#11 長い長い夜の一時
あるとです。
最近昼ぐらいの時間まで寝ることが多いです。
朝に一度目は覚ますのですが、
不可抗力で二度寝に入ってしまいます。
すると数時間があっという間にパーに……
多分失神してるんじゃないですかね(笑)
「……リーダー。」
もみじラインの頂上にある、富士見台展望台パーキングエリア。雨の降る中、ジュンと香取の2人に負けた髙木は、傘も差さず、ただ愛車のレビンのボンネットに座り込んでいた。
「……約束は守る。これからは、お前の好きにしたらいい……。だが、分かってるだろう?
俺はこれから、お前に対するパーツやガス代の供給を断つ事になる。お前は、俺らとは違う人間になるんだからな……。」
レビンと共に雨に濡れ、髙木の服の色が濃くなっていく。そして暗い表情のまま、彼は香取を見つめて、そう尋ねた。
「ええ、分かってます。Candies Strikeからの離脱は、そういう事を表すんだって、ちゃんと。」
「そうか、なら……いい。俺はお前がチームから抜けても、お前を目標にし続けるつもりだ。それは多分、メンバーたちもそうだろう。
それに関しては、お前は気にしなくていい。俺たちの間だけで勝手にやってる事に済ませるさ……。」
俯きながら、雨に打たれる髙木。端から2人の様子を見ていたジュンは、自分が差していた傘を髙木に差し伸べた。
「……傘、いる?」ジュンは、雨に濡れて寒そうにする髙木が心配だった。差し伸べているせいで、ジュンの背中に雨水が当たる。
「いや……いいさ、わざわざ心配してくれなくても。差す気力もない。」髙木はジュンの傘を受け取らず、彼の拳を掌で押し戻した。「……そう。」
ジュンは拳を引き戻した。それでも、髙木の様子が心配なのに変わりはなかった。「お前は"優しい"んだな、誰に対しても。」
「はァ?」髙木のその呟きに、ジュンは少し引っかかる。
「うるせえだけのバカな走り屋かと思ったが……どうやら、それは全部お前にある優しさが引き出してるものらしい。
尊敬するよ。そういう心意気が、案外速さにつながってたりしてな。実際、関係ないだろうが……。」
「余計なのが何個かついてきた気もするが……バカってのは認める。ある程度バカやってなきゃ、走り屋やってらんねェからよ。
それに、バトル終わりの相手を心配すんのは、走り屋として当然だろ。」
そう話している内に、雨の音が段々と弱くなっていった。晴れ間も見え、月明かりが見え始める。今日は満月だった。
「ん……雨、止んだな。月が雲の隙間から見え隠れしてんのがよく分かる。」ジュンは手を出した後、傘を閉じる。
「……"内山准"。お前とのバトルで、自分を過信しすぎていたことに気づけた。感謝するぜ。」
「やっと名前で呼んでくれたな。それと、いい加減に車ん中入りなよ……そろそろ解散だ。」
ジュンは閉じた傘を後部座席の床に置き、そのまま車に乗ろうとする。「じゃあな、2人とも……今日は楽しかったぜ。」
ドアを閉じ、少しシートに座って頭を空っぽにする。数秒後、ジュンはキーを差し、捻る。すると、ガコッという音を出しながら、車体が一瞬揺れた。
「……アイツ、今エンストさせたな。」「ですね。」ジュンは焦って、すぐにキーを捻り直して再びエンジンをかける。
そしてそのまま、逃げるように暗く濡れたもみじラインを下っていった。「バカの自覚は、バカの証拠なのか、天才の証拠なのか……どっちなんでしょうね?」
「さぁな……ただアイツは、本当にバカらしいな。さ、俺たちも帰るぞ。撤収だ!」
髙木は指を回しながら、車の中に戻る。そして、もみじラインに来ている仲間全員に、撤収の連絡をした。
それを見ていた香取は、少し寂しそうな表情を見せる。自分がチームを抜けたことで、彼らとの距離が遠くなったような気がした。
それでも、自分の選択に後悔してる暇なんてない。速さを突き詰める為にも、これは必要な選択だと、香取は信じ続ける。
(じゃあな、香取。お前は俺の、俺たちのヒーローなんだ。そこらでくたばってんじゃねーぞ……!)
髙木はレビンのエンジンをかけ、ゆったりと動き出した。それに続き、チームのメンバー達も髙木の後を追い、日光へと帰っていった。
パーキングに一人残された香取。「……今日の夜は、なんか長く感じる。月がまだてっぺんにも昇ってないのに、気分はもう3時ごろだ。
今の時間、どっか牛丼屋でもやってるかな……お腹、空いた。」そう呟き、香取もワンビアに乗り込み、"どこか"へと車を走らせていく。
香取は車を走らせながら、窓の外を見る。薄暗い夜の峠が、雲の隙間から見える月明かりで照らされる。
今日の月は香取にとって、人生で一番綺麗に見えたような、そんな気がしたのだった……。
「バイト……すか?」「そ。今日の9時に来るからな。」翌朝。開店2時間前のカフェで、岡本とジュンが話していた。
「ツーオペはキツかったからな。フルで働いてくれるのはありがてぇもんだ。」「っすよね。いくら町の外れにあるとはいえ……なにせ、峠の麓だし。秋とかは地獄っすから。」
秋のもみじラインは、紅葉のスポットとして人気の観光地。立地の関係もあり、カフェが観光客で溢れかえる事もザラにあった。
だが、そのおかげで秋の売り上げは上々。秋シーズンの支えによって、なんとかカフェの経営を続けられているともいえる。
「で、昨日2人とやり合ったんだって?」岡本は、昨晩のもみじラインでのバトルの話題を持ちかける。
「勝ったんだよな?」「もちろんっすよ。ただ……ちーっと空気が重かったな、と。」昨晩での出来事をフラッシュバックさせるジュン。
Candies Strikeと香取の直接的な関係は、昨夜を境に大きく変わってしまったその主な原因は、ジュンにもあった。「そうか……ならいい。」「ちょっと、トイレ行ってきます。」
ジュンが席を外し、岡本は1人カウンターに残る。(アイツ、昨日は走り込んだろうからな。あとで32のタイヤの減り具合でも見てみるか。)
すると、ドアに掛けられているベルの音が鳴る。「ん……随分早いじゃないか。まだ時間まで30分もあるってのに……。」
「戻りやした〜。」ジュンがあくびしながら、カウンターへと戻ってきた。「お、帰ってきたか。来たぞバイトの子!」
意気揚々としている岡本の様子に、ジュンは戸惑いを見せる。「え、早くないすか?だってまだあと……それになんでそんな嬉しそうにしてるんすか?
というか、バイトの人のこと、俺さっき聞いた話しか聞いてないっすよ?」聞きたいことが山ほどあるジュンを、岡本は抑える。
「まぁ、今バイトは着替えさせてるから、それが終わって挨拶させる時に、色々話でもしよう。」岡本は視線を更衣室のある奥へと向ける。
ジュンも奥へと視線を向けた。誰が来るんだろうと、ジュンはドキドキしながらその時を待った。
「……終わりました〜!」店の奥から女性の声が聞こえてきた。「おう。じゃ、こっち来てくれ。」返事を返す岡本。
ジュンを見つめ、眉を上げ下げする。「……なんすか?」「いや、別にィ?」カツカツと近づいてくる足音。
店の奥からエプロン姿の女性がヒョコッと顔を出し、ジュンの目の前に現れる。(な、すっげぇ美人なコだ……ッ!)
ジュンの目には到底余るほど、その女性のサラサラとした髪、ツヤツヤの頬、キラキラの眼に圧倒される。
言えば、おとぎ話に出てくるお姫様のような印象。ジュンはあまりの衝撃に、身体が固まってしまった。
「に、似合って……ますか?」「バッチリだ。ジュン、紹介するよ。ウチにバイトで入ってきた、九条 桜ちゃんだ。」
「よ、よろしくお願いします……!」ジュンは依然として、固まったまま。「……いつまで固まってんだヨ。」
「あ、あぁ。よろしく……。」岡本の呼びかけで目を覚ましたジュンは、すぐに頭を下げて挨拶を交わした。
「あー、一応言っとくぞジュン。お前この子に対しても敬語な。桜ちゃんはコイツにはタメ口でいいよ。」岡本は腕を組みながら、突然ジュンにそう告げた。
「……え?」「な、なんでなんすか!?」ジュンも桜も、どちらも岡本の突然の宣告に困惑した。
「だって……お前ら同じ高校の、先輩と後輩の関係なんだからな。」『……えぇぇっ!?』2人は顔を見合わせた後に、同時に声を上げた。
「だ・か・ら……それを早く言ってって言ってるんすよ!なんつー時にカミングアウトしてるんすか店長!
あの人にチョー失礼なことしちゃった気分ですよ、俺ァ!」
岡本の胸ぐらを掴みながら、彼を問い詰めるジュン。岡本は目を逸らしたまま、話を続けた。
「だって、職場だからって同じ高校の先輩にタメはねぇだろーがよ?それに後々、"桜せんぱ〜い♡"とか、言うんだろうな、って思うと……くくッ。」
「変な妄想して吹いてんじゃねェッ!」言い争いをしている2人の端で、一人顔を赤くていた桜が一言、恥ずかしそうに呟いた。
「その……ジュンさん。私は、先輩呼びされると、久しぶりな感じがして、ちょっと嬉しいかも……な。」
ジュンの脳内に電流が走る。彼にとって、その時見せた桜の表情や照れ方が、ジュンのココロに強く引っかかった。
「……桜、先輩。で、いいんすか。呼び方?」「……ふふっ。本当、こう呼ばれるの久しぶりな感じ。」
2人の仲が良くなっていくこの状況を、岡本は見守っていた。(なんだかんだ、すぐに受け入れるんだな、2人とも。……このカフェの未来も明るいぜ。)
一息ついて、岡本は手を叩いた。「っしゃ、仲良くなんのも程々にして、開店作業始めるぞ2人とも。」
カフェの未来は明るくなる。岡本は確信しながら、カフェを開ける準備を始めるのだった……。
今回でCandies Strike編は完全におしまいです。
そして次回予告になりますが、
次のお話で少しジュンくんの
過去に関する出来事を書きたいと思います。
キャラの深みは過去編によって作られる!
これが間違いじゃないといいんですが。
以上、あるとでした。




