#13 プロ・ドライバー
あるとです。
初めてOPTIONを買いまして、
とにかく読み漁りました。
初めての愛車は多分人も乗せるだろうし、
4枚ドアのセダンになりそうです。
CF4アコードのSiRとか好み。
ユーロR高いんじゃオメー。
「何、コースレコードを更新されたァ!?」
翌朝。ジュンは電話越しに聞こえたそのひと言で、完全に目が覚めた。
いつものように車の中で寝ていた所、モーニングコールのようなタイミングで、ジュンの友人である柊 司から電話がかかってきた。
その電話の着信で目を開けたジュンは電話に出るなり、衝撃の伝言を耳にしてしまう。まさに、寝耳に水だ。
『そうみたいなんだ。しかも、たった一晩でだ! 仲間が見たんだよ……。』
柊が言うには、昨夜に友人が、深夜のもみじラインを走っている際に青い車がコーナーギリギリを物凄い速度で攻めていた、と深夜にメールが来たらしい。
そして調べた所、"辻 祐介"という男のブログにて、もみじラインのコースレコードを更新した、という発言が書かれている回が更新されていることに気づいた、というのだ。
『俺は、辻の事をプロのレーサーとでしか知らなくてよ。で、調べたんだが、辻は走り屋出身のドライバーで、しかもホームコースがもみじラインだったんだと。』
「まぁ……相手がプロで"ココ"の走り屋だったとは言え、まぁ自分で言うのもなんだけど、俺のタイム超えるのって結構ハードル高えはずだろ?
その記録立てんのにどんだけキツい思いをしたのか、今思い出すだけでも恐ろしいってのに、それを一晩で……なぁ、何秒更新されたんだ?」
柊は少し悩んだ末に、ジュンにその記録を告げた。
『……約5秒。』「5秒ォ!?」
ジュンは驚きを隠せなかった。血が滲む思いで走り込んで、やっと手に入れた記録を、たった一晩で5秒以上の差で更新されたのだ。
『イッテェ、今耳キーンっつった……やめてよねぇ! そんな急にデッカい声あげんの!
……でな、しかも辻は、元々もみじラインの最速記録保持者だったらしい。つまりは、記録を更新し返されたんだよ、お前。』
「辻 祐介……何モンなんだよ、ソイツ……!?」
正午過ぎ。ジュンはそれから、いつも通りの時間に出勤し、いつもの業務を開始していた。
ベースとなるコーヒーを、客の要望に合わせて作り方を変えるだけ。とても簡単な仕事だ。その簡単な仕事を、淡々とこなしていくのがジュンは好きだった。
「いらっしゃい。」客が来ると、いつも岡本が迎える。岡本の役割は、基本的にマスターに近いもの。彼もまたコーヒーを作りながら、客の接待をこなしている。
そしてその注文をダイレクトに受け取って2人に伝えるのが、レジ打ち担当の九条の仕事だ。基本的にこの3人で、このカフェが動いている。
それ以前は岡本とジュンの2人だけでこのカフェを回していたというのだから、それも驚きだ。
「720円丁度ですね。席までお持ちいたしますので、空いている席でお待ちください。」
九条が来てから、カフェにやってくる人の数がかなり増えた。というものの、やはり郊外の閑静な住宅街。それも、夏を目前に控えた真っ昼間。
大手と比べたら少ないが、それでも増えていることにかわりはなかった。その理由がまさに、彼女の存在だろう。
それもそうだ、町の外れにある、野郎2人しかいないカフェに人が来るのかと言われたら、そりゃぐうの音も出ないだろう。
するとまた一台、客の車がやってきた。
青いMR-Sが駐車場の端に止まり、中から2人の男が降りてくる。そのなかの1人は、大きくあくびをしながら、ドアへと向かって歩いていた。
ドアが開き、鈴の音色が店内に響く。「いらっしゃいませ。」
あくびをかいていた男がメニューを見るものの、種類の量が多く、困惑していた。「あー……悪ィ、どうやって注文すんだっけ?」
男は、もう一人の落ち着いた男に注文を丸投げした。「はぁ……じゃあ、とりあえずアイスのブラックを2つ、サイズはミドル。以上で。」
「はい、かしこまりました。ブラックのミドルが2点で、お会計が630円です。支払い方法は?」「カードで。」
淡々と注文を進めていく2人に感心しながら、窓の外を見つめる男。「席でお待ちください。」「はい。いきますよ、"辻さん"。」
すると、聞き覚えのある名前が、ジュンの耳に入る。「辻……。」ジュンが振り返ると、2人はレジ横のカウンターに座り、話し始めた。
しばらくすると、裏でゴミをまとめていた岡本が姿を現す。「ん……"祐介"!」「よう、岡もっちゃん。埼玉から遥々会いに来たぜ。」
2人の会話でついに合点がついた。(コイツが……辻祐介。)2人は世間話を続けながら、久しぶりの再会を楽しんでいた。
「店長、コレ。」ジュンは作ったブラックコーヒーを岡本に渡す。「あ、おう。ほいよ、ブラック2つ。」
「おう、ありがとサン。」「ありがとうございます。」辻は受け取ったコーヒーを一口啜る。「……苦っ。君塚、なんでブラックにしたんだよォ!」
「とりあえずですよ。というか、ブラックくらい飲めるようになってくださいよ。中学生じゃあるまいし……ふぅ。」
君塚は辻の話に答えながら、ストローを袋から開けてグラスに入れ、少しずつコーヒーを飲み始めた。
「美味いか? うちのは豆を手挽きミルで砕いてから焙煎すっからよ、そこらみたいに市販のパックのやつは使わないから、ちゃんと新鮮な味わいが売りでな──」
「あー今思い出した。君塚、コイツ話始めるとバカ長くなるからな、適当に切り上げてくれよ。」
君塚は肩をすくめて話を流した。「……そういやさ岡もっちゃん。"外にあった32R"って、アンタのかい?」
辻の発言に、ジュンは一瞬電撃のような圧を感じた。「32R……ほんとだ。しかもガングレー。」
「んぁ?あー……いや、あれァ俺のじゃねえ。うちの従業員のだな。な〜、ジュンくん?」
岡本はジュンの肩に手を置き、目配せをする。「……俺のっすよ。あれは俺の32Rです。」「そっか……じゃあアンタが、もみじライン"元"最速の、内山准で確定かァ……。」
煽っているような辻の発言に対し、ジュンは彼を睨みつけた。「……ま、そんなピリつくなよ。喧嘩ふっかけに来たわけじゃねーんだわ。
単刀直入に言わせてもらう。"お前とバトルがしたい"。」「……バトルぅ? 俺に?」辻は頷き、グラスに入ったコーヒーを一気に飲み干した。
だが、さっきまで苦いと言っていたブラックコーヒー。飲み干した瞬間、あからさまに不味そうな表情になる。
「ッッア゛ァ……そう。今夜11時、もみじラインの頂上の展望台で待つ。今夜じゃなくてもいい、予定なんていくらでも合わせてやる……どうだ?」
「何が目的なんだよ……辻?」端から話を聞いていた岡本が、辻に問う。「……プロになってから、色々学んだこともあるからな。それを峠に応用したいわけ。
そんで、その実力を存分に発揮したくてよ、久々に地元に帰ってきた。だが、速いのが全然いなくてよ……その中で一番速いヤツってのが、そこの内山准クンなんだとさ。」
「……煽ってんのか褒めてんのか分かんねーや。」ジュンは呆れながら、辻が飲み干して空いたグラスを受け取る。
「……今夜でいいのか?」「あぁ、今夜……11時にまた会おうぜ。じゃあな、内山准。君塚、帰るぜ。」
辻は席を立とうとするも、君塚のグラスには、まだ半分のコーヒーが残っていた。「そんなに急かさないでくださいよ。久しぶりに会えたんなら、もう少し話してけばいいじゃないですか。」
「……そう、だな。」辻は席に座り直し、岡本に話しかける。「じゃあ、お前何乗ってんだ?どこにあんだよ、お前の車。」
「20セルシオ。32の隣にある白いやつだ。」岡本は自分の車を指さし、辻はその指の先を追う。
窓の外には、白と白金のツートンカラーのトヨタ セルシオ 20系 前期型が、32Rの隣に停まっていた。
「セダン好きねぇ、お前。」「俺にだって家族は居るんだ。オレンとこの子供も乗るし、あーゆーのが一番いいんだ。その上V8だからな、トルクあるぜ?」
2人がこのような話をし続けて5分が経過し、いつの間にか君塚のグラスも、空になっていた。「ふぅ……ごちそうさまでした、岡本さん。今度は1人で来ますから。」
「そうか? 俺はいつでも誰とでも歓迎だぜ。」岡本は君塚のグラスを手に取り、ジュンに渡す。「じゃーな、岡もっちゃん。また来るぜ〜。」「おう、またな。」
辻と君塚は店を後にし、車に乗り込む。辻の乗る青いMR-Sは、ワイドボディのフルエアロ+GTウイングが取り付けられている上、
車高も段差をカスらないギリギリまで落としているために、ローアンドワイドが際立つスタイルだ。
そして何より、最も特徴的で、最も個性的なのは、やはりそのエンジンだろう。
辻がMR-Sのイグニッションキーを捻ると、店内にいたジュン達にも微かに重低音が聞こえた。ジュンがカフェの外に出ると、その音はより大きくなって、耳に響く。
「な、この音は……3S!」3S-GTE。SW20型MR2用のこのエンジンを、そのままMR-Sに移植している仕様なのだ。
チューニングも行なっていて、チタン製のマフラーから響くサウンドだけでも、そのチューニングのクオリティは計り知れないものだと、堂々と示している。
もちろん、これらはボディに大幅な改造を施した上でのチューニングであり、しかも公認車検も取得済み。
それはつまり、公道走行が可能な仕様であることを示すに等しい。レーシングカーさながらのボディに、レーシングカーさながらのエンジン。
ジュンは、この車が今夜のバトルで、自分の相手になるのか、という絶望感を感じた。
「じゃあな、32Rのルーキー。楽しみにしてるぜ。」辻がそう言うと、MR-Sは町のどこかへと走り去っていってしまった。
(アレがプロの車なんか。マジかよ、すげえ心臓バクバクする……興奮してきた。今夜が待ち遠しいぜ……32R。)ジュンは拳を強く握りしめる。
彼の脳内にあるのは、相手の車に対する絶望感よりも、愛車で出せる精一杯の本気で、車を走らせられるという、高揚感の方だった……。
愛車紹介第4弾。
辻祐介のMR-S。
カラーはブルーマイカ。
エアロはTRIAL社製 RECKLESSワイドボディフルエアロ。
3S-GTE換装仕様でおよそ300馬力を誇ります。
軽量な車体と相まって、その速さは恐ろしいものに……
髙木の愛車紹介は、って?
うっせえアイツぁいいんだよ!
なんてね、次回やります。
以上、あるとでした。




