#12 兄弟
あるとです。
昔からやってたレースゲーを
大体3ヶ月振りにまたやり始めました。
インテRやらGT-RやらS14やら、
色んなのに乗ってみて気づいたことが一つ。
ランエボが一番速いんすよね。
「4つの力で地面を蹴りつけるんや、
コーナーを前に立ち上がるこのトラクション、
速さを突き詰めれば4駆しかないで!」
やっぱこの言葉正しいんですね。
「ありがとうございました〜……ふぅ。」「お疲れェ〜。どうだった、初めての仕事?」閉店時間になり、静かになった夜中のカフェ。
レジ打ちを担当することになった九条は、彼女にとっては久しぶりのフルタイム出勤に、疲れ果てていた。
その様子をずっと見ていた岡本は、彼女にアイスコーヒーを渡す。「賄いみたいなもんだよ。」「あ、ありがとうございます。」
九条は岡本から受け取った、グラスに入ったコーヒーを一口啜る。「……久しぶりのフルですからね。やっぱり疲れました。けど、明日はお休みもらってるので!」
笑顔で岡本と話を進める九条。そこに、着替えを終えて帰ろうとしていたジュンが現れる。「じゃ、お疲れ〜す。」「ん、お疲れ。」「お疲れ様でした。」
ドアを開けてカフェを出ていくジュン。駐車場に停めていた32Rの方へと向かっていった。「……車持ってるんですね、ジュンくん。」
九条は、32Rの中で何かをしているジュンを見て、呟いた。「ん、あぁ……あれね。高校出てから俺んとこに転がり込んできて、フルでバイト続けて19の時に買ったんだと。
ずっと"夢"だったらしい、あの車。」「へぇ……あ、じゃあそろそろ着替えて帰りますね、店長。」九条は、たまたま目に入った掛け時計の時間を見て、すぐに更衣室へと向かった。
(……夢か。俺の夢なんて、もう忘れちまったな。ま、こうやって起業したんだ、何も悔いなんてないって、俺。)
岡本は、自分に言い聞かせるように、心の中でそう考えた。少し時間が経ち、九条が更衣室から戻ってきた。
窓の外を見ると、ジュンの32Rがまだ、駐車場に置いてあった。「……あれ、ジュンくんまだ帰ってないんですね。どうしたんだろう……?」
車から出てきたジュンが、ボンネットの上に寝そべる。「……ホントに何やってんだろ。」「さぁな。気になるなら自分で聞きに行けよ。
俺もそろそろ、帰るとするか。あ〜眠ィ。」岡本はジュンの奇行を気にも留めず、閉店作業を片付けていった。
「じゃ、また明後日。電気だけ頼むわ。」「あ、はい、お疲れ様でした……。」軽く挨拶を交わし、岡本はカフェを出ていった。
(……店長、ジュンさんがこういう事やってるの、なんで気にしないんだろ……聞いてみよう。)電気を消し、カフェを出た九条。
彼女は真っ先に、ジュンの元へと向かった。「……アレ、なんていうんだっけ。夏の大三角……だったかな。」
一人呟きながら、満天の星空を眺めるジュン。ボンネットが冷え、背中が涼しく感じる気が、微かにしていた。
「……何してるの?」ジュンの目線に、九条の顔が映り込む。「ん、桜……先輩。俺、たま〜にこうやって、星空を眺めるんです。
嫌な事全部、頭ン中空っぽにして忘れて、ただ空を眺めるんすよ。ただ、それだけ。」「そうなんだ……。」
ジュンはボンネットから起き上がり、32Rのフロントバンパーを見つめる。「そういや、店長から話聞きました?俺、"ここ"で暮らしてるんすよ。」
「……え?」ジュンの突然のカミングアウトに、驚く他ない九条。「この車で車中泊……もう何年続けてっかな。何年か前に家出したんすよ、俺──」
ジュンは、1歳差の弟と母と共に、3人暮らしの生活を過ごしていた。
ジュンは弟が大好きで、よく遊びに連れていくほど仲もよかった。それに加えて弟は、高校では学年トップと言われていたくらい、頭もよかった。
国立大学への受験を見据えている弟の勉強の為にも、ジュンは弟と遊ぶのを控えるようになり、休みのときはいつもガレージに籠って車をイジっていた。
母は、そんなジュンと弟をいつも比べていた。出来の悪い兄が、母の気に食わなかったのだろう。家族の集まりでも、よくその話になる。
ジュンが高校を卒業し、岡本のカフェの正社員になってから半月と2ヶ月、年が明け正月がやってきた。
家族で親戚の家へと集まる際、ジュンはこの時もGT-Rを連れて親戚の家に向かった。ジュンは親戚の子供には人気だったが、大人たちは彼をよく思っていなかった。
弟の出来の良さに漬け込んで、大人たちはジュンをどんどん下げていく。「弟の方は頭がいい。国立大への推薦入試の予定も入っている。」「それに比べて兄の方は……」
こういう扱いはいつもだった。走り屋をやっていることもあり、確かに良く言われる理由は無かった。
だがこの時に我慢の限界が来たのか、ジュンの心で何かがプツリと切れる音がした。
『みっともねえ大人だな。俺だって必死に生きてんのに、人に気ィ使って生きてんのに、それを侮辱すんじゃねぇ。』
ずっと受けてきた扱いに対する思いをぶつけ、家を飛び出すジュン。弟の制止も聞かず、ジュンは逃げるように車に乗り込み、どこかへと消えていってしまった。
ジュンは行く先も分からず、とりあえず岡本のカフェの駐車場に車を置いた。その時タイミングよく、岡本がカフェに顔を出しに現れた。
ジュンはあった出来事を全て、岡本に話した。何も持たずに家を出て、行く先もない。そこで、岡本はある提案をする。
『今晩を丸々使ってよく考えろ。もし、お前が本当に家に帰りたくないのなら、ここで暮らさせてやる。その時は、寝床は自分で用意しろ。』
その晩から朝にかけて、ジュンはもみじラインを攻めながら考えた。帰りたくない。ずっと走り続けていたい。このまま、気の済むまで──
「そうして、今は駐車場の一角で車中泊暮らし。案外中広くて、寝やすいんですよね。」「……そうだったんだ……。」
そんな思いを寄せながら、32Rのバンパーをさするジュン。彼の背負ってきた、積み上げてきた様々な思いが、この車に籠もっているんだと、九条は実感する。
「……さ、昔話ももう終わりっすよ。俺ァもう寝ます。それか……一緒に寝ます?」ジュンは立ち上がり、トランクに積まれたブランケットを取り出す。
初日に聞く職場の先輩の話にしては、少し重すぎる。自分の苦い過去の話をした上で、気にせずケロッとしているジュンを見て、九条は彼が心配になる。
自分の思いを押し殺して、自分の暮らしに制限をかけた。軽口を叩くのも、自分の辛い気持ちを紛らわす為なのではないのか。
様々な考えが頭をよぎり、胸が締め付けられているような感覚の中、九条はジュンに問いかける。
「……本当は、辛いんじゃないの。大好きな弟に会えなくて……自分に気を遣えなくて! その軽口も、全部……!」
ジュンの動きが少し止まった。そしてすぐトランクを下ろし、彼女の問いに答えた。
「……辛いっすよ。でも、映画のセリフでこんなのがあったんです。"この道を行くと決めたのなら、振り返るな。ただ前を見て、進み続けろ。"ってね。
軽口の件は、先輩の考えで当たってます。気の紛らわしっすよ。そうしないとやってらんないっすから。」
また軽口を叩くジュン。だが彼女には、ジュンのそれが軽口には聞こえなかった。ジュンの"心の底からの思い"を、彼は話しているように聞こえた。
だがジュンがそう言っても、九条の心配は消えない。自分が心配性というのもあるだろうが、目の前で辛い気持ちを押し殺して生きる人間を、見たくないという気持ちが一番だった。
彼を支えたい、彼に寄り添いたい。そういった気持ちを抱え、唇を震わせながら、九条はジュンの作業を眺めていた。
「……嘘だ。ただの軽口で、そんな辛い気持ちが紛らわされるわけないよ……! 優しすぎるんだよ、ジュンくん……ッ!」心からの叫びが、不意に口に出てしまった。
それでもジュンは、トランクに付けられたGT-Rのエンブレムを見つめていた。そして、ジュンも口を開く。
「……言ったじゃないですか、過去を振り返らないって。俺、大好きなんですよ。このRのエンブレムに込めた俺の意思が、俺の夢を運んでくれる。
俺は俺の思うように、俺だけの道を進むって決めたんです。コイツと……32Rと一緒に……。」
ある日の深夜。もみじラインを、1台の青いMR-Sが攻め込んでいた。その車は、麓の駐車場にいた、1台の白いバンの前で止まった。
「……どうだった?」MR-Sから男が出てくると、バンの前で待っていた男がストップウォッチとクリップボードを抱えながら、走り屋の男の方へと向かった。
「一応、コースレコードは軽く5秒以上は更新できてます……が、どうします?まだ何本か走って、カラダ慣らしておきますか?」
「あぁ、そうする。それと悪いが、水を一本寄越してくれ。」走り屋の男に応えるように、男がペットボトルの水を放り投げ、走り屋の男は、それをキャッチした。
「……ッハァ。」ペットボトルの半分まで一気に飲み、口を腕で拭う。
(久しぶりに戻ってきて、俺の記録が更新されたと思ったら……雑魚ばっかで萎えるぜ。記録だって、どうせ他ン所のちょ〜っと腕のいい走り屋だろうな。
クソ……何も面白くねえ。もっと腕のいいヤツァいねえのかよ……?)
走り屋の男はそう心の中で愚痴をこぼしながら、クリップボードの男のファイルを覗いた。「ん……なにこれ。」
「あなたのMR-Sのエンジンのアクセルとブレーキの開度データです。これを参考に、少しアクセル踏んづけるタイミングを調整してみると、いいかもしれませんね。」
クリップボードの男は走り屋の男に、アクセル/ブレーキ開度に関するデータの記載された資料を渡し、読むように促した。
「あ、思い出した。そういえば、このコースのレコードはGT-Rなんですってね。ガングレーの32R。名前は、確か"内山 准"。」
「32だとォ? ハッ、バカ言ってんじゃねえよ。まずGT-Rを峠に持ってくんのがおかしいって話だぜ。そりゃ堕ちるわけだ、走り屋の奴らもな……じゃ、もう一本行ってくるわ。」
走り屋の男はそう言うと、ペットボトルを預けて車に戻り、峠を上がっていった。「えぇ、気をつけてくださいね……辻さん……!」
最後に出てきた2人の男以外にも、
仲間の内の何人かが
もみじラインの各所に配置されています。
車の方には、データを取るための様々な配線が
車の中に張り巡らされています。
こういうバリバリ検査中みたいな雰囲気の
チューンドカーが好きなんですねえ私。
以上、あるとでした。




