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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる  作者: 桃月 とと
第二章 師匠の墓はどこ?

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第24話 水と火と金と

「次はどこに行くんだ?」

「マグヌス屋敷の跡地かな」

「エピソードにはことかかなさそ~」


 大通りを歩きながら、メルディは先ほどの晴れやかな表情から一変、ちょっと苦々しい顔になっていた。

 ユーリの言う通り、メルディが師と共に暮らしていた屋敷には数多くの思い出がある。いったいどの思い出が反映されているのか……今回、循環がキーワードだとすると周る順番は重要だ。だがメルディは迷うことなくマグヌス屋敷に足を進める。師との思い出を時系列で辿った時、ちょうどいいエピソードがそこにあったのだ。


(師匠ならあの時の()()()を選びそう……)


 師の人となりを考えると、この予想は当たりだろうと彼女の中に妙な自信がわいている。

 今は公園になっているマグヌスの屋敷の跡地には池があった。千年前から同じ場所にはあるが、現在は安全のために柵で囲まれ整備されている。人は見当たらず、石畳を歩く三人の小さな足音だけが聞えた。

 ふぅ……と、池に近付いたメルディが息を洩らす。


「おぉ!」


 ユーリが感動の声を上げた。ケオンと同じように、メルディの足元に魔法陣が浮かびあがり、手に持っていた鍵がゆっくり変化する。少し大きくなったのだ。


「うまくいったな」

「そうだね」


 今回は喜ぶ風ではなく、なにやら反応に困っている様子のメルディを見て、エリオは首を傾げた。メルディからすると、予想が当たった瞬間ではあるのだが……。


(やっぱりアノ思い出を選んでたか~)


 そう、この池にはメルディにとって苦い思い出があるのだ。


「それでそれで! ここにはどんなエピソードが?」


 ユーリが興味津々に尋ねても、メルディはモゴモゴと口ごもるだけだった。だが、


「おい! 池が……!」

「えぇぇ~」


 困惑したメルディの目の前で、水面がゆっくりと円を描き始める。そうして、まるで映画のように映像が映し出された。


「小さなメルディ! 可愛いねぇ!」


 メルディが顔を赤くしたのは、ユーリが『可愛い』と言ったからではない。どうやって止めるかもわからないその水面には、幼いメルディが意気揚々と初めて錬金術で作った小瓶を持っている姿が映っていたのだ。自信満々、ちょっと生意気そうな笑顔を浮かべている。


(こんなにドヤ顔してたっけ……?)


 薄目でその映像を見ながらメルディは頭を抱えていた。水面に映る小さなメルディが小瓶の中身を池に流しいれている。すると……、


「うわぁ! なになに!?」

「水が……! ヘドロ……!?」


 池の水がまたも渦を巻き黒く濁ってしまった。まるでヘドロのようにドロドロになっている。ただし、映像でだ。

 

「これ……」


 どうなっちゃったの? とユーリが尋ねるも、


「……もう少ししたら元に戻ると思う」


 メルディの言う通り、数十秒後には池は綺麗な水へと戻った。水面には大爆笑するマグヌスが映し出されている。そして、年齢相応にムッとしている小さなメルディも。ユーリもエリオもこんな表情のメルディは見たことがない。


「なるほど。これが思い出か」


 小さく笑いながらエリオが名残惜しそうに水面から目を離した。すでに映像は消え去り、全てが元通りになっている。


「そう……初めての大失敗……」


 それまでメルディはたいした失敗もなくマグヌスから学んでいた。マグヌスの弟子としての自分に慣れ、魔術や錬金術を学び、どれも上手くいっていたので、幼いなりの虚栄心も生まれていた。


「この時期、万能感みたいなのがあったんだよね……路上生活から魔法使い見習いになって、どんどんできることが増えて……錬金術って失敗の仕方によってはとんでもないことになるからさ。慢心は禁止だったんだけど……」

「メルディにもそんな時代があったんだねぇ」


 微笑ましいなとユーリもエリオも柔らかな表情になっている。

 この時メルディが作っていたのは『浄化薬』。本来なら池の水は人間が安全に飲めるようなるはずだった。だが結果は真逆。マグヌスは失敗しても一切叱ることはなく、ひとしきり大笑いした後、


『ヘドロを飲み水に変える浄化薬を作ること!』


 という指示を出し、幼いメルディを狼狽えさせたのだった。どう考えても難易度が高い。兄弟子達からは同情の視線を送られた。

 だがもちろんメルディはそれを成し遂げた。マグヌスによってわざわざ作られたヘドロの池が、見事に美しい池に変わった時……なによりマグヌスの満足そうな表情を見て、メルディは素直に喜んだのだった。


 次に向かったのは、お馴染みのキルケ博物館。元々はキルケ領主の屋敷だった。


「これは前に聞いたやつ!」

「そう。師匠が他所の魔術師と喧嘩して領主様のお屋敷を燃やしちゃったので、弟子総出で半泣きになりながら消火したやつっ!」


 実際のところ直接燃やしたのは相手の魔術師なのだが、マグヌスが煽りに煽った結果そうなったので、メルディ達にするとあまり変わりはなかった。


(あれは師匠が相手が爆発してやらかすよう仕向けてたしな……)


 というのが、間近でその喧嘩の様子を見ていた弟子達が共通で抱いた感想だった。

 幸い、喧嘩が始まった時点で屋敷中の人間は避難していたので怪我人はいなかったが、当時は大ニュースとなった。千年後にも記録が残るほどの。


「まあでも、お陰で千年後に不法侵入しなくてすんだということで……」


 博物館周辺は街灯も多く、パラパラと人気(ひとけ)がある。燃えてしまった部分は一部を除きそのまま取り壊されていたので、例の大事件があったエリアは閉館後も近づくことができた。


「このあたりかな?」


 博物館のはずれ、今はベンチや銅像の置かれた広場になっている場所で、コツンとメルディが足を揃えた。同時に足元に魔法陣が現れ、鍵がまた姿を変える。


「見て!」


 鍵を掲げ、ユーリとエリオに先端部分が細かく変化した部分を見せる。


「かなり変わってきたな」

「ミスティリオンの入り口の鍵ってこと?」

「そうだと思う」


 とんでもないことになった……! と、燃え盛る炎を前に半泣きで消火する弟子達の映像が出てくることもなく、目の前の銅像(メルディの知らない人物だ)は凛々しい顔のまま動くこともなかった。


「よし! 次は宝飾通り!」


 現代では宝飾店だけでなく、バルや土産屋も並んでいる通りだ。メルディは今はないその店で、彼女の指に嵌めてある指輪を手に入れた。

 この魔法使い達が使う特別な――あらゆるアイテムを収納できる――宝飾品は、彼らにとってもとても貴重なものだった。


「これが魔法使いが作った最初の魔道具って言われてるんだよね! ……知ってるだろうけど!」


 専門家を前にして、ちょっぴり言いよどむメルディ。だがユーリは、


「とんでもない! メルディの口から当時の話を聞けるのがどれだけ貴重でありがたいことか!」


 真顔で答えた。生き証人が話を躊躇うようなことを彼は一切する気はない。


「俺も助かってるぞ。気にせず解説よろしく」


 エリオもユーリに賛同するように頷いていた。


「……この魔石を見つけたのは、本当に偶然の偶然だったの」


 目的地に向かいながら、メルディは自分の指輪の思い出を話すことにした。はめ込まれた魔石が街灯に照らされキラキラと光っている。


「たまたまその店に錬金薬の依頼品を納入しに行って見つけたんだよね。この石……」


 魔法使いが使う特別な宝飾品にするためには、魔石を特殊加工し、持ち主の魔力のみ通すようにする必要があった。


「どの魔石でも使えるってわけじゃないんだよね?」

「そう。自分だけの魔石を見つける必要があるの」


 石自体に持ち主との相性があり、運と行動力がなければ見つけるのは難しいとされていた。だから自分と合う魔石を見つけたら必ずその場で手に入れる! というのが魔法使い達の常識だったのだ。


「それって何もしなくてもわかるもんなのか?」

「わかるの! 私もビックリしちゃった!」


 普通はそんなことはない。だが、波長のあう魔石は確かに自分を呼んでいるようにメルディは感じた。


「師匠のは河原で拾ったらしんだけど、私は宝飾店にあったやつだから買わなきゃいけなくってさ~」


 メルディはこの頃、自分で狩った魔獣の素材を売って、ある程度自由になる金銭を持っていた。しかし、今メルディの指で光っている魔石は、それでは到底足りない金額で販売されていたのだ。


「それでそれで?」


 ユーリが早く早くと話を急かす。これほど興味津々でいてくれるとメルディも話しやすい。


「師匠が買ってくれたの」

「え! 失礼かもしれないけど意外!!」


 目を見開いて驚いていたユーリと、


「……見返りなしでか?」


 明らかに”その代わり”があったんじゃないかと予想を付けているエリオ。


「見返りっていうか……私がこの指輪を持ってたら素材採取に行かせやすいと思ったみたい……」

「なるほど」


 やはり思惑はあったかと男子二人は納得していた。


(まあ……石だけじゃなくて指輪の土台の部分も一緒に買ってくれたんだけど)


 土台はそれこそ自分で作ることも出来た。メルディは魔具術も学んでいたので、形や見た目のクオリティにこだわらなければ安価に済ますことも可能だ。別にわざわざ高い金を払って宝飾店に依頼する必要もない。しかしこの時、


『さっきからじーっと見てるその指輪に似せて作ってもらえばいいさ』


 マグヌスが驚くほどアッサリとそう言った。弟子を甘やかすような師でないことはメルディはよくわかっていたので驚いたが、どうしてもその美しい細工が施された指輪への憧れがあり、ありがたく買ってもらうことにしたのだ。


(生きるのに不必要な物が欲しいって思ったの、初めてだったかも)


 だからこそ記憶が鮮明に残っている。とても……とても嬉しかったのだ。このことはなんだか照れくさくて、メルディは二人には言えないでいる。


「このバル?」

「うん」


 思い出の宝飾店の跡地には賑やかなバルが建っていた。明るい笑い声が店の外へと漏れている。

 ここでもやはり、魔法陣と共に鍵が変化した。軸の部分が細長くなっている。


「次で最後ね」


 マグヌスの思い出と共に、一番弟子は『メルディの木』のある丘へと向かって歩き出した。


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