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私、夢見ました。  作者: 夕暮れの家


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14/15

能力が欲しいか?

 その夜、俺はホテルを探していた。


 知らない街だった。


 時刻はもう遅い。


 街灯に照らされた夜道を歩きながら、スマホの地図を確認する。


「……ホテル、どこだよ」


 何軒か候補は表示されている。


 なのに、なぜだろう。


 妙に胸騒ぎがする。


 ――まずい。


 そう思った瞬間だった。


 俺は反射的に、道端の物陰へと身を滑り込ませた。


 理由は分からない。


 ただ、ここにいたら駄目だ。


 そんな根拠のない確信だけがあった。


 そして――


 轟音が夜の街を揺らした。


「……え?」


 遠くから何かが突っ込んでくる。


 次の瞬間、電車が横転した。


 ありえない。


 線路から外れた電車が、まるで巨大な鉄の箱を投げ捨てたように道路脇へ倒れ込む。


 そして、静寂。


 何が起きたのか理解できないまま、俺は息を殺した。


 やがて、横転した電車の扉が開く。


 中から人が降りてきた。


 全員、黒いスーツを着ていた。


「……なんだ、あいつら」


 怖かった。


 理由なんて分からない。


 ただ、あの人たちに見つかってはいけない。


 そう思った。


 俺は走った。


 駐車場まで逃げ、一台の車の陰に身を伏せる。


 息を殺す。


 足音が近づいてくる。


 ……来る。


 来る。


 来る――。


 そのときだった。


「……あれ?」


 車の持ち主らしい女性が戻ってきた。


 俺と目が合う。


「あの……」


 人差し指を口元に当てる。


 頼む。


 何も言わないでくれ。


 そんな俺の願いとは裏腹に、女性は黒いスーツの集団へ向かって歩いていった。


 そして――


 俺のいる方向を指差した。


「……嘘だろ」


 見つかった。


 黒いスーツの男たちが、一斉にこちらを向く。


 ――逃げなきゃ。


 そう思った瞬間。


 世界が切り替わった。


 ◇


「いらっしゃいませ」


 俺はホテルのフロントに立っていた。


「……え?」


 さっきまで駐車場にいたはずなのに。


 目の前には、何事もなかったかのようにホテルの受付がある。


 フロントの女性が微笑んでいる。


「お手続きはこちらでよろしいでしょうか?」


「あ、はい……」


 どうやら俺はホテルに泊まるための手続きをしているらしい。


 ただ、その手続きはほとんど代理人に任せていた。


 俺自身は何もしていない。


 名前も、住所も、その他の面倒なことも。


 全部、人に任せていた。


 するとフロントの女性が、少しだけ困ったように笑った。


「人に任せることは、決して悪いことではありません」


「……はい」


「ですが」


 女性はカウンターの上に、一台の端末を置いた。


「これは、ご自身でやったほうがいいでしょう」


「これを……?」


「はい」


 俺は端末を受け取った。


 画面に文字が表示される。


 そこには、信じられないことが書かれていた。


『過呼吸になればなるほど、能力が与えられます』


「…………」


 意味が分からない。


 けれど、夢の中では不思議と納得できた。


 なるほど。


 そういうシステムなのか。


 俺は端末を操作し始めた。


 そして――過呼吸になった。


「はっ……はっ……はぁっ……!」


 息を吸う。


 吐く。


 また吸う。


 もっと。


 もっとだ。


 過呼吸になればなるほど、能力が貰える。


 ならば、限界までやるしかない。


「はぁっ……! はぁっ……!」


 周囲から視線を感じる。


 笑っている人もいる。


 ドン引きしている人もいる。


 けれど、そんなことはどうでもよかった。


 俺には目的がある。


 能力が欲しい。


 ただ、それだけだった。


 タッチパネルに表示された数字が上昇していく。


 10。


 50。


 100。


 500。


 1000――。


「すごい……!」


 数字が増えていく。


 こんなにも能力が貰えるのか。


 俺はワクワクしていた。


 もっとだ。


 もっと増やせ。


 まだいける。


「はぁっ……! はぁっ……!」


 しかし。


 画面の隅に表示されていた制限時間が、急速に減っていく。


 残り30秒。


 20秒。


 10秒――。


「まずい!」


 もし時間内に操作を終えられなければ。


 ここまで積み上げた数字が、全部パアになる。


「あと少し……!」


 指を動かす。


 息を荒げる。


 数字がさらに上がる。


 残り5秒。


 4。


 3。


「くっ……!」


 2。


 1――。


 俺は最後の操作を終えた。


 そして、画面中央に現れた。


 ――送信。


 これを押せば確定する。


 ここまで積み上げた能力が、すべて俺のものになる。


「……いける!」


 指を伸ばす。


 そして――


 押した。


『勝つことはいいことですが、勝ってほしくありませんでした』


「…………え?」


 画面に表示された、その一文。


 意味が分からない。


 勝つことは、いいこと。


 なのに。


 勝ってほしくなかった?


 だったら俺は――


 何に勝ったんだ?


 そもそも。


 俺が手に入れた、この能力は――


「……貰えるのか?」


 誰に問いかけるでもなく、俺は呟いた。


 画面には何も表示されない。


 ただ、最後に一つだけ。


 赤い文字が浮かび上がった。


『あなたは、勝ってしまいました』


 ――そこで、目が覚めた。


お読みいただきありがとうございます(*´ω`*)

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