番外編 第3話「白蓮の記憶、月下の再訪」
ある月の美しい夜、玲玉は龍帝に連れられて、かつての白家があった場所を訪れた。
そこは今、広大な公衆庭園となっており、市民たちの憩いの場として愛されている。
龍帝は玲玉の希望を聞き入れ、かつての暗い屋敷を跡形もなく取り壊させ、代わりに水と緑豊かな空間へと作り替えたのだ。
二人は変装し、身分を隠して園内を歩いた。
「……あそこです。私の地下室があったのは」
玲玉が指差したのは、庭園の中央にある大きな蓮池だった。
月明かりに照らされた水面には、真っ白な蓮の花がいくつも咲き誇り、幻想的な光景を作り出している。
「今では、あんなに綺麗な花が咲いているのですね」
玲玉は池の縁に立ち、過去を懐かしむように目を細めた。
あの地下室で、たった一人で明日を夢見ていた少年。
自分がこの世に必要のない人間だと思い、死を待つだけだった日々。
龍帝は玲玉を背後から抱きしめた。
「お前の流した涙が、この池の種となったのだ。お前の苦しみは、今こうして多くの民を癒やす美しさに変わった。……無駄なことなど、何一つなかったのだよ、玲玉」
龍帝の温かな言葉に、玲玉の胸に熱いものが込み上げた。
「陛下……。私を、見つけてくださって、本当にありがとうございました」
「礼を言うのは朕の方だ。お前という光に出会わなければ、朕の心は今も凍りついたままだっただろう」
二人は誰もいない夜の庭園で、静かに唇を重ねた。
過去の痛みは、完全に消えたわけではない。
けれど、それを分かち合い、慈しむことができる伴侶が隣にいる。
池の蓮の花が、風に揺れてかすかな音を立てた。
それは、かつての孤独な少年への、祝福の歌のようにも聞こえた。
「さあ、帰ろう、玲玉。お前の帰る場所は、あのおぞましい地下室ではない。朕の待つ、温かな寝所だ」
龍帝は玲玉の手をしっかりと握り、前を向いて歩き出した。
二人の影は月光に照らされ、長く、一つに重なっていた。
もう二度と、玲玉が一人で暗闇を彷徨うことはない。
龍の国に訪れた平和は、二人の愛が続く限り、永遠に守られていくのだ。




