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3 自己紹介

 銀髪褐色美少女と言えば聞こえはいいが、美少女というよりもロリっ子に近い。その容姿とは合わない布の服を身につけているのがアンバランスだ。冬斗に敵意を持つ彼女は震えながら冬斗を睨みつけていた。

 冬斗は向けられる目線にたじたじになりながら原因を考えていた。冬斗が思い当たったのはただ一つ。記憶のない時の……勇者としての冬斗がこの少女と知り合っていたのだろうと。ハイネスを知る存在にあった時どうにかして誤魔化そうと考えていた冬斗だが、さすがに親密な関係だった人は誤魔化せないのではと気づいてしまった。


「え、なに? 知り合い?」


 ペトラだけがどちらの考えも知らずにぽかんとしている。これはもしや……ペトラに正体がバレてしまうのではないだろうか。バレてしまう前に自分で言うべきなのか、とも考える。それを言う前に少女の怒りを一度収めなければならない。


「っ、その男は……そいつは! 我の純情を弄んだクソ野郎だッッ!!」


「まてまてまてまて人違いだ!!!」


 髪を逆立てて迫ってくる少女に冬斗は逃げ出したい気持ちになった。喜ぶべきことにペトラに抱きつかれているから逃げることは出来ないが。

 白い歯の隙間から息を吐き出す少女は野生の虎のようだ。


「そもそも初対面だろう。俺はお前みたいなロリっ子には手を出さないし……」


「初対面!? あれだけ、あれだけ暴れたくせに……っ!」


 どうやらこの銀髪褐色美少女は冬斗を許すつもりは無いらしい。ペトラと顔を合わせてため息をつく。ペトラは冬斗から離れるとスプーンを投げつけた。こつんと音がして丸見えの額にぶつかると少女は尻もちをつく。


「落ち着け。お前の敵は勇者だろうが」


「……は?」


「だが! そいつは間違いなくハイネスだ!」


 冬斗の予想通り、少女はハイネスへ怒りを抱いているようだ。それより冬斗が気になったのはペトラだった。勇者は魔王を倒して世界を平和へ導いたはず。それなのにペトラはどうして勇者に敵対しているとなんでもない事のように言えるのか。


「とりあえず自己紹介をするべきだな。ところで、アタシはまだお前の名前も知らないんだ」


 ペトラは初めて会った時のような不敵な笑みを浮かべた。そうだった。ステータス画面を見せたと言っても自分の名前を名乗ってはいなかった。冬斗は少女に向けてステータス画面を回転させる。ベッドに飛び乗った少女を見ながら冬斗は口を開いた。


「俺は鎌田冬斗。勇者じゃない普通の一般人だ」


 冬斗自身は勇者では無いのだから間違ってはいない。だが、ステータスを見ても少女は納得しなかったようだ。


「待て! それならどうしてハイネスと姿が同じなのだっ!」


「ハイネスってのはハイネス=ブレイブのこと……だよな」


「それ以外にいるかっ!!」


「あー、そのハイネスなら俺の知り合いだな」


 冬斗は嘘をつくことにした。きっとこの先もハイネスに似ているという理由で声をかけられるだろう。それならハイネスの情報を求めた方がいい。


「なんだと!?」


 馬乗りになってずずいっと近づいてくる少女に苦し紛れの説明をした。


「ほら俺とハイネスは顔がそっくりだろ? それでハイネスが話しかけてくれたんだよ。ま、すぐに別れたけどな。その後に色々あってここにたどり着いて……ペトラに会ったんだ」


「ふーん……。アタシに会う前にハイネスと会った、ねぇ」


 ペトラが疑っている。誤魔化せるだろうか、と冬斗は汗をかいた。それに対して目の前の少女は説明を飲み込んだみたいだ。馬乗りのまま納得したような顔をする。口角をあげ、少女はステータスを開いた。


「名乗られたのなら名乗り返さねばな! 我の名はライラ=アルビオレ・フォン・ダークフェルト! 偉大なるダークフェルト帝国第一子にして魔王の愛娘である!」


 少女、改めライラが見せたステータスは少し変わっていた。


─────────────────────

名前:ライラ=アルビオレ・フォン・ダークフェルト


年齢:15


レベル:35


職業:前魔王の娘


筋力:80


体力:300


耐性:730(+14106)


敏捷:100


魔力:6800


魔耐:1760(+14106)


スキル:全属性適性、全属性耐性、複合魔法、先読、透視、鑑定、看破、念話、高速魔力回復、高速体力回復、気配感知、魔力感知、熱源感知、毒耐性、麻痺耐性、人化


アビリティ:魔王の愛、父との約束


称号:ファザコン、素直

─────────────────────


 見せなくてよかったと冬斗は思った。レベル三十五でこれなら自分はありえないほどの、異端だったはず。それにしてもライラは完全に魔力重視のステータス構成だ。


「ステータスの見方は簡単だ。勇者などの特殊な職業はステータスの値が四桁を越すが、普通はよくて三桁だな。冒険者だとなかなか高い。時々四桁に到達する猛者もいる。ライラの場合は魔王の娘だからステータスが特殊なんだろうな」


 ペトラがステータスの説明をする。細い指がアビリティ欄の魔王の愛に触れた。新しいウィンドウには魔王の愛の詳細が載っていた。


「魔王の愛。魔王が愛娘に対してかけた祝福。耐性、魔耐に追加数値が与えられる。アビリティはその人だけが持つ特殊能力だから、かなり強い気持ちが無ければ表示されないんだ」


 つまりステータスのプラス値はこの魔王の愛によるものだ。怪我をして欲しくないという父親の気持ちがこもっているのだろう。冬斗の中の魔王のイメージが少し変わった。元々世界を破壊したり、混乱に陥れる存在を魔王だと考えていた冬斗だが、魔王も人と同じようにただ生きていただけではないのか、と思うのだ。そうでなければライラはこれほど父親を大切にしないだろう。二人の間には確かな絆があった。

 日本の家族より余程家族らしい。そうでなければ冬斗はテレビで児童虐待のニュースを見なかっただろう。少し羨ましい気持ちもある。


「この称号っていうのは?」


 冬斗のステータスにも称号があった。勇者の欲望と世界最速。後で確認してみよう、と冬斗は心の中で呟いた。


「これはよく分からん。追加効果があるのかも不明だし……持っている人は極端に少ないな。アタシは持っているが」


 称号は激レア。ということは持っていないのが普通なのだろう。それを持っているペトラはいったい何者なんだろうか。


「ペトラ。お前のも見せたらどうだ? お前だけ見せないのもずるいだろう」


「えー、見せたくないなぁ……」


 どうやらもうライラの警戒心が解けたのか、ライラは冬斗に対して敵意を持っていないようだ。ペトラは表示させたステータスを冬斗の前に移動させる。


 その途端、視界にウィンドウが一つ表示された。


【スキル、“看破”が使用可能です。使いますか? YES/NO】


 使うべきだろうか。悩んだのは一瞬。冬斗はYESに触れる。ペトラのステータスにウィンドウが沈み込むと、矢印と新たな数字が現れた。


─────────────────────

名前:ペトラ=カルセル↔ペトラ=ヘルメ・カルセル


年齢:22


レベル:47


職業:ラファの番人


筋力:580↔5580(-2790)


体力:700↔4800(-2400)


耐性:510↔1400(-700)


敏捷:280↔2100(-1050)


魔力:480↔1100(-550)


魔耐:430↔1800(-900)


スキル:剣術、槍術↔剣術、槍術、馬術、薬物耐性、物理耐性、縮地、先読、看破、体力回復、気配感知、毒耐性、麻痺耐性


アビリティ:


称号:ラファの番人↔ラファの番人、負け犬

─────────────────────


「……ペトラは普通でよかった」


 ペトラのステータスを見て冬斗は安心したように口にした。その反面、実は冷や汗をかいていた。“看破”を使用している冬斗にはペトラの本来のステータスが見えているが、普通の人のステータスとは違ってペトラのステータスにはマイナス値がある。おそらく称号負け犬の効果なのかもしれない。本来の能力値の半分が使えなくなっているが、それでも普通の人よりは強い。


「レベルは九十九で止まるがそれ以外のステータスは微かにだが伸び続ける。スキルやアビリティ、称号も時々だが後天的に手に入れる人もいる。だからいつまでもステータスには変化が起こるんだ」


 本来のステータスが見られていると知らないペトラは、冬斗に色々と教えてくれた。申し訳ない気持ちもあるが、冬斗にはペトラが何者なのかという不信感の方が上回っていた。


「ところで! この後冬斗はどうするんだ?」


 ライラが冬斗に質問する顔は、少し真面目なものだった。

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