後のヘアピン2つ。それまでは我慢比べだぜ、辻 祐介。どっちが先に本気のスパートを掛けにいく……ッ!?)
「……もういい、話そう。」岡本はギャラリー達の歓声が上がり続ける中、静かに口を開く。「……ん、何を?」
「俺が教えた、"アイツ"への勝ち方の話だよ。オメー気になってんだろう、それが?」鴨居は岡本の問いに対し、ため息をついた後に黙って頷いた。
「辻とやり合った時、アイツは完璧に計画を立ててくる上、心理的に恐怖を植え付けてくるタイプだから、走るの怖えんだよ。
で、じゃあどうすればその恐怖を克服できるのか……それは逆に、相手に仕返しをするんだ。"恐怖のお返し"を……な。」
後書きには今話の内容に関する
追記などを書いていますが、
今回は基本的に言い切ったつもりなので
無しです、よろしく。
以上、あるとでした。




