#14 青い衝動
あるとです。
ゲームでE46 M3 GTRを使い始めて、
V8の良さに気づき始めました。
実際に乗るには維持費が高すぎるので、
今の自分にとっては夢のまた夢。
いつかはV8マシンに乗りたい系男子です。
特にセルシオみたいな高級セダンが。
「お疲れさん、桜ちゃん。」「はい、お疲れさまでした〜……あれ、車が……。」深夜、カフェの店内。閉店作業も着替えも終わり、あとは帰るだけ。
九条は店を出ると、いつも泊まっているジュンのR32が、駐車場から動き出し、カフェから出ていこうとしていた。
「こんな時間から、どこへ……?」テールランプをピカピカ光らせながら、ジュンのR32は暗い一般道の中へと消えていった。
「今日はアイツ、もみじラインてトコに行くんだ。」すると、店のライトをすべて消し、完全に閉店状態となったカフェから、岡本が九条のすぐ後ろに現れる。
「今日、変な二人組の男達がいたろ?」「あぁ、あの……。」九条は、今朝カフェに来た辻と君塚の2人を思い浮かべる。
「そ、アイツらに誘われて、走りに行くんだってさ。俺もそろそろ出るか……レースがまだでも、ギャラリー達はもう集まってんだろうし……。」
岡本は独り言を言いながら、愛車の20セルシオの前へと向かっていく。「走り屋……ってやつなんですか、ジュンくんは?」
桜はその後を追いながら、ジュンの走り屋としての顔を探ろうとした。「……あぁ。アイツから話は聞いたろう?
ジュンは昔っから車が好きでね……峠での走りも速くて、もみじラインじゃちょっとした有名人なんだぜ?」
岡本はまるで、我が子の自慢話の様に、ジュンの話をしていった。そしてセルシオの目の前に辿り着く。
「あの……私も、見に行ってみても良いですか、ジュンくんのバトル。」桜のその発言に、岡本は一瞬足を止めて考えた。
「ん〜……や、ダメだ。やめといたほうがいい。アイツを見れるのは3秒とかそこら辺……その3秒の為に、君のダイジな睡眠時間を潰すのはゴメンだからな。
今日はもう、家に帰ったほうがいいぜ……じゃあな。」そう言い残した岡本は車に乗り、エンジンをかける。4L V8エンジンが唸りながら、ゆっくりと動き出す。
桜は動き出す車を避け、岡本がジュンの後を追っていく様子を見届けるしかなかった。「……男の人って、なんで車が好きなんだろう。」
その時、桜の携帯に一通の電話が。「……はぁ。」ため息をつきながら、桜は話始める。「……今終わって帰るトコです。はい……はい。」
桜の目線が段々と落ちていく。どこか寂しい目で、彼女は帰路に着く。「……分かりました。はい、では。」
桜は電話を切り、暗い夜道を歩いて自宅へと向かうのだった。
深夜の10時45分、もみじライン富士見台展望台PA。
ここに接続する道路に、青いMR-SとR32が横並びで並んでいた。ギャラリーの歓声が響く中、辻とジュンが顔を合わせる。
「よう、来たか。"客"も呼んで待ってたぜ。」「……フフン、場はキッチリ揃ってるってワケね。」
2人は熱い眼差しを送り合う。八百長や出来レースじゃない、闘志をむき出しにできる、本気のバトルに臨むつもりだ。
「3Sねぇ……よくMR-Sに載せようと思ったな。」ジュンは目線を辻本人からMR-Sへと移す。「見るか? いいぜ見せてやるよ。」
辻はGTウイングによって重くなったエンジンフードを、力強く開いた。「これが……俺のマシン、"ブルー・インパルス"の心臓だ。」
中には、ピカピカに磨かれ組み直された、3S-GTEが積まれていた。街灯の光が反射して、インテークマニホールドが輝く。
「結構綺麗……新品みてえだな。」「だろ? これも全部、俺と君塚のチューンドだ。な、君塚!?」横で2人を見ていた君塚は、ゆっくり頷いた。
辻はゆっくりとエンジンフードを閉じる。「俺らの力作だ……お前の32Rなんかけちょんけちょんにしてやるぜ、内山准。」
「望むところだぜ、俺と32Rの本気を見せてやるよ。ブルー・インパルスだかなんだか知らねーけど、関係ねえ。このバトルは勝たせてもらうぜ、辻祐介。」
「ここいらでいいかな……?」一方、もみじライン最長のストレート。ギャラリーが集まる中、岡本は路肩に車を止めて外に出た。
「……あれ? もしやあんた、岡本?」すると、岡本の真横に一人の女性が歩いてきた。見覚えのある顔に、岡本は驚く。
「ん……鴨居! 久しぶりだな、お前も来てたのか?」「えぇ、辻がまた公道を走るって聞いて、埼玉からわざわざ飛んで来たのよ。」
腕を組みながら、岡本の隣に立つ鴨居。「やっぱ立ち姿が男らしいトコは変わってねえな。その癖、スタイルはグンバツ……と。」
岡本は鴨居の身体を見つめる。彼が自分をジロジロ見ていることに気づいた鴨居は、岡本の手の甲を叩き、注意する。
「あなた、結婚してるんでしょう? なら尚更セクハラはよくないわよ。」「痛えなぁ、スキンシップって言ってくれよ……。」
二人は少し黙った後に、同時に吹き出す。このやりとりも久しぶりで、"あの頃"の懐かしさを感じて、つい吹き出してしまったのだ。
「はぁあ……お前はまだレース出てんの?」「えぇ、まだね。今は辻ともよろしくやってるわよ。アイツ、いつも速いのよね……。
そのせいで表彰台圏内には入れても、いつも2位のまま。金も入らないし、アイツだけがどんどん成長してくのよ。」
鴨居の目線が、富士見台展望台の方へと向く。「それで金が余るほど生まれたアイツは、あの車……MR-Sを作ったそうね。
行き場のない名声と、走るたび増えていく金を注ぎ込んで……。」そう言い切った時、他のギャラリーの男が叫ぶ。「レース始まるってよぉッ!」
岡本は身につけている腕時計の針を見つめる。「ん……もう、か。お前はどっち応援すんの? 辻か?」「いや……GT-Rの子を応援しようかしら。」
予想外の答えに、岡本は少し戸惑った。「てっきり、いつも走ってるからアイツを応援すんのかと思ったぜ……なんでだ?」
「悔しがってるアイツを見たいってのもあるし……何よりアイツに精神的ダメージが入れば、私もレースで有利に立ち回れるしね。」
岡本は鴨居の発言にドン引いていた。「……セコっ。」「っるさいわねぇ、私ァいつも負かされて悔しいのよ。」
「カウント5秒前!」富士見台展望台PA前。舞台も整い、スタートのその瞬間を並んで待つ2台の間に、君塚が立って手を振り上げた。
もみじライン全体の歓声の勢いが上がる中、二人はそれぞれ車の中で、自身の掲げる闘争心を胸に思い浮かべる。
(このレースは本気で負けられねえ。ただでさえタイムの面で既にプライドに傷つけられてんだ。負けてたまるかよ。)
「4…! 3…!」思い浮かべている間にも、カウントはどんどん進んでいく。
(たかが"峠だけ"の走り屋だ。プロになってからしか手にはいらない技ってのを、このガキに見せつけてやる。
何がもみじライン最速の32Rだ。GT-Rなんてクソ食らえ……行くぞMR-S! プロの意地ってのを見せてやるぜ!)
「2…! 1…!」ジュンはハンドルを強く握りしめて左手をシフトノブへと差し伸べ、辻はシフトノブをDからSへと入れ替える。
『行くぜ!』
「GO!」
君塚が大きく手を振り下ろした。その瞬間、ジュンはギアを1速に叩き込み、2人同時にアクセルを踏み込む。
ギャラリーの歓声と2台のエンジン音、そしてタイヤのスキール音が混ざり、場は沸き上がる。
ここでいきなり、MR-Sの利点が強く表れた。ミッドシップレイアウトのMR-Sは、リアタイヤのトラクションが強く、パワーを路面に伝えやすい。
軽量化も加えていれば、それはより強く表れる。1tを切る車体に300馬力のターボエンジン。PWRはレーシングカー並み。
リアのグリップ力は、4WDであるジュンのR32を超えるものになりえる。無慈悲にも、この状況そのものが、ジュンにそれを見せている。
「な……速っ!?」この状況に、さすがのジュンも驚きを隠せなかった。(こんなにトラクション稼げるのかよ……やべえなMR車!)
(くく……これがロケットスタートってヤツだぜ!)辻はニヤリと笑みを浮かべながら、最初の右ヘアピンへと向かっていく。
ジュンはその後に続いてヘアピンへと向かう。鋭い加速をジュンに見せつける辻のMR-S。
300馬力という、チューンドカーとしては比較的少ないパワーを、この軽量な車体で支えている。
そしてシーケンシャルミッションの無駄のない変速が、MR-Sの加速の良さを引き立てる。まるで本場のプロのシェフの作り上げた、最高級のカプレーゼ。
トマトの酸味がチーズの濃厚さを引き立てるように、シーケンシャルの無駄のないシフトの良さが、PWR3キロ台という良さを引き立てる、まさに絶品。
(……なんて無駄な事考えてる暇はねぇ。勝負はコーナーに入ってからだろうが!)2台はヘアピンへとたどり着き、ブレーキを踏み抜く。
2台のマフラーからは炎が放たれ、ブレーキローターは赤く発光する。2台がストレートで加速した分の速度が、コーナーで一気に落ちる。
MR-Sに関しては、1t切りの軽量な車体が、激しい荷重移動やMRレイアウトによる振り子現象と重なり、車がふらつく。
だが、それを仇としないのが辻。車を勢いに任せて滑らせ、そのまま一気にヘアピンへ突っ込んでいくのだった……。
愛車紹介第5弾。
髙木仁のAE111レビン。
カラーはライトニングイエロー。
エアロはBOMEX社製 3点エアロセット。
リアにGTウイング付き。
7A-GE化によって1.8Lへと排気量アップされ、
NAで250馬力という限界チューンで
ジュンのR32に襲いかかった。
以上、あるとでした。




