部活と予定と後輩ちゃん
何の変哲もない土曜日。
珍しく朝から予定がない日だったので午前シフトでバイトをしながらひと月ほど先の予定を立てて唸る。
「なにやってんだ重音深」
「げ店長」
普段レジに出てこない店長…無駄に体のでかい熊というかマッチョというか、とにかくガタイがでかい人が珍しく段ボールを抱えて裏から出てくる。
「人を見るなりそれはやめろ。後これ新刊な、棚のなくなったら補充しとけ」
「わかりました」
店長はそのままレジ横に段ボールを置いて事務所へ戻っていくのかと思ったが、意外なことにそのままパイプ椅子に座ってレジで在庫を確認し始めた。
「珍しいですね。いつもなら事務所のパソコンで確認するでしょ」
「あのパソコン壊れたからな。まあ7年ずっと使ってたし買い替え時だな」
「んなことよりも重音深はなんだ。悩み事か」
唸っていたのは完全に見られていたらしい。
「就職先どうしようかなと」
「うちは?」
「保留で」
バイト先で正社員になるのも心情的には悪くはないし常連客とも雑談することもあるような期間勤めているから新しい仕事以外はすぐできるだろうし。
「んまあ……ちゃんと新しい人と関われるようにしときたいですし、求人あればですけど総合職で色々経験しときたいんで」
「真面目だなあ、俺が高校生の時なんか殴って殴られてだったぞ」
「不良校じゃないですようちの高校」
あんたの熊みてえなガタイはそこから来てたのか。
「うちは給料も福利厚生もいいぞ?おまけに美人な看板娘もいる」
「うちの彼女を勝手に看板娘にしないでください」
店長から身内判定されている奈恵だが、もちろん従業員ではない。
ただ僕がいる日に遊びに来ているだけだ。
いやまあ、奈恵がいる日は客が増える。
ナンパもあるが店長曰く『人の恋愛で飯食ってる常連』がいるらしく僕と奈恵の会話目的で来る人もいるようだ。
まあ美少女が居たら気になって入るよな。理解できる。
しかしナンパは許さん。彼氏の前でナンパとはいい度胸である。
「おい重音深。客」
「あっはい、すみません」
入店音にも気づかず夢中になっていたらしく、店長に注意されてようやく人影に気づく。
「ほんとすみません」
「いいですいいです。彼女さんのことでも考えてたんですか?」
「いやー、まぁ……ん?」
「えへへ」
レジ前には新刊を持った奈恵がいた。
ついでに常連のおばちゃんも。
「……791円です」
「はい」
二人ににまにまとした顔を向けられながら会計を進める。
「相変わらず仲良しねぇ奈恵ちゃん」
「はい。仲良しです」
キャッキャッと擬音が付きそうなテンションではしゃぐ二人を横目に店長に助けを求めようと視線を向けるが、既に店長は奥に逃げたらしく姿はなかった。
「あ、そうだ仲弥くん。ケンちゃんいるかい?」
ケンちゃん、とは店長のあだ名というか愛称みたいなもので店長は基本的におばちゃん達を苦手としているらしい。
「店長ー!!!!お客様がお呼びですよー!!!!!!」
そんなこと知るか。店長は接客側なのだ。
客が呼んでるんだから来い。
「……居留守しろってマニュアルに書いただろ」
「店長どうせ姿見られてるから無駄ですって」
初耳なんだが。なにそれしらない。
というかマニュアルあったのかこの店。
「ケンちゃん。町内会長さんがいいかげん商工会の集まり来いって言うとったよ」
「オヤジ共の飲み会だろうが……」
「だめよ。みんなケンちゃん待ってるんだから」
「いやでも……」
熊がおばちゃんに圧されてる…
何度見てもこの光景には違和感を感じる。逆に見慣れすぎて違和感なんてないと思ってすらいるがインパクトが薄れない。
「店長さんっていつみてもこれですねぇ」
くすくすと笑いながら奈恵がつぶやく。
奈恵もこの光景は見慣れているらしく、いつものが始まったと言わんばかりに慣れた手つきでレジ奥から麦茶を持って出てくる。
こりゃ看板娘ですわ。もはや住んでる。
「お前従業員じゃないだろ」
「女の子にお前、なんてだめよ!」
「……浅野従業員じゃねえだろ」
店長の物言いをすぐに訂正させるおばちゃん強いな。
奈恵と二人で麦茶を飲みながら笑う。
「知ってますよ?私を看板娘扱いしてるの。なら実質従業員です」
店長はため息ひとつついてポケットから出した飴玉をこちらに投げた。
「あ、おいしいやつ」
奈恵の好きな飴玉を把握してるのかと少し驚きながらも受け取って奈恵に渡す。
ころころと音を立てながら飴玉を転がす奈恵を横目に店長の会話に聞き耳を立てる。
どうやら文化祭に商店街からも何店か屋台を出すらしく、そのために商工会に顔を出せということらしい。
どうせあるその後の飲み会でからまれるのが嫌と渋い顔をしながら店長が一瞬こっちを見た。
「重音深じゃだめか?」
「だめよ」
「だめだろ」
「だめです」
三人同時に否定され店長がため息をつきながらカレンダーを見た。
「……予定ねえなあ」
参加が決定してしまったようで、おばちゃんは雑誌の会計をして帰っていった。
「クッソ……」
「諦めてくださいよ。近所付き合い大事ですんで」
「そーですよー」
文化祭まであとひと月あるかどうか。そういや古本集めないとな、と自分らの出し物を思い出す。
「……あそうだ店長。私たち古本市みたいな出し物なので一緒にやりません?」
「それだ」
奈恵の思い付きに店長が乗った。
まあこれなら僕と奈恵が休憩の時に一時的とはいえ閉めないといけない問題は解決だし店長も専門だからほかの屋台手伝うよりは楽だろう。
「そういやお前らの高校ってどこにある?」
「……」
「あー……古本持っていくときに案内するんで呼んでください」
同じ町なのに知らないことあるのか、とちょっと思った。
名も知らぬ誰か様。ブックマークありがとうございます。
他作品も含めて何とか月一投稿を保てております。
それと、とてもとても遅い報告になりますが……てかXでその投稿したからこっちもなんか書けって話ではありますね。
二か月前。そう二か月前です。5月6日に恋愛ジャンルにおいてランクインしました!初ランクインです。
もっと早く報告しろ?すみません。
これもひとえに読んでくださる読者の方々のおかげでございます。これからも面白いと思ってくださる限り応援のほどよろしくお願いいたします。




